第41話 淫乱

「その後、お身体の調子はいかがですか」

「あ、もう大丈夫です、バイクありがとうございました」

 深は、京都駅前のホテルの一室にいる。

 倫子から電話が来たのは、事故から二週間ほどが経った金曜日だった。


「ほんとに電話が来るとは思いませんでした」

「どうして?」

「倫子さんに、悩み事があるとは思えなかったから」

「そんなことないですよ、私だって」


 医学部教授の娘で、一族のほとんどが医者、ご本人も医学部の学生。別にお金と地位が人生のすべてではないが、やっぱり深から見れば悩みがあるようには思えない。


 まず取りあえず写真撮ってください。それから話をします。

 今日の倫子さんは、いかにもお嬢さんというような白のワンピース姿だ。

 背中のファスナーを器用に下げると、すとんとワンピースを足元に落とした。


 中は薄いブルーの上下、あくまでもお嬢様だ。

 でもちょっと驚いたのは、ブラジャーが、最近売り出されたばかりのフロントホックだったことだ。

 そういえば、萌が欲しいなあと言っていた。


 窓辺で、椅子に座って、深も慣れてきたのか悩まずにポーズを付けることができるようになってきた。

 カップの間に、人差し指を入れ、ぱちんという音とともにホックを外すときれいな形の胸が現れた。


「やっぱり恥ずかしい」

 手で隠す姿をパチリ。

「後ろ手に組んでこっちを向いて」

 さすがに正面を見るのは恥ずかしいのだろう、斜め下に視線を移すのが素敵だ。


 後ろを向いてパンティーを下ろす手が止まった。

「私だけ脱ぐのは恥ずかしい」

 だろうと思った、大体みんなそう言う。だからいつ言い出すかと待っていたところがある。


 自分から「脱ぎましょうか」とは言えない。

「わかりました、俺も脱ぐんでその間にパンティー脱いでください」


 上から下まで、手入れの行き届いた、たぶんお金のかかった体だ。深の身体を見て視線をずらす。

「あれ、初めてですか」

「授業で写真とかは見たことあるんだけど、こんなまじかで実物は」

「いや、そのつまり、男性経験は」

「ないの、だから見せるのもあなたが初めて」


「見せるだけですか?」

 シャッターを切りながら、深は押してみた。

 倫子がはっとした表情を見せる。

「手をどけて、こっちを向いて脚を開いてください」

 椅子に座った倫子がおずおずと脚を開く。


「私、誰の子供かわからないの」

「は?」

 倫子は下を向くとぽつりと言った。


「父には兄と弟がいるの、みんな家庭があるんだけど……」

 思いもよらぬ家庭の話が出てきた。

「それ俺に話してもいいの?」

「今日逢ってもらったのはそういうこと」


「母はみんなと付き合っていて、そればかりじゃなくて、祖父とも」

 おいおい、それはいかに何でも。

「聞いたの?」

「ううん、でもみんなの様子を見てたら」

「ご家族はそれでぎくしゃくとかしてるの?」

「それはなさそう」

 よく分かんない話だ、ふつう一人の女性の取り合いとなれば仲良くとはいかないはずだ。


「倫子さんがそれを知ったのは?」

「中学生の時」

「ずいぶんおませな」

「ええ、それで、母みたいになりたくないって、自分にも淫乱な血が流れているのかって」


「一度経験すると羽目を外してしまうんじゃないかってこと?」

「だからこの年まで処女のまま、でも、結婚して初めてとなったら、それから淫乱の血に目覚めたら」


「だから、俺を選んだわけですか」

「ごめんなさい、やっぱりそんなの嫌ですよね」

 倫子は立ち上がると下着をつかんだ。


「いいえ、全然、喜んでお相手します」

 これは人助けだよね、自分と萌にいいわけした。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る