【三人称一元視点】の場合

 これは意外と難しかった。

 うっかりすると、主人公以外にスポットライトを当ててしまいそうになるからです。


————————


 稲村誠司、45歳。お酒が大好きで、大柄な体型のおじさんだ。


 詳しい事情は省くが、彼は今、海岸にいる。

 ——一時的に人間になった、猫たちと。


「よおおー!! 来たかぁ、ダイモス!」


 ダイモス。元は茶トラ猫だ。だが今は海パンを身につけた、若い男の姿。

 筋肉隆々の上半身を自慢げに見せながら歩いてきたダイモスに、稲村は声をかけた。


「おう、いなちゃん! 早く泳ごうぜ!」


 ダイモスは稲村の手を引っ張る。よほど泳ぐのが楽しみだったらしい。

 待て待て、着替えさせろよ……。

 苦笑する稲村。大急ぎで更衣室へ向かった。


 着替えを済ませ、海パン姿になった稲村。

 たまった腹の脂肪が揺れるのが気になる。あまり見られたくはない。

 視線を気にしながら、ビーチパラソルのある場所へ向かった。


「……お? マーズも来たかぁ! 早く着替えて来いよ!」


 元はキジトラ猫の、マーズも到着していた。まだ着替えておらず、赤いTシャツに短パンを身につけ、茶髪をハーフアップにした男性。見た目は20代後半。

 あまり海は好きではないのだろう。だるそうに大あくびをしている。


「ふああ……俺は泳ぐつもりはないな。ここで日光浴させてくれ」


 テンションの低いマーズに対し、すでに波打ち際でバシャバシャやっているダイモス。


「日光浴ー? つまんねえ奴だなあ!」


 稲村はマーズの腕を掴み、ダイモスがいる場所へと駆け出した。


「お、おい! 俺は水は苦手……」

「ガハハ! いいじゃねえか、人間になったんだから大丈夫だろ!」


 稲村は笑い声を上げる。マーズが「うわああ」と声をあげようとも気にしない。

 稲村は3人で一緒になってはしゃぎたいのだ。


 飛沫をあげ海水にダイブする稲村、巻き込まれるように水に沈むマーズ。

 ダイモスは「遅えぞ」とでも言いたげに、水飛沫を思いっきりぶっかけてきた。


 潮の匂いが心地いい。


「おらおらー! ガハハ!!」


 子供の頃、同じように同級生と海ではしゃいだ記憶が蘇る。


「うわ! やったなダイモス! おりゃ!!」


 マーズは嫌そうな顔をしつつも、ダイモスに水をかけ返していた。なんだかんだで、楽しそうじゃないか。

 一緒になって水を掬い上げ、はしゃぐ稲村。すっかり浮かれた気持ちになっていた。


 学生の頃を思い出すぜ。後で飲むビールが楽しみだ——。


 ♢


 楽しい時間は、経つのが早いものである。日は西の方へと傾き始めていた。


 ふと海岸を見ると、道着を身につけた茶色い髪の、男の姿。

 元は空色模様の猫、ソアラだ。

 かなり遅れての到着である。が、彼は何を思ったのか、そばにあった瓶を開け、グイッと飲み始めたではないか。


 アイツ! ビールを1人で勝手に飲んでやがる!!


 稲村は大慌てで水をかき分け、海岸へと戻っていく。


「ああ、俺の楽しみがぁぁ……!」


 ビーチパラソルのある場所へ着いた時には、3本あったビール瓶が、既に空っぽだった。

 


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