第5話 【ASMR】膝枕"妄想"温泉街デート
SE鬼怒川、川のせせらぎ。
#台詞に被りながら、ゆっくりフェードアウトしていく。
日向
「さて。体も心もリラックスしたところで……湯者さん。覚えてる? ここは、あたしの地元・鬼怒川温泉だよ。」
「あー? ひょっとして、こんな大事なことを忘れちゃうくらい、あたしの声に夢中だったー?」
「えへへ……。それはそれで嬉しいけど、鬼怒川温泉の温泉むすめとしては、地元の温泉を活かしたプログラムも欠かせないよ。」
「これもね、彗ちゃんと環綺ちゃんに相談して色々考えたんだ。」
「あたしはねー、やっぱり温泉といえば卓球でしょ! って思ってたんだけど、勝負事はやめなさい、って言われちゃった。」
「まー、100パーあたしが勝っちゃうからねー。にひひっ♪」
「逆にね、鬼怒川温泉のうんちくをずーーっと、学校の授業みたいにひたすらしゃべり続けて、湯者さんを眠りにいざなおうってアイデアもあったんだけど……。」
「せっかくのふたりきりでやることじゃなさすぎるー! って、環綺ちゃんがすごい顔してた。」
「おまけに――『それはつまり、日向は学校の授業で寝てるってことね?』って彗ちゃんにバレちゃってー! もー大目玉だったんだからーっ!」
「……授業って寝るよね? 湯者さんも分かるでしょ? ぜったい彗ちゃんが真面目すぎるだけだもん……。」
「湯者さん♪ 湯者さんはあたしの味方だよねー♪」
「って、また脱線! いけないいけない。」
「えー……、こほん。」
「というわけで、次のプログラムはたいへん苦労してひらめいたものとなります。」
「卓球じゃなくても、湯者さんと一緒に体を動かしたい、っていう気持ちと、湯者さんにはぼーっとあたしの話を聞いてもらって、眠くなったら寝ちゃってもらいたいっていう気持ちを同時に満たせるものになって……る、はず!」
「では湯者さん。ちょっと失礼するね。んしょ……よいしょ……。」
#膝枕する日向
#彼女の声も、上側から聞こえてくる。
日向
「うん。これでよし。」
「えへへ……。どう? 膝枕だよ。ふたりきりなんだからロマンチックに、って言われた時、これしか思いつかなかった♪」
「…………。」
「な、なんだろ、この感じ……。プログラムなのに……なんかムズムズして……は、恥ずかしいってことなのかな?」
「あたし、膝枕って、したこと、ないし……。湯者さんが、初めて、だし……。」
「ゆ、湯者さんは目ぇつむってて! 大事なのはこれからなんだから!」
「えっと、今からね。あたしがこの声で、湯者さんを鬼怒川温泉デートに連れてってあげる。」
「あたしの声と、湯者さんの想像の中だけの、特別なデート……。」
「疲れてたら、途中で寝ちゃってもいいし……最後まで、ぼーっと聴いててくれてもいいよ。」
「さっきみたいに、突然耳元でささやいたりはしないから……安心して、体の力を抜いててね。」
「……。」
#以降、絵本の朗読のように優しげに。
日向
「……待ち合わせは、鬼怒川温泉駅。」
「がたん、ごとん……。がたん、ごとん……。と、電車に揺られてやってきた湯者さんを見つけたあたしは、いつもよりおめかししてるの。」
「普段は動きやすい服ばっかりだけど、今日はかわいいスカートに、ヒールのついた靴なんかを履いてたりしちゃって……。」
「電車を待ってる間も、『湯者さん、どう思うかな?』『似合うよ、って……褒めてくれるかな?』なんて、らしくないことで頭がいっぱいになってるんだろうな……。」
「ね、湯者さん。湯者さんは褒めてくれる?」
「それとも、からかってくるのかな?」
「えへへ。あたしだって、デートの日くらいはおめかししますよーだ。」
「でも、おかげで気が楽になったりして。」
「あたしは湯者さんの手を取って、鬼怒川の町に歩き出すの……。」
「天気は、もちろん晴れ。」
「『絶好のお散歩日和だねー』とか話しながら、あたしたちは……そうだなー……やっぱり、鬼怒川の川沿いに向かおっか。」
「鬼怒川の流れに沿って、温泉街を歩いてくとね、色んなところに鬼の像があるの。」
