第37話 と、いうことがあった

「引っ越しちゃったんだよな」

「うん、私たちがいかなきゃ誰もなっちゃんのこと」

「ごめんね」


 神代奈都くましろなつ、小学校の時三人でよく遊んだ、その彼女が交通事故に遭ったのは小三の時だ。

 二人にとって、初めて人が死ぬということを、痛烈にわからされた事件だった。

 遊んでいても、もう彼女がいないとわかっていても、つい彼女の名前を呼ぶ、彼女を探すということをしていた。


 それがいつしか彼女のことを忘れてしまっていた。

「じいちゃん、あそこに行けば話せるの?」

「いや、もう無理だ。あれは残像で、彼女はもう向こうの世界に行っている。」

「そうなの? それって成仏してるってこと」

「まあそういうことかな」

「よかった」


「じゃ、どうして写真に写ったの」

「誰かが、引っ張り出したってことじゃないかな」

「まさか、」

 萌が何を考えたか、深はすぐにわかったというよりたぶん同じことを考えた。


「でも彼女にしたって、当時まだ高校生ぐらいじゃないの」

「誰か関係者が?」

「直接当たってみるか」

「あってくれるかな」


「今更写真を撮ったっていうことは、彼女ずっと悔やんでるんじゃないかな、どうせもう時効だし」

「そうかもね、ほんとにそうだったとしても、いまさら私たちがどうこうって話じゃないし」


 西城さんは訳を聞かずに土御門さんに話を付けてくれた。

 断られても仕方がないと思っていたが、簡単にOKをもらえた。

 場所は彼女の要望で仕事場にということになった。


「えーっと、話したいことがあるって聞いたんだけど」

物集女もずめの地蔵のことで」

 ほんの少し、土御門の顔色が変わった。

「ああ、あの地蔵、それが?」


「神代奈都は、私たちの幼なじみなんです」

「そっか、やっぱり撮らなかった方がよかったのかな」

 認めたようなものだった。

「何があったか話してもらえますか」


「私が中三の時、両親が大げんかしたのそれで何の弾みか、お母さんをお父さんがバットで殴って」

 予想していた展開とは違うが、それはそれでショックな話だと深は思った。

「お父さんたぶん怖くなって車で逃げたんだよね」

 土御門さんはそこでちょっと目頭を押さえた。


「学校から帰ったらびっくりしたわ、お母さん頭から血を流して倒れているし、お父さんいないし、もうパニックよ」

「お父さんは?」

「そのまま行方不明」


 なんということだ、おそらくその逃げる途中に。

「私もそう思う」

 萌が頭の中に話しかけてきた。

「お母さんの葬式終えて、そのあとで神代さんのことを知ったの。多分うちの父親が犯人だと思うけど、わからない」

 土御門さんもそう思ったのだ。


「だから、せめて」

「写真撮ったんですか」

「なにもわからなかったけどね」

「これ、神代奈都、です」


「私この子知ってる」

「え?」

「何回かあったことある」

「どこで」

「どこでって、この前もここに来てくれたよ」


「いつも頑張ってくください、応援してますって言ってくれる。そういえばいつもこの服で、ふっと現れて、いつの間にかいなくなってる」

「本当に応援してくれてるのかも」

「そういえば、一度私の代わりに頑張ってくださいって言われたことがある。不思議なこと言うなあって思ったけど」


「私も萌ちゃんみたいなこと深ちゃんとしてみたい。絢子ちゃん、体貸して」

ふいに声が聞こえた、懐かしい奈都の声だった。










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