第5話 誰ならやれる

「美樹ちゃんって、あなたは」

 と言いかけて市川は萌が誰かがわかったみたいだ、突然姿勢を正した。

「早川課長、じゃなかった、たしか今は園部署長の」

「娘の萌ですけど、そんなに固くならないでくださいよ。父は父、私は私です」


「あ、はい、なぜお嬢さんがここに」

「私の家となりだから、それより市川さんこそどうして。あ、深のお父さんに?ってお父さん単身赴任中だし違うか」


「お父さん?」

「深のお父さん知らないんですか、今は地検舞鶴支部長」

「え、検事の」

 この女性はわりと権力に弱いんだなと深はおかしくなった。

「萌も一緒でいいですよね」

「フェリーで女性と知り合ったんだけど、その女性が横領で逮捕されてさ、その話を聞きたいんだって」


「これ祖父の形見のカメラなんですけれど、真紀さんが写真撮ってほしいって」

 この女撮れるぞ、撮って、。

 カメラを手にしたとたんに声が聞こえた。真紀の時と同じだ。

 周囲をみまわしたけれど、萌にも市川にも聞こえていないようだ。

「なるほどそういうことですか、わかりました」

 市川は何となく居心地が悪そうだ、もう少し深のことを調べてから来るべきだと思っているに違いない。


「それでは、ご協力ありがとうございました。私はこれで」

「市川さん、何か思い出したらお電話差し上げたいので、お名刺いただけますか」

 市川は少し逡巡したが、一枚の名刺を差し出した。府警本部刑事部少年課巡査部長市川美樹とあった。


「ねえ、写真ってなあに。私も撮ってほしい」

 何も声は聞こえない。つまりまだ萌のヌードは無理ということに違いない。

「いいよ、バイクの前はどう」

 市川が尋ねてくる少し前に、バイクは届いていた。スズキハスラー125cc。

 原付じゃない方が送られてきた。免許はちょっとばかり面倒だけど、何とかなるだろう。


『ワイルドセブン』でオヤブンが乗っていたのはこれの400だったか。高校には乗って行かない方がいいようだが、遊ぶにはもってこいだ。

「後ろに乗せてやれるよ」

「ほんと? じゃあヘルメット買う」

 萌はハンドルに手をかけると、シートに座ろうとしたのか、脚を振り上げた。ミニスカートというのを忘れているのか。薄いブルーのパンティーが見えた。


「萌、見えてる」

「え、きゃ」

 慌てて、ハンドルから手を離した拍子にバランスを崩した萌は、深に抱きつく格好になった。

 二人して地面に転がる。痛かったがそれより萌の身体が上にある方が気になった。やわらかい。つい背中に腕を回してしまった。


「こら、いちゃつくなら家の中でやってよね」

 頭の上から声がした、赤い刺激的なパンティーが見える。いい眺めだ。

 萌が慌てて深の上からおりた。

「お姉ちゃん」

 声の主は萌の姉の緑だった。


「深くん、こんな小娘を相手にしないで私と付き合わない」

 確かに薄いブルーよりは赤の方がいいかもしれない。しかも胸の大きさが違う。

「深に手を出さないでよね、彼氏いるくせに」

「おあいにくさま、あんな奴もう別れたから、下手だし」

 こいつも撮らしてくれる、やれるぞ。

 カメラが話をしているということに深は気が付いた。

 でも、萌はどうなる、緑とそうなったら。

 そこはお前の腕だな、大丈夫だ、その小娘はお前に惚れている。

 思わず萌の顔を見た、そうなのか。




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