第7話 タマシイの保管庫
ランタンが同じかんかくで吊られた狭いろうかを進み、つき当りのとびらをイサが開ける。そこから先は、ネリがこれまで見たこともないような光景が広がっていた。
どこまでも天井が高いどうくつ。中が明るいのは、どうくつのカベをうめつくすように、ずらりと並んでいるガラスびんと、そこら中に張りめぐらされているクモの巣が光っているからだ。
ガラスびんの色や形は様々で、どうくつのカベにほられたミゾに、横一列にきれいに並んでいる。強く光っているもの、弱々しく光っているもの、光を失っているものと、かがやきの程度に差があった。
「これ全部、ペラの人達のタマシイですか?」
天井のはしまで何本もハシゴが連なっているタマシイの保管庫で、ネリは前を歩くイサにたずねた。
足元はきちんと整地されていて、歩きやすい。もしも、このゆかが、どうくつのカベと同じようにゴツゴツしていたら、上ばかり見ているネリはこの部屋に入って早々に、けつまづいていただろう。
「いや。この大陸全部のだよ」
どうくつのおくへと進みながら、イサが答える。
「我々はこの島を中心に、ほうぼうに散らばっているからね。旅に出ていた葬送人が迷っているタマシイを保護して持ち帰る事もあるし、逆に旅立つ葬送人には、タマシイを故郷へ送り届けてもらったりもする。その他のタマシイは、次の生に進むまで、我々がここで面倒をみるんだ。今日のようにこちらから出向いて、戦死者や災害に巻きこまれた人々のタマシイを回収する事もある」
それでこの数なのかとネリは納得した。
「このビンは、あなたがたが?」
「そう。工ぼうがあるんだよ。我々の特別製だ」
ネリは「はぁ~」と感心した。
どうくつの中は夢のようにキレイだが、これが全部、死者のタマシイだと思うと、少し足がすくむ思いだ。
ふと、赤くかがやく小ビンが目に入った。とても強い光を放っている。
「それはさっき回収した怨霊たちだよ。はなれてくれなくて、結局いっしょくたに入れてしまったから、かがやきもキツイ」
だがいずれ落ち着けば光もやわらかくなる、とイサは説明した。
ネリはおそるおそる小ビンに手を伸ばす。
「さわらない方がいいよ」
イサが静かに警告した。
「ふれれば、ビンごしでも生命力をとられるからね」
怨霊に近づいた後の寒気を思い出したネリは、さっと手を引っこめた。
「まあ、必要以上にこわがる必要は無いさ」
イサはほほえむと、「さあ、こっちだ」と再び歩きだした。
★
『持って行ってもかまわないよ』
王家の人間のビンが集められた場所から、光を失ったオレンジ色のガラス小ビンを手に取ったイサは、それをネリにわたした。
『いいんですか?』
『それで君の勇気になるのなら。どうぞ』
おどろくネリに、イサはそう言ってうなづいた。しかしその後、『ただし、あげることはできない』とも付け加えた。必要がなくなれば返しにおいで、と。
★
「ここに、おじい様がいらしたのね……」
タマシイの保管庫にあった別の出入り口から外に出たネリは、川岸に転がっている大きな岩の一つに座り、小ビンを見つめた。
夜の川岸は静かだった。水の音しかしない。
ネリは祖父のタマシイが入っていた小ビンを、耳にあててみる。
「おじい様。私に出来る事はないのでしょうか。ペラはこのまま、ほろびてしまうの? 私は何も出来ないまま、国がほろびて人々が悲しむのを見ているしかないのでしょうか」
祖父のタマシイに聞きたかった事を、目を閉じてそっと小ビンに問いかけた。
返事はない。そのかわり、イサの言葉を思い出した。
『勇気になるのなら』
何に対して勇気をふるえばいいのだろう。
ネリにはまだ分らなかった。
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