運命
中間テスト後の席替えで事件が起きた。
くじで最後列を勝ち取れたのはもちろん嬉しい。友達が近くにいて楽しい。でもそれ以上のことが。
「あれ?席ここ?隣だね」
「うん。そうみたい」
彼女、倉本紫織が隣に越してきた。両腕で抱えていた荷物を俺の隣に置いた。
「私たちいつも席近いよね。前も近かったし、名簿だと前後でしょう。そう思うと凄くない?」
彼女がスカートを撫でて静かに、隣の席につく。トントンと机で教科書を整えてから引き出しの中にしまった。
「そうかな」
「そうだよ!きっと私たち運命なんだよ」
「…そうかな」
彼女は嬉しそうに言った。最後にこてんと首を傾げ微笑む。
軽々しく人の気持ちを弄んで、ずるい人だ。
「好きなのどうぞ。隣になったお祝いね」
彼女は意外にも他の女子と同じように飴をたくさん持ち歩いていて、それらを巾着袋に入れているようだった。差し出された巾着袋の中から赤色を選ぶ。
いちご味。それが一番多く残ってたから。
帰り道、こっそり食べた。
彼女からいちご味をもらったと誰にも知られないように。
▽
それから、隣の席になった彼女は想像していたよりもずっととんでもなかった。
毎朝、いや、いつも甘い香りがする。近くで見る爪が小さくて綺麗だった。何かにつけて飴を渡してくる。
彼女がいろんな味が混ざった巾着袋を広げて、俺は決まって赤色を選ぶ。
「君もいちご好きなんだ」「いつも選ばれるからわざと残してるんだよ」と彼女は笑う。やっぱり袋の中は赤色が特別多い気がした。
そして、前よりもっと目が合う。
授業中は頬杖をついて堂々と見つめてきて、視線に耐えきれず振り向いてしまえば最後。見てきたのは彼女の方なのに俺と目が合った途端口に手を当てて恥ずかしそうに笑う。それをされる度爆発するような熱に覆われた。彼女の耳も赤い。
反対に俺が彼女を見る機会は減った。
斜め後ろの時は彼女の背中が焦げて穴が空くほど見つめてもバレなかったけれど、隣だと全てバレてしまう。
せっかく好きな人が近くに来ても、なかなかチャンスをものにできないでいた。
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