第4話 天才との決闘① 天才は謙虚なのだ
いつもの湖で沈痛な面持ちで二人は水面を見つめていた。
ヴェンとエミリーはただ戦い方を見たかっただけだったのだ。
決して自分たちが戦いとは思ってなかった。成人を迎えたときには決闘を申し込むつもりだったとはいえ、今の実力差は戦わずしてわかっているつもりでした。負けるのはわかっているが、本気で戦っているアイリーンを見るのが重要だったのだ。
今回の決闘の意図は、エミリーがアイリーンに勝って、学院への入学を認めさせるということではなく、アイリーンとの決闘でエミリーの成長を見ることが目的であろう。そこで成長と本気度をトラウトが感じることができれば入学を認めるという流れのはず。
「これじゃ負けは見えてるし、お姉ちゃんは本気で戦ってくれないし・・・・・・」
「最初の勢いはどうしたんだよ! 本気じゃないとしても直接、アイリーンの剣術と魔術に触れられるのはいいんじゃないか。初めての決闘は勝つことではなくて、生き残ることを考えよう」
ヴェンは今回行われる決闘の意義を見つけることに必死であった。
「なぜか二人で挑むことになったし、生き残るというか時間を稼いで、お姉ちゃんの手の内を確認することはできるかもね」
「なんで僕も参加するのかなぁ。それはわからないんだよな」
うーん・・・・・・と二人で悩む。
そもそもこの話にヴェンは全く持って関係がなかった。目的はアイリーンに成人を迎えたあとの決闘で勝つため。今じゃない。話の発端はエミリーのスターズ学院入学の件による親子喧嘩だ。
「考えても全然わからないね! もうやるしかないよ。落ち込んでても、なんにもならないから、明日やるだけだよ」
「エミリーって、雰囲気はすごい落ち着いてるのにしゃべると頭空っぽだよね。魔術得意なのに」
「ギャップ萌え狙ってるの」
馬鹿にしたつもりが全く意に介さないエミリー。そして何を言っているかわからなかった。
「ぎゃっぷもえ・・・・・・? なにそれ」
「お姉ちゃんが見た目と中身が違う人のことをギャップ萌えって言うんだって。まさしく私がそれだから、そのままでいてねってこの前胸もまれた」
「そうなんだねぇ。エミリーはたしかにそうなるとギャップ萌えだね。まあ言ってることと行動していることにつながりが感じられないんだけど・・・・・・」
本当によく妹の胸をもむなとヴェンは思った。
エミリーは先ほどまでの絶望の表情から打って変わって、楽しいそうに水辺で遊び始めた。天真爛漫をそのまま人にしたような、彼女をみているとヴェンはいつも悩み事が消えてしまう、何とかなるような気がする。
思っていた方向とは違うが、これはチャンスだ。どう立ち回るかについてヴェンは思考を巡らせる。
アイリーンは魔術、剣術がともにトップクラス。魔術に至っては攻撃、防御、回復ほぼすべての魔術に精通し、その魔力総量の多さで魔術を連続で使うことが可能なはずだ。魔物を討伐したときは毎回ほぼ一撃なので、実際に魔術を多用していることは戦っている中ではみたことがない。修練では連続で発動させていることが多い。開始早々に防御魔術を展開しつつ、攻撃魔術で遠距離からの攻撃も考えられるだろう。
剣術勝負に持ち込むといっても、彼女は攻めの双剣流、防御の燕舞流二つを習得している。一対一の剣術勝負では勝ち目はない。
そこでヴェンは気づく、だから二人で挑むようにしたのかと。
アイリーンは二人に勝つ可能性を少しでも残すためにヴェンとエミリーで共闘するように言ったのか。単純なことだ。それぞれが全力で挑むのではなく、互いの特徴を生かして戦えばいいのか。簡単なことだ。だからこそ、事前の準備は大事になってくる。
「エミリーって一番どの魔術が得意なの?」
水辺でさかなを探して遊んでいたの中断して、こちらを見る。少し濡れた髪、水にぬれて体のラインが強調されたその姿は性欲が刺激される。
「うーんと、どの魔術もだいたい使えるけれど、水系統の魔術なら無詠唱でもいけるかなぁ」
「水系統ね・・・・・・え、無詠唱でいけるの?」
「無詠唱でいける」
「ミタコトナカッタケド・・・・・・」
驚きの余り、言葉の発声がおかしくなる。
「そっかぁ湖でヴェンと修練するときって、基本的に剣術ばっかりだったもんね。一人で湖で魔術の修練してたら、なぜか無詠唱でできたんだよね。でもさ、お姉ちゃんに比べたら足元にも及ばないし、私は天才じゃないし、誰にも言ってなかった」
満面の笑みでこちらに微笑む。
いや、エミリーも十分天才だよ・・・・・・。
少しだけ勝ち筋が見えた気がした。
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