第26話 手錠を

 制服姿の留美は、いたずっぽく笑顔を浮かべると、バッグの中をごそごそと探った。

「使ってみようよ」

 取り出したものは手錠だった、しかも桜のマークが入っている、本物だ。


「大丈夫なのそれこそばれたら」

「大丈夫、私物だから」

 どういうこと? 深には意味が分からなかった。

「共済会ってのがあって、売ってるの。あげるよ、深くんに」

「いいの?」


「わいせつ物陳列罪で、現行犯逮捕」

「はい、手を出して」

 カチャッと手首に手錠がかかる。

「やっぱりドキドキするね、手錠掛けられたら」

「でしょ、どーしよっかな」

 留美は唇を舐めた、ピンク色の舌がなまめかしい。


「犯しちゃおうかなあ」

 ベッドに座ると制服のスカートをゆっくり持ち上げ始めた。

「はいだめぇ」

 見えるか見えないかギリギリのところで手をはなす。

 その中身はさっきもう見ているのに、シチュエーションが変われば、やっぱりドキドキする。というより男は馬鹿だなと思う。


「あれ、これ抜ける?」

「うん、完全にかけてないから、掌を丸めるとぬけるはずだよ」

「いてて、無理、鍵貸して」


「知ってる?手錠の鍵って全部共通なんだよ」

「そうなの? 日本中の警察全部?」

「うん、警察だけじゃなくて、司法警察員って人が使うの全部」

「鉄道公安官とか、自衛隊の警務隊も?」

「よく知ってるね、そんなこと、さすが検事さんの、あっ」


 話に夢中の留美の手首に、深はかちゃりと手錠をかけた。

「はい逮捕」

「え、捕まったの、私」

「うん、で速攻判決」

「被告本間留美は、服部深にあと二回貫かれること、ただし一回は制服のままで行うものとする」


「裁判長控訴します」

「棄却する」


「やだぁ、変態」

 言いながら留美は、ベッドの上に仰向けに寝転んだ。両手はボタンを外す邪魔にならないように万歳をしている。


 留美は一度脱いだ下着をちゃんと付け直している。制服の上着のボタンを外し、なかのワイシャツのボタンも外すとベージュのブラジャーが見えた。上にずらす。

「なんか強姦されてるみたい、不安」

「みたいじゃなくて強姦するんだ、生で入れるよ」

「え、うそ、やだ、だめ」

 留美は本気で逃げようとしたが、手錠の拘束は彼女の自由を思いのほか奪うらしい。


「うそ、ドキドキした?」

「やめてよほんと、心臓止まるかと思った」

 深は留美に、コンドームを渡した。


 結局、留美とはあと二回して別れた。

「で、結局彼女の悩みは何だったの?」

 バイクの音を聞きつけたのだろう。けったらすぐ玄関のチャイムが鳴った。

「知らない、それくれて、後は元気に帰って行ったよ」


「大丈夫なの、それで」

「大丈夫だろう、愚痴が言いたかっただけみたいだぞ、彼女はそれほど深刻にものを考えない」

 カメラが言う。


「なにそれ、言い方ひどいなあ」

「仕方がないだろう、やりたかっただけみたいだぞ、というより、それで何かを変えてみたかっただけかもしれん」

「なんで深を使うのよ」

「あとくされないからじゃないか、一応人間的に確かだし」

「いい迷惑だわまったく、ね、深」


「う、うん。そうだな」

「三回もやっといて迷惑もないもんだ」

「あ、それは」

 カメラのタレコミに、萌の目が吊り上がった。




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