第6話 美樹の訪問

「すみません、お忙しいのに」

 深は市川美樹の顔を見るなり頭を下げた。

 真紀のことで、思い出したことがあると電話をしたのだ。もちろん真っ赤な嘘だ。

 家に来てもらう日時は、深から指定した。母親が父親のところに行き家を空ける日を選んだのだ。


 美樹の都合はわからなかったが、検事の息子が呼び出したのだ、きっと何があってもやってくると深は思っていた。

 急に萌が来ることのないよう、彼女には市川が来ることを伝えた。ただ、市川から話を聞きたいと言ってきた。副署長の娘がいると気を遣うだろうから、と言い含めた。


 夜に女性が来るということで、萌はふくれっ面をしたが、まあ状況を考えて諦めたらしい。

 準備は万全だった。

「撮れる、やれる」

 カメラの言葉がどこまでのものか、深は試してみたい気持ちになっていた。


「お邪魔します」

 彼女は今日は膝より少し短めのスカート、この前よりキッチリと化粧をしていた。

「どうぞ、お入りください」

 深は美樹が靴を脱ぐのを待って、後ろ手で玄関に鍵をかけた。


 多分逃げられることも暴れることもないはずだ。どうしてもとなれば、自分の空手を試してみるつもりでいた。

 現職の女性刑事とどちらが強いか。ちょっと楽しみではあった。

「この前、萌に邪魔されてお話しできなかった部屋での件ですが」

 深は美樹にソファーに座るよう促した。


「これです」

 深は数枚の写真を美樹の前に差し出した。バイクと一緒に現像焼き付けの機材も大分から送ってもらったのだ。

 美樹に見せたのはもちろん真紀のヌード写真だった。一般では出ない完全なヌードもある。


「これは、あなたが撮ったの」

「はい現像も俺です」

「彼女がよく撮らせたわね、何かで脅しでもしたのですか」

「いいえ、ただヌードが撮りたいと頼んだだけです」


 美樹は何か考えるように写真を見つめた。

「そのあと身体の関係を持ったんですか」

「はい」

 何も隠すつもりはなかった。一連の行為は犯罪ではない。


「このところ、夢を見ます」

 美樹は、上着のジャケットを脱ぐと丁寧にたたんだ。

 白いブラウスのボタンに手をかけると、まず三つまでを外した。それだけで白のブラジャーがほぼ見える。

「あなたが、私にヌードになれと命令する夢です」

 ブラウスを脱ぎ捨て、スカートのホック、そしてファスナーを下ろした。


「この写真を見て意味が分かりました」

「命令してください、自分からはこれ以上脱ぐ勇気はありません」

 深は少しばかり混乱している。そのつもりではあったが、それには多少手荒な手段が必要かもと覚悟していた。

 カメラは段取りまでは指示してくれない。


「なぜですか? 正直言うとそのつもりでした。でもなぜあなたから」

「美樹って呼んでください。わかりません。でも、今を変えたいなら写真を撮らせろ、俺に抱かれろ。あなたは夢でそう言いました」


「ちょっと待ってください、さすがにおれはそこまでいいませんよ、いやそりゃ美樹さんとその、できたらうれしいですけど。俺には萌がいるし」

「わかっています、でも、なぜか信じてみたいんです。さあ」

 要するに、この人は何かを悩んでいる、それを開放するきっかけが欲しいのだ。もっともふしだらな形で。深は心を決めた。


「脱いでください、素肌を俺の前で晒して下さい」

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