第9話 緑は

「そうなんだ、じゃ、じらしてあげる」

 緑はTシャツを脱ぐ。

 白のなんてことのないブラジャー、しかも着こなれている。そのくたくた感が逆に生々しい。


 ホットパンツのボタンを一つずつ外していく。茶と白の縞模様のパンティーがちらちらと見える。

 すとんと足元に落とす。上と下のアンバランスが、週刊誌で見るグラビアとは違う。名実ともに近所のお姉さんのヌード、焼き付けて売ったら売れるだろうなあと思う。たぶん緑のお父さんに、よくて逮捕、悪くすりゃ拳銃で射殺されるに違いない。緑と萌のお父さんは娘が可愛くて仕方がない人なのだ。


 つまるところ、今、緑とこんなことをしてることがばれたら、只じゃすまないはずだ。少し前の深なら絶対できないことだった。

 それが、カメラを手にしてからは明らかに変わったと思う。

「それも脱いでもらえますか」

「いやだ」

 拒否されるということを、まったく考えていなかったので、深は言葉に詰まった。


「脱がしてくれなきゃいやだ」

 そういうことか、いいですよ、その話乗ります。

「萌とは別れて」

 ブラのホックに手を伸ばそうとした手を、深はとめた。


「だめ?」

「その交換条件には乗れません」

「なんで、私より萌の方が大事ってこと、なんか悔しいな」


「緑さんも好きだけど、萌とどっちかをってのは嫌です。どっちかを取れって言われたらどっちとも悲しいけど別れます」

「ふうん、そっか。って、私たちまだ付き合ってないよね」

 緑はそういうと笑った。


「ごめんもう意地悪言わないから、深くんが脱がして。キスして」

 深は緑の体を抱きしめた。あれ、緑さん震えてない?

 唇を重ねたとたんに歯が当たった。

 確信した、深の方が先輩だ。そう思うと余裕が出てきた。


 ブラのホックを外す。ストラップを肩から落とす。

「乳首おかしいでしょ」

「そんなことないと思うけど」

「ほんと?」

「奇麗です、写真撮りますね」

「してからじゃないの」

「処女の時の取りたいでしょ」

「え、私処女じゃ」

「そんなこと言ってると、いきなり入れちゃいますよ」


 緑はぶるっと震えた。

「ばれちゃった、そうだよ、今まで逃げてた」

「どうして」

「だって大学生にもなって処女なんて」

「いいとおもいますけど、俺、最近のフリーセックスって好きじゃないんですよね」

「こんなことしながらそれを言う?」

「これはカメラのせいで、俺の意志じゃ」


「私とするのも?」

「うーん、わかりません。緑さんのことは、昔から嫌いじゃないけど。おねえさんすぎて」

「たった四っつじゃない」

「中学の時は高校生、高校生の時はもう大学生だし、なんか憧れですよね」


 緑は下を向いている。

「緑さんは最初の男俺でいいんですか」

「私、昔から深くんのこと好きだったよ」

 こんどは深が黙り込むことになった。


「できなくなっちゃった?」

「すみません、いったん仕切り直しませんか」

「私のこと嫌いになった」

「ううん、だから悩んじゃってんです」


「とりあえずしてほしい、萌とのことはそのままでもいい」

 そこまでいわれたら……。









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