第12話 萌は別格
「誰もいないって、おばさんは?」
「今日からお父さんのところに行った、娘よりは亭主が大事だって。なんか色々つくって出かけた」
萌のお父さんは単身赴任だ、というより署長になれば官舎に住まねばならない。ほぼ単身赴任になる。
この家を買ってから、住んだ期間は何年あるのだろう。それは深の家も同様だけど。
「緑さんも出かけたの?」
「うん」
「だからって」
「姉さんとしたでしょ」
深は言葉に詰まった。なんでばれた、緑が話したのか、それはないと思う。じゃあどうして。
「見てりゃわかる。夢に出てきた人が教えてくれた」
夢に出てきた人、それはカメラの……。
「なんで、私じゃなくて、姉さんなの、私の方が深が好きなのに」
「諦めようと思って、今日を最後にしようと思ってバイクに乗せてもらった」
「でも、今日ずっと一緒にいて思った。気持ちに終わりはない、深が好きなの」
萌はそういうと深に抱きついた。
「だいてよ。処女をあげる。私もみんなと同じところで勝負がしたい」
深は力の限り萌を抱きしめた。として彼女の体を押した。
「なんで、私のこと嫌いなの、子供だから?」
「ちがう、俺は誰よりもお前が好きだ、だから」
「だから、何、じゃあ、どうして他の人と、姉さんと」
「わたしをみてよ」
萌はワンピースの前ボタンに指をかけた。
「カメラのせいだ」
「信じないだろうけど、あれはカメラがさせていることなんだ。カメラが撮りたい女を操っている、緑さんもそうだ」
萌は指を止めた。
「夢に出てきた?」
「たぶんそうだ、俺がお前を気にしているから。お前が撮影の邪魔になるから」
「じゃあ私も撮って」
「それでいいのか、カメラの操り人形で」
「違うもん、私は自分の意志で、深に撮ってほしいの、抱いてほしいの」
「お前を抱いても、多分カメラの意志には逆らえないよ」
「いい、邪魔はしない。その代わりカメラに言いたい、一生、深は私のもの、いい、わかった?」
はたから見れば馬鹿な話だろう、でも、萌の言いたいことは深には十分すぎるほど伝わってきた。
深は萌を再び抱きしめた。
下から見上げる萌の唇に唇を重ねた。みどりは震えていたが覚悟の違いだろうか、萌は深をしっかりと受け止めた。
考えてみれば萌の部屋に入るのはこれが初めてだった。
「へへ、昨日から片づけてた」
いたずらっぽく舌を出す萌は、やっといつもの彼女に戻ってくれていた。
机に、ベッドに、小さなラジカセ、そして本棚。おいてあるものは深の部屋とあまり違いはないが、色やデザインがいかにも女の子の部屋という気がした。
何せ本棚のコミックがマーガレットコミックスだ。
「シャッターが落ちないや」
「どうして、カメラの分際で私を撮りたくないっていうの」
「その女には悩みも何もない、写真で変わることはない」
萌がきょとんとした顔をした。
「聞こえた?」
「うん」
「そういうことか、萌には撮られる理由がないんだ」
「私の悩みは深だけ、か」
萌はワンピースのボタンを全部外した。
「カメラじゃなくて深の目に焼き付けて」
腕を後ろにまわしてホックを外すと肩からストラップを落とした。
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