第36話 幼馴染
「うちの孫の嫁は厳しいなあ、たまには自由にヌードぐらい撮らしてくれよ」
萌が来るたびに、カメラが愚痴る。
「叩き壊されたい?」
萌は萌で、カメラを空中に投げ上げてはじいちゃんを脅す。
ここんところお約束になっている光景だ。
「萌がとればいいんじゃないの?」
「へ?」
「あ、」
萌とカメラが同時に叫んだ。
自分で言いだして深もそう思った。
「そうだよ、俺助手に回るから、萌がとればいいじゃん」
「そのあとの方は」
「それは、まあ」
「何が、それはまあよ私が問題にしてるのはそっちなの」
「まあ、それはお前たちで何とかしろよ」
結局話は変わらない。
「あのさ、西城さんがさ、写真展を見に来ないかって」
「何の?」
「知り合いで、女性の写真家がいるんだって」
「ヌードの」
「ちがうよ、なんか仏像とかだって」
地元の放送局の一階ギャラリーということで、萌と深は連れ立って出かけた。
「相変わらず仲がいいわね、なんか意地悪したくなる」
「西城さんそれシャレになんないから」
「本気だもの、ね、深くん」
萌の目が鋭くなる。
「西城、若い子からかってどうするの、ったく」
「今日はようこそ、お二人のうわさは、西城から聞いています」
今日の主人公、土御門絢子だ。ウルフカットにジーンズの上下、彫の深い顔はちょっと日本人離れしている。苗字は日本的なのに、外国の血が入っているように見える。
萌が脛を蹴った。
なにすんだと言いかけて深はやめた。きっと自分が例によってバカ面をしているんだろうと気が付いたからだ。
「ゆっくりしていってくださいね」
彼女は西城と連れ立って、他の客のところに挨拶に行った。
周りを見ると、そこそこの数の客が来ていた。
「彼女有名人なのか?」
「うん、私も詳しくはないんだけれど、写真界では期待の人みたいだよ」
どうせ二人に仏像などわからない、ただ被写体にあたる光と影の切り取り方が深のような素人とは全く違うことはわかる。
そんな深が、一枚の写真の前で立ち止まった。
「これ、」
「うん」
二人には、覚えがあった。
その地蔵はある交通事故の結果作られたものだった。
もう十年近くになる。二人の友人だった女の子が、ひき逃げにあって亡くなっていた。
いまだにその加害者はわかっていない。
「行ってみようか」
「うん」
翌日、二人は地蔵の前にいた。
「なっちゃん、久しぶり、ごめんね、ずっと来なくて」
「おい、写真撮ってくれ。嫁が横に立って」
「誰が嫁よ」
カメラの声に、萌がむくれながらも嬉しそうだ。
カメラに言われるままに、写真を数枚とった。
「なあ、じいちゃんが言うってことは、それはつまり」
「多分そうだと私も思う、ほんの少しだけれど、背中が寒かった」
帰って二人で暗室に入り現像をした。
ネガの時点で、わかってはいたけれど、印画紙に焼き付けると、それは一層鮮明になった。
「なっちゃん、ずっとそこにいたの?」
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