第27話 なぜか婚約

 そんなことがあって一か月ほどたったころ、深は萌から相談があると言われた。

 彼女らしくない深刻な顔、とてつもなく嫌な予感がする。

「ねえ、深は私のことどう思う」

 深の部屋に入るなり、彼女は口を開いた。きた、定期的にこの話題が来る。最近深は気が付いた、彼女は女の子の日が近づくと、不安になるのだ。

 でもそれぐらいじゃここまで深刻な表情にはならない。


「どうしたの、急に」

「あのね、お母さんに言われた、あんたたちどういうつもりなのって」

「え」

「嫁入り前の、しかも高校生がって、叱られちゃった」

 だよな、そうだと思う。というか普通の親ならそう思うだろ。


「で、言っちゃったんだ、大学出たら結婚するって」

「え、え、いやまあ多分そうだろうけど」

「え、なんか困る?」

「困らないけど」


「なんてね、嘘。お母さんに最近どうなのとは聞かれたけど、うちの親、放任だし、深はわりと信用あるんだよね」

 おどかすなよ、心臓止まりそうになったぞ、深がそう言おうとしたときに、へやの扉が開いた。


「そうね、私もそう思う、とりあえず私から萌ちゃんのお母さんにお話しする、いずれ深と一緒にさせてくださいって」

 え、深とそれ以上に萌がびっくりした顔をした。そして彼女は急に泣き出した。

「そんな、そんなこと」

「もちろん萌ちゃんが、この馬鹿をずっとそれまで想ってくれたらだけど」

「母さん、何を急に」


 いつもはチャラチャラした母親がいつになくまじめな顔をした。

「あのね、おじいさんが夢に出てきたの。馬鹿みたいな話だけど、ふたりの話をはっきりさせてやれって。それが、あの人も同じ夢見たんだって」

 じいちゃんいらんことを。

「馬鹿者、いい加減にきっちり話だけはしとくものだ」

 突然頭の中に普段と全く違う厳しいカメラの声が響いた。その剣幕に深と萌は背筋を伸ばした。


「あのね、お父さんが、こんど法務省に行くの。もちろん単身赴任だけど、私も学会やなんかで向こうに行くことが増えそうなの、そうしたらあんた嵌め外すでしょ」

 そうかそういうことか。だから形だけでもはっきりさせようということなんだ。


 深の母親は行動が早い、萌の母親に話を通し次の日曜日に深の父親の宿舎で、簡単な婚約式を行ってしまった。

 萌の両親の夢にもじいちゃんは出たそうだ、最初はだれかわからずにびっくりしたらしいが、不思議とすんなり話を受け入れられたという。


 写真を撮った、もちろんじいちゃんのカメラで。

「子供だけは気を付けるように、きちんと責任が持てるまでは」

 深と萌は真ん中に座らされこんこんと説教された。

 まあそれでも、両方の親は物分かりがいいと言えばその通りだろう。


「そういえば、緑ちゃん、一種試験受かったんだって?」

「あら、ご存じでした」

「ええ、緑ちゃんから」

「警察庁受けるつもりらしいです」

「お父さん、それ緑から聞いたの」


「警察どうかなって相談を受けて、頑張れって言ってやった」

 深の両親、萌の母親、そして深と萌もなぜかほっとした気になった。

 萌の父親と緑の不仲を知っていたからだ。


 「よかった、今日はなんか嬉しいな、よし飲みましょうか」

 萌の父親の提案に深の父親ももろ手を挙げて賛成した。

「母さん寿司とオードブルいつ来るんだ」

 最初から宴会の予定だったのか、署長と、支部長検事、こんな昼間から飲んでいていいのか?

 ま、ともに優秀な部下がいるからいいのだろう、父親二人はなぜか嬉しそうだった。





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