第14話 タンデム
「おい、自分ばっかり楽しんでいないで、次の女を探せよ」
例によって夢の中でカメラが命令する。
「普通の高校生が、そんなに女性を見つけられるわけがないだろう」
「どこか出かけろよ、何のためにバイクがあるんだ」
「萌、ツーリング行かないか」
「いいけど、なんで」
「せっかくヘルメット買ったんだから」
カメラに言われたなんてことは絶対に言えない。
「どこ行く」
「日帰りだよね」
「萌さえよければ泊りでもいいけど」
「多分絶対に無理だと思う」
「だよね」
「明日香にでも行く」
「うん」
「弁当作ってね」
次の土曜日、深は萌を後ろに乗せ明日香に向かってバイクをとばした。
といえばカッコいいが、飛ばすとは程遠い制限速度ギリギリの、のんびりツーリングだ。
こうして走ると結構ライダーに遭う。みんな手をあげていく。
後ろから二台のナナハンが抜いていく。
「女性だね」
「萌が大声で言う」
「そうか、わからなかった」
「髪の毛がなびいてたよ」
深たちを追い抜いたとたんにアクセルを全開にしたのだろう、爆音を残してあっという間に姿が見えなくなった。
追いかけようという気すらなくすほどの差。
「はやいなあ」
「いいよ、私らはのんびり行こうよ」
「そうだな」
法隆寺の駐車場で深たちはさっきのナナハンを見つけた。
「よくやった、次は彼女達だ」
「聞こえた?」
「うん、聞こえた」
どうやら萌にもカメラの声は聞こえるらしい。
「帰ろっか」
「そんなことは許さない、言うことを聞かないと」
なんか、偉そうだな、カメラ叩き壊しちゃおうか。
ぎくっという気配がした。
「待て、待ってって、いいじゃないか、俺は苦労して、お前が楽に暮らせる基礎をつくったんだぞ、頼みを聞いてくれたら、これから先の少しでも力になるから」
じいちゃんなのか。このカメラについているのは。
「残留思念というか、それでもいろいろ相談には乗れるぞ」
「深にはいいかもしれないけどさ、私には何かあるのおじいちゃん」
「今はない。でも考えてみろ、深が幸せになるというこおてゃお前も幸せになるということだろう」
「なんで」
「なんでって、お前は俺のひ孫を生むからさ」
深と萌は一瞬意味が分からなかったがすぐに何を言われたか悟った。真っ赤になった萌を航はめちゃくちゃ可愛いと思った。
「ほんとにそうなるの?」
「俺を大事にすればな。俺の声が聞こえるのが、深とお前だけというのが証拠だとは思わんか」
「んー、なんかなあ。深はみんなとやっちゃうからなあ」
「ほらそれは、俺の望みということで、曲げて、頼む。俺のひ孫はかわいいだろうなあ」
結局うまく丸めこまれたようなものだが、萌が納得すれば真に問題はない。
拝観料を払って入った法隆寺。五重塔はさすがに壮観だ。
「あ、君たちさっきのお二人さん?」
ライダースーツの女性が二人声をかけてきた。
「高校生かな、たんでむいいなあ、妬けるよ」
「タンデム? ってなんですか」
深と萌が声をそろえて同時に聞いた。
ライダースーツの女性が顔を見合わせて笑った。
「そっかあ、オートバイも初心者なんだ。ごめん笑って、二人乗りのことだよ」
「なんかいいなあ、お姉さんちょっと君たちのことが気に入った。どっかで一緒にお茶でも飲もうか」
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