第20話 呼び出し
「ね、どうして昨日、涼子さんとしなかったの?」
背中の萌が大声で聞いたのは、ちょうど信号待ちで止まった時だったので、歩道にいた中年男性がぎょっとした顔をした。
「馬鹿」
「ごめん、だって」
「伏見稲荷に行ったら話す」
帰り道にちょっと遠回りだが、鳥居が並ぶことで有名な、伏見稲荷に寄っていくことにしていたのだ。
駐車場にバイクを止めて、参道を歩く。
「あのさ、前にカメラが言っていたけれど、俺に写真を撮られる、俺と寝る人は何か抱えているみたいなんだ。今回はねるまえにかいしょうした、そう思ったんだ」
「彼氏さんの話?」
「うん、単なる行き違いで、彼女は俺と寝たら絶対後悔する、そう思ったんだ。それと」
「それと何?}
「萌がいるのに、そんなことできない。お前の寝顔めちゃ可愛かった」
「ありがと、うれしい」
「でもさ、となると、もう一人は」
「こころさんか、わかんない。なんにしても教祖様としては奥方である萌さまを悲しませたり、嘘をついたりはしないから」
「ばか」
「教祖様か、かもね」
そこで、前は言葉を切った。
「お姉ちゃん、何となく変わった。前は何処か父さんたちに反抗的で、それが最近ちょっと昔みたいに家でも笑うようになった」
「多分それは俺の」
「俺の何、あんまり言ってると噛み切るからね」
深は萌の肩を抱いた。萌は人目もはばからず深の腰に手を回す。神聖な参道で何をしているんだか。
縁結びの神様もいるから、神様はあんまり面倒なことを言わないかもしれない、ということにした。
ちなみに伏見稲荷は商売繁盛、家内安全だ。
「こころさんの後ろに乗ったでしょ、この前」
「うん」
「上手なんだけど、ちょっと怖かった。深は臆病者だから、結構引くじゃない運転も」
おい、いくら彼女でも行っていいことと悪いことがるぞ、空手部の副主将に対して臆病者とは。ただ、事実ではある。
「彼女突っ込んでいくのね、ちょっとヒヤッとした」
それが、彼女の持つ闇なのか。
「私が後ろに乗っていることに気が付いてか、後はおとなしくなったんだけど、なんか自暴自棄っていうか」
知っている限り、そんな感じは抱かなかったが、萌の感覚もまたちょっと情人離れしているところがある。
「なら、彼女からは」
「多分連絡が来る」
「なあ、俺が教祖で、萌は巫女か。二人で占い師でもやるか」
「ま、ろくな死に方しないだろうけどね、そんなことしてたら、神罰があたって」
やっぱりというか、萌の予言通り、こころからの電話が来たのは翌日の夕方だった。
「明後日の朝、野外で写真を撮ってほしい、日の出前に『深泥池』に来てほしいというものだった。
「はあ、明け方に深泥池、そりゃ誰も来ないだろうけど、大丈夫。そのまま」
深泥池とは有名な心霊スポットだ。タクシーに乗った幽霊の話は京都市民ならだれでも知っている。
「心配するな、わしがついている」
「あ、そうね、あんたも化け物の一種だったね」
「相変わらず失礼な小娘だな、ひ孫の母親でなければ」
「はいはい、冗談さておき、じいちゃん深をお願いします」
「任せておけ、ただ深一人だ、お前は家で無事を祈っておれ」
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