第8話 次は

「ねえ、この前、美樹さんが来てたでしょ。何してたの」

 家の前でバイクの手入れをしていたら、緑が話しかけてきた。


「やらしいことしたでしょ、萌に話そうっかな」

「なんもしてませんよ、ほら事件のことで聞きに来ただけです」

 何か声が上ずっている、自分でも怪しいだろうなあと思う。

「その事件もそう。その犯人の女と何してたの」

「やだなあ、緑さん。どっから出てくるんですか、その発想」


「あのね、覚えておいた方がいいよ。女には何となくわかることがあるの、小娘の萌にはまだかもしれないけれど、お姉さんにはオ・ミ・ト・オ・シ」

 そういうと、緑は深の手を取り自分の胸にあてた。

 見た目以上に大きいのかもしれない、深の手のひらにはちょっとばかり余った。

「この女はやれるよ」

 カメラが前に囁いたのを思い出した。


「萌は」

「友達と河原町。服買うとか言ってたよ、深くんと行けばいいのに。ま、下着買うのにボーイフレンドとじゃ無理か」

「誰もいませんけど、来ますか」


「誘ってくれるんだ、嬉しいな。私処女じゃないよ」

「えーっと。それはセックスしてもいいけれど、って前提ですか」

「そんなこと、言わすわけ。なかなかデリカシーがないことで」

「すいません、駆け引きできるほど大人じゃないんです」


「そうだよね、そんな駆け引き覚えられたら妹の貞操が、あ、どっちにしろ、そのうち君のものか」

 緑はそういうと航の家の玄関を開けた。


 緑は、四歳歳上の大学生。姉妹なのにこれほど違うかと思うほど、自由奔放で色っぽい。

 美人だし、頭もいい。ほぼ勉強をしている姿を見た覚えがないが、現役で京大の法学部に合格している。


 深の同級生たちは、彼が緑と話をできることだけで、許せないと騒いでいる。

「深くんの部屋でする? それともここでする?」

「どちらでもいいですけれど、セックスの前に、写真を撮らしてください」

「写真? やだなあ、写真写りよくないから」

「大丈夫です、カメラが緑さんを撮りたいって言うんですから」

「カメラが? それって比喩の話、それとも」


「信じられないかも知れませんが」

 深はじいちゃんのカメラの話をした。

「これが、この前の事件の犯人と、美樹さん。自分で言うのもなんですけど、素人の写真じゃないですよね」

 テーブルに数枚のモノクロ写真を拡げた。


「これ深くんが撮ったの? 現像とか焼き付けも」

「カメラが選んだ人です。緑さんもカメラは指名しました」

「萌は」

「残念ながら」


「まだ子供って言うことか。深くんとそうなったら撮りたいって、カメラも言うかもね」

 深もそうかなと思っている。

「深くんのおじいさまは、撮らなかったの?」

「アルバムに一枚もありませんでした。時代が時代だったし、職業柄」


「学校の先生だったっけ」

「あれ? 話しました?」

「君から聞いたか萌からか。それが、そのカメラなの、触っていい」

「へ―変わってる、上からのぞくんだ」

 緑は、カメラを深に向けたとたんに小さな悲鳴を上げ、カメラを落としかけた。


「うそ、怒られた。男をとる趣味はないって」

 冗談でしょ、言いかけて深は言葉をのんだ、緑の顔は笑っていなかった。

 いよいよ本気でカメラに操られているのかもしれない。まあ、それはそれでというかすでに後戻りはできないのかもしれない。


「どうしよう、ぱっと脱ごうか、それとも」

「カメラは順々が好きみたいです。おかげでフィルム代が」









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