第22話 次の方
「くそじじい、深が危ない目に遭ったらどうするつもりだったんだ」
萌がカメラに向かって怒鳴った、はたからみれば笑える話だ。
「大丈夫と行ったろうが」
「じいちゃん、涼子さんが、幽霊だってわかっていたの」
「当たり前だろう」
「じゃあ、なんで」
「もう一人の女、なんて言ったか」
「こころさん」
「ああ、そうそう、あの子が闇を抱えていたから、可哀そうになってな」
結局、心の闇を開放するために、深と萌は幽霊と付き合うことになってしまったらしい。
「でも、写真、ちゃんと撮れているのに」
「そりゃあ、わしが」
「スケベだから、さすが深のじいさんのことはある、血は逆らえないってね」
「待てよ、それどういう」
「やったんでしょこころさんと」
「そりゃ、ほら、彼女を助けるために」
「ふん、私にも二回ね」
「おいおい年寄りの前でなんて話を」
「壊してほしい」
「いいえ、まったく怖い嫁だ」
深と萌は、またまた新しい女性とかかわることになった。
彼女は本間留美、警察官だ。
河原町の喫茶店で待ち合わせをした。制服しか見ていなかったので彼女の顔を覚えてはいなかったが、何となく雰囲気で。ショートヘアに化粧っ気のない顔。目つきは鋭いが、鼻筋の通った美人ではある。
こころが釈放されて一週間が過ぎている。
こころは結局のところ、涼子の事故に何の責任もないことがわかり、無事放免されている。
そもそも所轄の上賀茂署が、実況見分で事件性なしとしていた事案なのだ。こころは事故当日涼子と仲たがいをしており、自分が何かバイクに細工をしたに違いないと思い込んでしまった。それが彼女の心の闇となっていたのだ。
実はそれ以前にもブレーキオイルを抜く、タイヤをパンクさせるということをしたことがあったという、彼女に対する嫉妬が原因だったらしい。
それが遠因になっていたのだと本間はいう。
「すみませんでした、何かお騒がせさせたみたいで」
「いいえ、いいんですよ。あのままほっておけば遠からず、彼女は自ら死を選んでいたような気がします。お二人は見て見ぬふりをせずに、彼女を救ったんですよ。立派です」
「それと、これは、一切口外しないでください、彼女たちの大学で男子学生が一人行方不明になっているんです。今回のことでその学生と高野涼子の間に接点があることがわかりました」
「それって」
「はい、一応一課が動くことになりました」
「深泥池、に、ですか」
「わかりませんが」
深と萌は顔を見合わせた、涼子が、そう思うと暗い気持ちになった。せめてあっちで仲良く暮らしてほしいと思う。
「それはなんとかなるかもな、ありゃあ心中だ」
カメラな今日もリュックの中だ。
「じいちゃん知ってたの」
「なんとなくな、それよりこの子、やっぱり悩み抱えているぞ。惚れ前に来た刑事、あいつの名前を出してみな」
「そういえば本部の一課に市川美樹さんっているじゃないですか」
萌の言葉に本間はさっと顔色を変えた。
「ご存じなんですか?」
「萌は昔から、俺はつい最近別の事件で」
「さすが、いろいろ事件とかかわってられるんですね、ドラマの探偵さんみたい」
ちらっと皮肉に聞こえる。そりゃまあわかる、素人に口を出されていい世界ではない。
「いえ、たまたま向こうから」
「そうですね、現に私もこうやって」
慌ててフォローをしたところを見ると自分でも、ちょっとかわいくないと思ったのかもしれない。
「彼女、同期なんですけど、さっさと。それに比べて私は」
この話で行くと、結局また。
「ああ、ヌードとまぐわいだな」
いらないこと言うなって、また萌が怒るじゃないか。
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