第23話 制服警官の悩み

 本間留美、確か制服の階級章は銀色の台座に星が二つ。つまりは巡査長たる巡査ということか。

 市川美樹は巡査部長、まあ星が一個多いだけだが、この差はでかい。そこらはテレビドラマでも説明してくれている、かなりいい加減な解説もあるけれど、まあそれはどうでもいい。


「私なんか、部長試験も通らないし、いまだに地域課だし」

「あの、別に地域課でもいいんじゃないですか、うちの父も地域課に結構いましたよ」

「そうなんですか、署長になるんだから、刑事か公安かと」

 深は少しばかりおかしくなった、警察内部の人の意見とは思えなかった。テレビドラマでしか警察を知らないような。


「市川さん、刑事になんかならなきゃよかったって言ってましたよ」

「なんでですか、一課ですよ一課」

 マジかと思った。

「どこでも一緒だと思いますよ、ガキがこんなこと言うのなんなんですが、本間さんはなんで偉くなりたいんですか? あ、刑事が偉いって意味じゃないですからね」


「それは、偉くないよりはえらい方が暮らしやすいじゃないですか、階級社会なんだから」

「でも、どこまっで行っても上はいますよ」

「それは、そうですけど」


「中村が言ってたんです、服部さんに話を聞いてもらって救われたって」

 深は萌の顔を見た。何とも言えない表情をしている。

「ほら人助けだから、やらんわけにはいかんだろうが」

 カメラが口をはさみ、萌が面白くない顔をする。もちろん本間には聞こえない。


「救われただなんて、本間さん彼氏とか応援してくれる人いないんですか」

「いましたけど、彼が、あ、新聞記者なんですけど、いつまでも巡査なんかの女いらないって」


「ひっどーい、何それ、そんな男こっちから振ってやればいいの」

 萌がぶち切れ気味に言う。

「それもあって自分が情けなくて、せめて試験でも合格すれば」

「わかった、わかりました。深くんお話を聞いてあげなさい、私が許す」

 いかにも泣き出しそうな本間の顔に萌は耐えられなくなったに違いない。なんだかんだ言ってこいつはこういう奴だ。

「お、さすが俺の孫娘、男前」

「誰が孫娘よ、ばか」

 萌のそういうところが好きだ、深は彼女の手を机の下でそっと握った。

 ちょっと驚いた萌だったが、しっかりと握り返してきたのが嬉しい。


「ちょっとはお力になれるかもしれません」

 本間の顔が輝いた。

「本当ですか、なんといっていいか、お礼の言葉も」

「気が早いですよ、まだ何も」


「お礼なんていりませんよ、でも、ヌード写真撮らせてやって」

「お、おい」

「どうせ言うことになるから私が代わりに言ったんじゃない。第一私の方がいやらしくないでしょ」

 そりゃあ、確かに自分が言うより、萌が言う方がいいかもしれないと深は思った。

「えーっと、私なんかのヌード撮ってどうかなるんですか」

「その、私なんかが治ると思います」

 萌は、実はこの手のうじうじした話が嫌いだ。

「その代わり深の言うことを疑わないで、何でも従ってください、どんなことでもです」

 萌いいのか。と聞くのはやめた。









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