「ほら、鬼怒川って、『鬼が怒る川』って書くでしょ? だから、温泉街のマスコットも鬼なんだよ。」
「駅から少し歩いて、温泉街の入口にいるのは、『立ってる鬼』って書いて、『立鬼(りっき)』。筋肉モリモリで、鬼怒川温泉の入口を守ってるの。」
「ふむ……。」
「思ったんだけど、あたしと湯者さんだったら、あたしが湯者さんを守る方かもね♪」
「ほら、あたし強いし! 何かにつまづいたらささっと支えてあげるし、変なヤツなんてボッコボコにしてあげる!」
「湯者さんは毎日頑張ってるからねー。あたしといる時くらい、気ぃ抜いてもいいんだよ?」
「『立鬼(りっき)』の像から南に行くと、次は『楯鬼(たてき)』っていう鬼がいるんだけど……。」
「デート的に大事なのは、途中で渡るおっきな吊り橋が……『縁結びの橋』……な、ことなんだよね……あはは……。」
「あたし、そーいうの全然信じたことなくて……どこにでもあるなー、とか思ってたんだけど、いざデートってなると……やけに気になっちゃって……。」
「湯者さん、一緒に渡ってくれる……よね? ね?」
「ま、拒否権はないよ! 嫌って言っても引っ張ってくもん! 覚悟、決めてね? 一応言っとくと……橋。高いよー?」
「そのまま橋の先にある縁結びの鐘を一緒に鳴らしたら、温泉街にいる『定印鬼(じょういんき)』と、『遊心鬼(ゆうしんき)』っていう鬼のきょうだいのとこに戻るの。」
「近くに足湯があって、あたしたちはそこで一休み。」
「イメージできるかな? 靴と靴下を脱いで……歩きっぱなしだった足を、あったかいお湯に入れて……じわ~~っと疲れが溶けてくあの感じ……。」
「あはは! いいよね~!」
「ただねー、ひとつ問題があって。」
「あたし、じっとしてるの苦手だから、ぜーったい、湯者さんにちょっかい出すよ。えい、って湯者さんの足、蹴ると思う。」
「湯者さんも蹴り返していいよ? 全部よけて、カウンターで突っついてあげる♪ こんな勝負でも負けたくないもんね♪」
「それでね、その足湯からもっと上流に行くと、『思惟鬼(しいき)』っていう、鬼怒川温泉の未来を考えてるらしき鬼の像があって、そのもうちょっと先には『半跏鬼(はんかき)』っていうもう1体がいるの。」
「これで、『鬼怒川温泉・鬼めぐりデート』は終わりかな。このあたりは少し静かだから、いっぱい話しながら歩けるね。」
「どんな話しよっかなー。」
「やっぱり、さっき言った鬼の像にちなんで、あたしたちの未来の話かな?」
「……なーんてね。」
「あたしたち温泉むすめって、普通の人とは違って変なしがらみが多いからなー……。あたし、未来のことはあまり考えたくないんだよね。」
「確かなことは……今、こうして、あたしの膝の上で、湯者さんがあたしの話を聞いてくれてること。」
「っていうか、人の頭って結構重いんだね! あたし、足痺れてきたかも……。」
「…………。」
「……あたしたちは『楽しかったけど疲れたねー』なんて話しながら旅館にチェックインして、温泉でゆったりしたあと、この部屋に戻ってくるの。」
「それで、湯者さんとのデートはおしまい。」
「すっごく長かったような……一瞬で終わっちゃったような……不思議な時間。膝枕も、ここで終わりだね。」
#膝枕終わる。
#少し間があってから、通常に戻る。
日向
「はい! 湯者さん! どうだった?」
「実際の鬼怒川温泉で今のコースを歩くとー、かかる時間は……そうだなー。3時間くらいかなー。」
「それだけ歩くと、足がヘトヘトになっちゃうね。お疲れさま♪」
「あたしは歩き慣れてるし、体力には自信あるからそのくらいへっちゃらだけど、今回はヒールっていう想定だからなー。」
「あたしの足も、湯者さんと同じくらいパンパンになってるかも!」
「今回は頭の中でデートしたけど、今度はホントにデートしようね、湯者さん♪」
《第6話へ続く》
★mimicle(ミミクル)にて配信中★
『ASMRボイスドラマ 温泉むすめ あなたになら甘えられる鬼怒川日向』(CV・富田美憂)
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