第14話 ゴブリンの記憶 残滓にアイリーンは何を思う
アイリーンは首だけとなったゴブリンを見つめていた。
「このゴブリンはイヴァゴブリンだよね」
ヴェンは先ほどの泣き顔からすでに凛とした顔つきになっている。今までゴブリンからの攻撃に耐え続けていたのだ。体のダメージは相当なものだろう。歩くこともままならない。自分がしっかりしていなかったから、自分の過去に固執してしまったせいだ。自分の殻に閉じこもり、現実から目を背けることでしか息を吸うことだできなかった。しかし、ヴェンとエミリーのおかげで立ち直ることができた。いや、まだ完全に立ち直ったわけではない。囲まれてしまうと前世の記憶がフラッシュバックしてしまう。
それでも、一歩を踏み出すこと、どんなに逆境でもあきらめない姿をみて、変わらなければと思った。ヴェンには感謝するほかない。
「たしかにそうかもしれない。ゴブリンの中でも進化した個体がたしかイヴァゴブリンっていうよね。そんなことよりもヴェンいま応急措置だ」
アイリーンはヴェンに向け両手を広げる。薄緑の光が両手から発せられ、ヴェンを包み込む。一瞬ヴェンの体が浮いたと思うと、出血している部分の傷はふさがり、骨折によって腫れ上がった指も腫れが引いていく。
「と、終了。とりあえずは応急措置的な回復魔術だから、村に戻ったら要安静ね。魔術よりもやっぱり自分の回復力の方がすごいし、大事」
「ありがとう」
「お姉ちゃんもヴェンも生きててよかったよぉ」
エミリーが二人を抱き寄せる。ひと時の幸せ。生きててよかったと噛みしめられる時間であった。
「帰りますか! ヴェンはエミリーを連れて先に迷宮から離脱して。私はこの失神しているバカ王子を連れて帰るから。あとちょっとだけ調査してくる。もう大丈夫だから」
「わかった。この部屋に入った時にみたアイリーンとは表情が違うから、その言葉信じるよ。じゃ僕らは先に戻っているね」
ヴェンはエミリーの肩を借り、迷宮区から離脱していった。
アイリーンは再び地面に転がってるゴブリンの頭部を見つめる。思いつめた表情で右手の人差し指で何度か顎をたたきながら頭部の周りを歩く。
このゴブリンの前世は日本人だったのだろうか。あきらかに日本語で話していた。今まで転生者と出会うことはなかった。小さな村だ。中々出会えるわけでもないだろう。
Sランクの冒険者になり、度々、迷宮区攻略に駆り出されたとしても出会えなかった。もっと、人の多い場所にいって情報を集めるしかない。
そして、今回のゴブリンは進化したイヴァゴブリンと思われる。ヴェンの質問には軽く受け流したが、あの子は勘がよいから気づいているかもしれないただのイヴァゴブリンではないということに。このゴブリンの記憶を探りたい。学んだ魔術の中には記憶を掘り起こすような魔術はなかった。しかし、脳に働きかける、混乱を招くような魔術はあった。応用できないだろうか。
この世界の魔術は、創造できる。私がいままで生きてきて出した結論だ。この世界の人たちは先人たちが作り出した詠唱、魔法陣を使い、魔術を使っている。
じゃあ先人たちはどうやって作り出したのか?
起源について言及している書物はなかった。自分が試してきた結果、原理を理解し、イメージが確固たるものであれば無詠唱で魔術を作り出すことは可能なのだ。ただ大規模な魔術、威力の大きい攻撃魔法や、時間や時空に干渉する、現在あるもの以外に干渉するときに使う魔力は膨大であり、使える魔術には魔力総量がかかわることもわかった。
この世界の住人の大半が無詠唱で魔力を使えないのはイメージ不足であり、魔力不足なのだ。
私は引きこもりが功を奏し、多くのラノベから知識を得ていたためイメージ力は問題ない。そして、なぜか魔力もこの世界の人たちより2倍以上の魔力総量らしい。よくわからないがありがたや。
問題はこのゴブリンの記憶をどう引っ張り出すかだ。
脳に接続するイメージ、海馬にアクセスする、電気信号を読み取る・・・・・・。
イメージしろ。
ゴブリンの頭に手を向けるものの、一向に魔術は発動しない。
「あんまりやりたくないんだよなぁ一人だとしても。中二病みたいなんだよなぁ」
アイリーンはぼそっとつぶやく。イメージしきれないなら、言葉に発し、脳に訴えかけることがさらなるイメージ確立につながる。
勉強方法にも読むだけではなく、音読することでより定着率があがる。イメージを定着させるために詠唱することは魔術発動への重要なファクターになりうる。彼女は新たに魔術を作り出すときは基本的には詠唱することが多いのだ。周りには無詠唱で魔術を発動できる魔術師として知られているので、こっそりやっている。
「ふぅ・・・・・・やるか」
再びゴブリンの頭に手を向け、唱える。
「
詠唱するとアイリーンは灰色の光につつまれ、そのまま意識を失った。
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