SS3 書籍発売記念
【追いかけっこ】 アルフレッド八歳
一ヶ月ぶりに僕の妖精に会える。
父上からフェリシアの手が振り下ろされたら逃げろと注意された。僕はまだ体ができあがっていないから、ガラクシアースの力に耐えきれないって。
ガラクシアースの力が何かはわからないけど、僕は強くなる必要があるらしい。
「あるしゃま」
一ヶ月ぶりに会う僕の妖精はとても可愛かった。もう、可愛いしかない。
今回は玄関の外で到着したところに間に合った。乗ってきた馬車は見当たらないけど、外には僕の妖精とガラクシアース伯爵。そして父上がいた。
「あるしゃま。この前、いたいいたい。ごめんなしゃい。これあげる」
僕の妖精は何かを差し出してきた。なんだろう? これ?
石? 赤い宝石?
差し出されてきたのは、僕の妖精が両手に持つほどの大きさの赤い石だった。
「だんじょんでとってきたの。からだがぬくぬくなるの」
ダンジョン? 体がぬくぬく? なんだろう? 何かわからないけど、僕の妖精がくれるならもらうよ。
「それは、フェリシアがマグマ狐を狩って来たんだよ」
伯爵の言葉を聞いた父上が、受け取ろうとしていた僕の手を叩いて、赤い石を受け取るのをやめさせた。
何をするんだ父上!
「それを地面に落としてみろ」
父上は威圧的に僕の妖精に命令した。
そんなことはしなくていい!
再び僕が手を差し出そうとすると、体ごと後ろに下げられてしまった。
そして、僕の妖精は首を傾げながら、赤い石を土がむき出しになっている地面に落とす。
すると少しの間は何も変化は起こらなかったけれど、地面がぶくぶくと泡立ち始めた。
地面って泡立つのかな?
「見てみろ。地面が沸騰して溶岩のようになっているじゃないか!」
父上がものすごく怒っている。すると僕の妖精は身を縮めて、伯爵の後ろに隠れてしまった。
「あれ? これぐらい大丈夫だと思ったのだけどなぁ? 駄目だった?」
「駄目に決まっているだろう! 何度も言っているがお前たちの基準で物事を考えるな!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないのかなぁ?」
「いいか! 子供の頃にガラクシアースと他の人とは違うと認識させておかないと、お前のようになるだろうが!」
「ははははは!」
父上がこのような話し方をするのは珍しい。母上が言っていることは本当だった。
ガラクシアース伯爵に父上が色々言っていても気にしなくてもいいと。仲がいい証拠だと。
気にしなくていいのなら、僕は僕の妖精と遊んでいいよね。赤くボコボコと泡立っている地面を見ている僕の妖精に手を差し出す。
「フェリシア。遊ぼう」
すると、困ったように伯爵と僕を見てオロオロしだした。ああ、伯爵の許可がいるのか。
「ガラクシアース伯爵様。フェリシアと遊んできていいですか?」
「んー? 庭の中で遊ぶのならいいよ。僕たちはここで見ているからね」
伯爵から許可をもらったので、僕は妖精の手を握って、庭の方に駆け出した。でもどうして庭なのだろう?
「何して遊ぶ?」
と振り返って聞いていると、ふと気がついた。普通に走ってしまっていたと。
でもフェリシアは普通に走っている。
あれ? 弟のファスシオンと同じ歳だよね?
「あるしゃま。あれは何? ふぇんりると同じ?」
フェンリル? フェリシアに……なんだか名前が似ていてムカムカする。
フェンリルは確か、神獣といわれる大型の神狼の種類だと聞いてはいるけど、本物は見たことがない。
そこには赤茶の毛並みの番犬がこちらの様子を窺っていた。
「あれは番犬だからフェンリルじゃないよ。それからシアって呼んでいいかな?」
「あい! あるしゃま! しあ、しあ、しあ、しあ。うん! いい!」
え? 何? この可愛い子。
思わず、ぎゅっと抱きしめる。
「あるしゃま?」
はっ! あまりにもシアが可愛すぎた!
あっ! そうだ! 追いかけっこをしよう! 僕がシアを捕まえればいい!
僕はいいことを思いついたと、少し力を緩めてシアを見下ろす。
……
……
……
かわいい。
「あるしゃま?」
はっ! そうだった!
「シア。追いかけっこをしよう!」
「じゃ! しあが、ばんけんをおいかける!」
え? 番犬を追いかける?
シアの言葉に呆然としていると、シアは赤茶の毛並みの番犬に向って走って行ってしまった。
僕も慌ててシアを追いかける。
番犬というからには普通の愛玩犬とは違う。身体も大きいし、とても筋肉質で俊敏な動きをする。訓練の様子を見たことがあるけど、一度噛みついたら離さない姿を思い出したら、僕の妖精が食べられたらどうしよう。
僕はこの屋敷の者だと認識しているから噛まないと言われたけど、シアはわからない。
え? もうあんなに遠くにシアが行ってしまっている。僕も必死で追いかけるけど、全然追いつけない。どうして?
番犬に近づいて行っているシアに危ないと叫ぼうとしたところで、番犬が背を向けて逃げ出した。
え? 本当に追いかけっこして、番犬が遊んでくれるんだ……僕は?
逃げる番犬とシアに置いていかれた僕の足は止まってしまう。
僕と遊ぶはずだったのに、番犬と遊ぶなんて……あの犬、ぶっ殺す。僕の妖精を独り占めするなんて、絶対に許せないよね?
「あるしゃま? あんよ。いたい?」
ムカムカしていると、シアの顔が目の前にあった。
シアは僕の妖精だ!
シアを引き寄せて、首元に牙を立てる。
シアは俺の婚約者だ! あの犬、許せない!
そのあと、直ぐにシアから引き剥がされた。
「私は息子の行動が理解できないのだが?」
「多分、あの犬に嫉妬したんじゃないのかなぁ? よくあるって聞くよ?」
「番犬に嫉妬? よくあるのか?」
「そうだねぇ。フェリシアが泣いちゃったから、今日は帰るね。あっ! 今のうちにドラゴンの捕獲用のロープを用意しておいたほうがいいかもね」
また、泣いているシアが伯爵に抱えられて帰って行ってしまった。
でも伯爵が最後に言っていた言葉はなんだろう?
父上がドラゴンの討伐に行く予定でもあるのかな?
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