117 進化の系譜 その97

 公示されていないのか、未だに馬車道(とは名ばかりの踏み固められた道)を無断通過しているらしい……という訳で、3日掛けて敷地をぐる!っと囲む土壁を造った。そしたら土壁を作り始めてから4日目の朝……何やら壁の外で大騒ぎしてるし……迷惑だなぁ(空襲警報ばりの警報で目が冷めちゃったよ!←自業自得w)

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──さて、どうやって騒ぎを収めようか……──


「あの……人の山の目前で何の騒ぎですか?」


 と、おずおずと声を出すトーコ。


「貴様がこの山の持ち主とかいうガキかっ!?」


 未だに頭に血が上っているらしい商人がわめく。その横ではお貴族様に何て暴言を!?……って蒼褪あおざめてるギルド職員がいるけどスルー。


(自覚はあんま無いからしゃーないか……)


 だけど、余り舐められるのを容赦すると今後は色々と問題があるかも知んない。


「見た目はガキですが……余り舐めたことをいうと容赦しませんよ?」


 と返すけど、


「けっ!……ガキは大人のいうことに従ってりゃいいんだよ!」


 と、つばを吐いてくる。


きんっ……


 水操作で凍らせて、そのまま振動させて砕く。何をかって?……こちらに向かって飛んで来た唾を凍らせたんだよ。


ぱらぱら……


「「「なっ!?」」」


 吐いた唾が顔にでも付くと思っていた連中は「ぎょっ!?」として表情を凍り付かせる。


「どうしました?……吐いた唾を凍らせて砕いただけですが……」


 通常、水属性魔法の上位属性……氷属性魔法は滅多なことでは使い手を見る事は無い……って領主に聞いた。それこそ、ランクSの冒険者の魔法使いや宮廷魔導士でもないと使い手が居ないという認識だ。無論、市井しせいの中に隠れ住んでいるという話しも無い訳ではないみたいだけど。それだけの能力を持っていれば、勧誘が後を絶たないだろうから目立つことはしないだろうし……少なくとも、自衛の手段を持たない者はひけらかさないだろう。目立ちたがりを除いて。



「それとも……痛い目をしなければ、その暴言を吐かなくなるのかな?」


 トーコは護衛であろう冒険者を見て……腰に下げている水が入っている革袋に目を付ける。多分、あれは水を入れてるよね?……と思い、水操作能力を起動。


びきびきびき……


 中の水が凍り始め……膨張する革袋。


「「「なっ!?」」」


びきぃっ……ぱんっ! ぱらぱらぱら……


 護衛4人の革袋が膨れ、凍った影響で腰が急激に冷えてきて……ついには破裂。中の氷が膨張して革袋が裂け砕け、そのまま砕けた氷が腰から落ちて地面に散らばって行く……。本来なら全方向に砕けた氷の破片が四散して冒険者が大怪我をする……のだが、流石にそれは可哀そうなので脅す意味でも……革袋が裂けた時点で膨張の威力は落としている。


(荷馬車の中に水瓶はあるけど、それ割ってもあんまし意味無いしねぇ……)


 要は、逆らえばあんたたちもこうなるよ?……という脅しを掛けたのだ。人間は体の60%は水分でできているのだから、効くと思ったんだけど……


「なっ……は、はははは!……だからどうした!?……革袋を割る魔法で俺がどうにかなるとでも思ったか!?」


 何でそんな限定的な魔法だと思ったのよ……orz 仕方ないので、種明かしをして退却願おうかな……


「あのね……生き物って体の6割は水分なのよ……この意味、わかる?」


「は?……いや、確かに水は飲むから体に水が含まれるのはわかるが……」


 これだけじゃ理解が及ばないかな?


「じゃあ、血液が体の中を流れてるのは知ってるよね?」


「そりゃそうだろ……腕を切れば血が流れるからな……はっ!……ま、まさか……」


 ガタガタと震えだす商人と……理解が及んだ冒険者たち。


「そう……血ってのは水と同じ液体よね?……だから……」


 蒼褪めた顔で叫ぶ商人。


「まさか……貴様!……吸血鬼の末裔かっ!?」


「は?……何でそうなんのよ?」


 冒険者が補足するように震えた声で、


「血液を操る魔法……血の魔法ブラッドマジックは吸血鬼にしか扱えないんだ……だからっ」


 いやいや……何その限定的な魔法……


「じゃあ、この朝日が燦々さんさんと降り注ぐ中、元気なあたしは何なのよ……」


 確か、吸血鬼ヴァンパイアって日の光に弱くて、敬虔な神の使途が持つ十字架で火傷して、にんにくの匂いが苦手で、胸に白木の杭を打ち付けると死ぬって聞くけど……


(以前は体質上の問題で、太陽の光で火傷してたけど死ぬ程じゃないし……にんにくは臭いから、人間でも苦手な人は居ない訳じゃないし……十字架で火傷なんてしないし……まぁ、火傷するくらい熱されてたら別かな? 流石に心臓を杭で貫通させたら白木だろうが鉄だろうが、誰でも死ぬんじゃ?……こっちの人間って心臓壊されても死なないのかな?……ソレコソ、ニンゲンジャナイヨネ?)


 ……なんて思ってたら、


「し……真祖っ!?」


 と誰かが叫び、一瞬にして静かになって……


「「「ぎゃああああっっっ!?」」」


 と叫んで逃げてった……あ、町じゃなくて普通に遠回りの街道の方にね……


「……あの」


 残っているギルド職員の人に話し掛けると、


「こ……」


「こ?」


「殺さないで……頂けますか?」


 と、滝涙を流しながら、鼻水ズビバビしながら命乞いしてくるんだけど……


「いや……何でそうなるの?」


 と、ポケットからハンカチを出して、顔を拭いてあげながらよしよしと頭を撫でてあげた。いや、へたり込んでたので、ロッ君から降りて拭いてあげましたよ……大の男が泣くなっ……ッタク。


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 後日、隣国から真祖の吸血鬼を討伐する緊急クエストが発布されたそうだけど、

「そんな事実は無い!」

 と追い返されてた。まぁ……あの宇宙人……もとい、領主が手を回してくれたんだと思う。流石に弓矢程度だと殺されないと思うけど……バリスタとか撃たれるとヤヴァイかもねぇ……

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