彼女
風鈴
プロローグ
倉本紫織。彼女はいつも綺麗だった。
涼し気な奥二重。すっと通った鼻筋。横に薄く伸びた唇。幼さの残る少し鋭い歯。すとんと真っ直ぐ下りた黒髪。細く長い手足。柔い曲線を描く背中。
誰もが羨む人。俺は、遠くから見てるだけで十分。彼女の隣に並べるなんて思わない。それはきっと、優しくて冷静で、落ち着きと教養(とお金)のある年上の男。
彼女はきっとそんな人に選ばれるし、そんな人を選ぶ。
でも、彼女を諦めようと思えば思うほど彼女は俺を掴んで離さない。
斜め前の席に座る彼女は厄介だった。
プリントを配る時、ペアワークで隣同士話し合いをする時、休み時間に友達と話してる時。わざとこっちを向いて俺の目を見る。
目が合うと恥ずかしそうにはにかんで、逸らして、また見てクスクス肩をすくめて笑う。合わせた目をそのままにじっと見つめられる。ウインクをしてみたり、二本指でハンドサインを送ってみたり、もうやりたい放題だ。
その目を見つめていられるほど純粋な俺ではないのに。
目が会わないよう下を向いて過ごした日は、くしゃくしゃに丸められた付箋が飛んできた。「無視しないで、私を見て」って。簡単に言うなよそんなこと。
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