第2話 人って見た目じゃないよなぁ

 アイリーンに決闘で勝つ。ヴェンは大きすぎる問題に頭を抱えていた。


「そんな毎日のようにため息ついてたら勝てるものも勝てないよ」

「勝てる要素がそもそもないじゃないか」

「前も言ったじゃない。やってみないとわからないって。うじうじしてる男はモテないよ」


 アイリーンがいないときにはエミリーと作戦会議をしているが一向に勝ちがみえる作戦は立案されていない。

 最近は一人で迷宮に挑んだり、何日か首都クレスを訪れ、大図書館で勉強していて、実技だけでなく、知識までもが二人は足元に及ばなくなってきている。ゴブリン討伐以降、なぜか躍起になって研究していた転移魔術も形にし、小さな辺境の村の冒険者は一躍有名になろうとしていた。

 

 転移魔術は物質を任意の場所に一瞬で移動させることを可能にし、物流革命が起こるレベルであった。いま、この魔術が発表されてしまうと、多くの人が仕事を失い、暴動が起きる可能性や、軍事転用も危ぶまれる事態も想定され、新規魔術の実態調査を行っている統治ギルドから発表と利用を止められている状況だった。かくいうアイリーンは首都クレスにいくときは必ず転移魔術で移動している。ばれていないらしい。


「ヴェンの剣術は一流だけれど、魔術がね」

「そうなんだよねぇ」


 決闘は回復魔法陣の中で行われる。致命傷を与えられない限り、傷つけられても回復していき、戦意喪失になった時点で終了となる。傷つくことを恐れず、魔術も剣術もすべて駆使し戦う、これが決闘である。

 決闘の勝敗を統治ギルドは管理しているわけではないが、勝敗は噂を呼び、その勝者の名声へとつながる。アイリーンがSランクの冒険者になったころは決闘の申し込みが絶えなかったらしい。父のトラウトが決闘は断り続け、成人になってから行うようにと言いつけられていたのだ。剣術勝負にもっていくということも選択肢としてはあるが、アイリーンは剣術も一流だ。


「僕が一流だとしてもそれは双剣流で一流ってだけで、アイリーンみたく双剣流と燕舞えんぶ流、二つの流派で師範代レベルってわけじゃないから。剣術勝負にしたって、攻めに長けている双剣流と防御に長けた燕舞流を使い分けるアイリーンに挑むのは無謀すぎる。やっぱり魔術も使わないと」


 八方ふさがりであった。少ない魔力総量で発動できる魔術も限られてくる。剣術勝負にしても実力差は見えている。


「アイリーンの苦手なものってなに?」

「えぇー知らないよ。っていうかほとんど毎日ヴェンも一緒にいるじゃない」

「四六時中一緒ってわけじゃないし。それならエミリーのうほうが知ってるはずだろ」

「うーん・・・・・・そういえばカエルの料理がでてくるときはいっつも嫌そうな顔してた。ヴェンといるときは我慢して食べたふりしてたけど、ヴェンがいなくなってから毎度私に隠してたカエルくれるから食べ過ぎてお腹いたくなっちゃうんだよね」

「カエルが苦手かもしれないって、それだけじゃなにもできないよ・・・・・・」

「だよねぇ」


「とりあえず決闘を想定して修練するか。エミリーはアイリーン役お願いね」


 エミリーは魔術も剣術も相当な腕だ。それはアイリーンに負けじと修練を重ねてきたからではあるが、魔術に関して言えば、魔力総量が人より多く、かなりの実力者だ(グレッグさんが言っていた)。

 なぜこの姉妹の魔力総量が多いのかは謎であるが、一人が保持できる総量を二人は超えているらしい。まるで体の中に二人分いるかのようだ。


 十五歳の成人を前にし、エミリーはますます女性らしく成長している。大きく茶色の目は変わらず人を惹きつけるし、大きな胸があるにもかかわらず、ウエストにくびれがある。足は少しむちっとしているかもしれないが体のバランスを考えればむしろ細く見えるくらいだ。髪は腰まで伸びていてダークブラウンの艶やかな髪。正直言ってとても魅力的だ。


 修練していると突然エミリーが動きを止める。


「修練だけじゃだめだよ。お姉ちゃんが実際にどんな魔術でどんな戦い方をするか見ないとわからない」

「まぁたしかに決闘しているところは見てみたいけど、トラウト村長から決闘は成人してからって言われてるでしょ。それなら僕が決闘を申し込むの遅らせればいいかもしれないけど」

「いやそれはダメ。告白もするなら印象はすごく大事。初めての正式な決闘で負けるって強烈な記憶になると思うの」


「そりゃ勝てれば、だけど」


「正式じゃない決闘で、実力者とやってもらうのが一番いいよね」

「間違いないね。でも、この村にはそんな実力者いないよ」


「いや一人いるよ。私のお父様」


 アイリーンとエミリーの父で村長であるトラウト・ロクサスは元騎士団長である。どれだけ実践から離れているかわからないが実力は間違いない。ヴェンたちが生まれたときには村長だったので少なくとも約十五年は実践から離れているに違いない。


「たしかに適任だけど、決闘なんてやってくれるかな」

「どうするかはこれから考えるわ! とりあえず二人をバチバチにして決闘だっていう雰囲気にすればいいのよ!」


 エミリーの見た目はおしとやかだが、いう事は後先考えないおてんば娘だ。そこに助けられることもあるが。


「アイリーンがバチバチになってるところ想像つかないな」

「けっこうあるよ? しょっちゅうお父様と言い合いになってる・・・・・・」

 エミリーが急に黙り込む。両手で耳を塞ぎ、じっと目を閉じる。


「それだぁあ!」


 大声を上げられ、ヴェンはよろける。


「どういうことエミリー」

「だから、お父様とお姉ちゃんを壮大な喧嘩になるように仕向ければいいんだよ」

「あの二人、喧嘩するの?」

「実はしょっちゅう喧嘩しているんだよね。学院にいくって言ったときも、勝手にドミンゴ王子とお姉ちゃんがやりとりしてたことにお父様が激怒して、あの日は悲惨だったなぁ」


 そんなことがあったのか、まだまだ知らないことがあるんだとヴェンは思った。


「で、どうやって喧嘩させる?」

「それは・・・・・・」


「でたとこ勝負で!」

 人って見た目じゃないよなぁ

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