第4話
それから、ぼくは放課後になるとぼくは悠花のピアノをよく聞くようになった。悠花の弾くピアノの曲はどれも知らないものばかりだったけれど、それを聞きながらスマホをいじくったり、持ち込んだ小説を読んだりすることは悪くないと感じていた。ただ悠花はピアノの先生についているなどいろいろと忙しいようで、来週は火曜日と金曜日に行くね、などとLINEを寄越すようになっていった。
別に断る理由もないし暇だったので足を運ぶと、悠花が必ずやってくる。そして自分のクラスメイトのことや勉強のことなどをひとしきりぼくに話しかけたのち、ピアノの台に座る。
たまにふとピアノの音が止まり、
「高瀬くん、何読んでるの」
と聞いて来たり、
「今日の数学のテストどうだった?」
と声をかけてきたりする。ぼくは準備室に置いてあった椅子を適当に引っ張り出して猫背になって本を読んでいるから、
「ん?」
などという気の抜けた返事から始まってしまう。
「普通だったかな」
そう答えると、
「え~。私全然できなかったよ~。こんど教えて?」
と言ったりする。悠花は数学だけが苦手だった。自分はどれをとっても同じような平均より少し上の成績で、わざわざ教えられるようなことはないが、だからといって他人にものを教えることのできる状態でもない。
「授業聴いて宿題やってるだけだよ」
「それが凄いよね!私授業聴いてもサッパリわからないもん。高瀬くん、教えてよ~」
ピアノの前に座っている悠花が子供っぽく身体をぶんぶんと揺らしている。
「今度ね」
「あ、今絶対面倒くさいなって思ったでしょ」
そんなことないよ、という声もあまり説得力がなかったかもしれない。とにかく、準備室の中で悠花はぼくにしゃべりかけてきた。ぼくは決まった時間に準備室にスマホか漫画を持って行くし、愛想も悪いのに楽しそうに話しかけてくる。屈託のない笑顔を見るとこちらも無視するわけもいかなくなって、つい返事を返してしまう。自分が考えるにお世辞でもその返事は愛想がよいと言えない。
ぼくがその状態なのに、悠花は準備室に来るなと言わないばかりか、楽しそうに話しかけてくる。全く分からない。
いや、そもそもぼくがなんで準備室に足を運ぶのかも今一つ分からないか。
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