第4話 シャワールーム




<更衣室前>


 声が反響する。

 シャワールームは更衣室に付随してついており、男子更衣室、女子更衣室に別々に設置されている。


「やだ、やだやだお願い! 一緒に浴びなくていいから! せめてシャワールームの前までいいから! ついてきて!」


 懇願する彼女。断る先生。


「先生は自分の生徒に興奮するの? しないんでしょ? だったらいいじゃん!」


「そういう問題じゃない? じゃあどういう問題? 意味わかんない。ねえってば。じゃああたしが中で誰かに襲われたりとかしたらどうするの?」


「わかんないでしょ! なんかいるかもしれないじゃん! ひそんでるかもしれないじゃん! 誰がって強盗とか? 絶対にないって言い切れるの!? お、お、おばけとかいるかもしれないでしょ! そ、それに、もし転んで頭打ったりしたらどうするん? シャワー室は滑りやすいんだから、有り得る話でしょ!? ねえどうするん! もし発見が遅れてあたしが死んだら先生のせいだからね!」


「お願いします。一緒に来てください」


「はい。そうです。怖いんです。……はい。じゃあ更衣室の入り口まででいいので。はい」


「でも絶対そこにいてね。絶対だよ? トイレとかに行くのも禁止ね」


 そういって彼女は女子更衣室へと入っていった。

 衣服を脱ぐ間が空き、パタンとシャワー室の入口を開ける音がする。

 蛇口を捻った音とシャワーを流す音が聞こえてくる。

 シャワー室のある女子更衣室のさらに入口の外にいるのだけど静かな学校ではここまでシャワーの音が聞こえてきていた。

 彼女は怖いからと言う理由でシャワー室の扉をしめていなかった。


「せんせー! いるー?」


「シャワーきもちいいよー」


「先生も入るー?」


「あはははは! 先生へんたーい! きもー! うわっ目に入った!」


「いったぁい……先生! シャンプーが目に入って痛い! 助けて!」


「ちぇ。ケチかよ」


「そういう問題じゃない? じゃあどういう問題なんだっての」


「今から体洗いまーす」


「ええ? だって先生退屈でしょ? だから実況してあげようと思って」


「それに、なんか喋ってないと先生がどっかにいったら困るし……」


「どこにもいかない? ほんとに?」


「絶対?」


「ずっと?」


「約束、だからね」


 


<男子更衣室の前>

 彼女のシャワーの後、先生もシャワーを浴びた。当然、彼女は男子更衣室の外で待たせた。


 お腹が満たされたことと、シャワーを浴びたことで少し余裕が出てきた様子の彼女。

「ね、先生。このまま雨がやまなかったらどうするの?」


「泊まる!? 学校って泊まれるの? どこに泊まるの? ここ? ベッドないよ? それとも保健室?」


「なんか保健室ってさ……エロくない?」


「へえ、そんな部屋があるんだ。あ、うん。わかった。電話してくるんだね。ここでまってればいい?」


 先生が部屋を出ていく音。先生はどこかへ電話をかけに行く。

 しばらくして部屋に戻る音。



 彼女はあまり興味なさそうな声で

「おかえりー。どこに電話してたの?」


 先生の返答を聞いた彼女は急に大きな声で目に涙を浮かべて笑いながら言った。

「……教頭!? あのハゲの番号入ってるのそのスマホ? 超ウケるんですけど! マジでウケる!」


 先生からなにかの説明を受ける彼女。

「ふーん警備員さんが今日はいないんだ。へえー」


 ちょっと小さい声で独り言のようにいった。

「……って、え? じゃあもしかしていまあたしたち二人っきりってこと?」


 つぶやくようにいった。

「そ、そうなんだ。ふーん。二人きりか……」


 先生の立ち上がる音。

 慌てた様子で彼女が話しかける。

「え、どこ行くの?」


「ぼうさいびちくこ? そこに毛布があるの? へえ。学校に毛布とかおいてあるんだ……」



「って、待って待って! あたしも一緒に行く! 置いてかないでよ先生!」


 二人で職員室を出ていく音。

 その間もずっと雨と風、雷の音は弱まる様子はなかった。



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