第21話 こころの心の闇は

 黄昏時の深泥池、最初は夜明け前という話だったのを、深が逢魔が時と言われる時間に変更してもらったのだ。

 京都現存する最古の天然池、氷河期のころからの植物がまだ残っていると聞いた。

 さすがにこの時間にくる奴はいないだろうと思ったら、意外と人がいる。

 肝試しか怖いもの見たさか、暇な奴らとは思ったが、自分もそうだと気が付いた。


 四サイクルの体に響く低音。こころがやって来た。

 ちらほらいた人がライダーが女性と知って振り返る。

「お待たせ、来てくれたんだ」

「どうしてこんなところに、って思いましたけど」

「野外で撮るのに、ここなら人がいないと思ったんだけど、意外といるね」

「有名ですからね、そういうの好きな人も多いし」


「ここで脱ぎますか?」

「さっすがに、無理、かな」

「うちに来る?」

「涼子さんは?」

「やっぱりね」

 こころは、思い切り暗い表情を見せた。

「そういうことか、だからここって言っちゃったんだ」

「行こう、家についたら話すよ」

 こころは、池に向かって手を合わせると、こころはセルを回した。


「あのさ、最初から不思議だったんだ、萌ちゃんも深くんも、ずっと涼子のこと話してたよね。なんで、どうして涼子のこと知っているの」

 どうしてって、法隆寺で会ったじゃないですか。

「ああ、あの時はつい聞き流してたけど、私一人だよ」

「嘘ですよ、やだなあ、スズキのナナハンに乗ってて、岐阜出身の」

「そっか、見えるんだ。あのね、聞いて。彼女ってすでにいないんだ」

 深はこころの言いだしたことが、理解できなかった。法隆寺でもこの前も涼子さんは確かにいた。


「去年の冬、彼女なぜか一人で深泥池を見に行ったんだ。それで帰り道に道路が凍結していて」

 深は背中がざわざわするのを感じた。それじゃ今までのことは、萌と二人で幻を見ていたということか。


「それでもみんな涼子を見るんだ、いなくなってしまっても」

「ね、私魅力ないかな」

「いいえ、素敵ですよ」

「嘘、じゃあどうしてみんな涼子ばっかり、私も見てほしい、抱かれたい」


「ちょっと待ってください、涼子さんは」

「涼子の話はやめて」

「お願い、私を抱いて。そしたら私、ちゃんと」

 こころはそういうと、ライダースーツを脱ぎ捨て、深に抱きついてきた。


 萌ごめん、深はこころの唇を受けた。

 こころは深から離れ、彼の手を引くとベッドの上に誘った。


熱い時間が過ぎた。


「ね、話してくれる、涼子さんの事故について」

「なにも、ないよ」

 こころの眼が泳ぐのがわかる。

「何があっても、こころさんの味方です。胸の中の吐き出した方が楽ですよ」

 深は一呼吸おいて続けた。

「萌が言ってました、自暴自棄になりかけてるみたいって」

 こころが突然泣き出した。

「大丈夫です。俺がついてます」

 深はこころの小さな背中をゆっくりとさすり続けた。


「と、言うことなんだ、お父さんに連絡して、来てもらって、うん女性がいいな」

 美咲に電話をしてきっちり十分後に女性の制服警官が男性警官とともにやって来た。

「早川署長から連絡をいただいた、本間と坂口です」

「お疲れ様です、後はよろしく」

「えーっと君は」

「服部深と言います。舞鶴地検支部長の長男です、怪しいものではありません」


 あまり父親の名前は出したくないがこの際は仕方がない。ああだこうだ聴かれるのはごめんだった。

「深くんありがとう」

 つきものが落ちたかのようにこころの目は穏やかになっていた。





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