【実験】視点を変えて同じ物語を書いてみた

戸田 猫丸

【一人称視点】の場合

 単純に書きやすかったです。主人公の感情を表現しやすい。

 が、制約も大きく、表現できる範囲や主人公以外の心理描写に限界を感じます(・ω・`)

 

————————


 俺は稲村誠司だ。毎日とにかくビールが飲みたい、45歳のオヤジだ。


 詳しい事情は省くんだが、俺は今、海岸にいる。

 一緒に泳ぐ約束をしてる奴らがいるんだ。

 聞いて驚け、それは一時的に人間になった、猫たちだ!


 とか言ってたら、早速、来ているようだぞ。声をかけてみよう。


「よおおー!! 来たかぁ、ダイモス!」


 ダイモス。元は茶トラ猫だ。だが今は海パン姿の若い男の姿。上半身は筋肉隆々だな。なかなかやるじゃんか。


「おう、いなちゃん! 早く泳ごうぜ!」


 ダイモスは急に俺の手を引っ張る。よほど泳ぐのが楽しみだったんだろうな。

 待て待て、着替えさせろよ……!

 俺は奴の手を振り解いて、大急ぎで着替えることにした。


 で、海パン姿になったのはいいんだが、たまった腹の脂肪が……。

 あまり見られたくはねーな……。

 とりあえずビーチパラソルのところへ戻るか。


 ん? あそこにいるのは、もう1人の人間になった猫か? まだ着替えてないみたいだな。


「お? マーズも来たかぁ! 早く着替えて来いよ!」


 元はキジトラ猫の、マーズだ。

 長くて茶色い髪に、赤いTシャツと短パン姿が似合うイケメン野郎だ。

 なんだ、海は好きじゃないのか? だるそうに大あくびなんかして。


「ふああ……俺は泳ぐつもりはないな。ここで日光浴させてくれ」


 マーズの奴、砂浜に寝転んじまった。テンション低いなあ。

 ダイモスの奴は、すでに波打ち際でバシャバシャやってるってのに。


 ようし。


「日光浴ー? つまんねえ奴だなあ!」


 俺はマーズの腕を思い切り掴んだ。そのまま、ダイモスがいる場所へと走ってやる。


「お、おい! 俺は水は苦手……」

「ガハハ! いいじゃねえか、人間になったんだから大丈夫だろ!」


 水が苦手? 知ったことか。

 俺はお前らとはしゃぎたいんだ。「うわあああ」とか叫んでるが、気にしちゃいられねえ!


 ザパァァァン!!


 いやー、気持ちいい!!


 やべえ、若干鼻に水が入った!


 顔を上げたら、ダイモスが「遅えぞ」とでも言いたげに、水飛沫を思いっきりぶっかけてきやがる。上等だ。ぶっかけ返してやる。


「おらおらー! ガハハ!!」


 ハハハ、潮の匂いが気持ちいー!!

 子供ん頃、同じように同級生と海ではしゃいだっけ。懐かしいな……!


「うわ! やったなダイモス! おりゃ!!」


 ハハ、マーズの奴も、嫌そうな顔しながら結構楽しんでんじゃねえか。

 俺も負けねえぞ!!


「おりゃー!! 喰らえ! マーズ、ダイモス!」


 学生の頃を思い出すぜ。後で飲むビールが楽しみだ——。


 ♢


 時間が経つのが早いなあ。日がだいぶ西に傾いてる。

 俺はふと海岸に目をやった。

 ビーチパラソルのところにいるのは、茶色い髪をした道着姿の男——元は空色模様の猫、ソアラだな。

 やっと来やがったか。


 ……って、アイツ! ビールを1人で勝手に飲んでやがる!!


 俺は夢中で水をかき分け、ソアラの元へ向かった。


「ああ、俺の楽しみがぁぁ……!」


 ビーチパラソルのところへ着いた時には、3本あったビール瓶が、既に空っぽだった。

 ソ、ソアラめえええーー!!

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