第3話 夕食

<玄関>


 激しい嵐の音。

 打ち付ける雨と風の音。


「やば! 先生みて! 冠水してる!」

 かなり興奮気味の彼女。

 彼女の声が暴風と激しい雨音で聞き取りづらい。


「これ、ほんとに帰れるの? 危なくない?」


 無理に外に出ようとする先生を止める彼女。


「ちょちょ、危ないって。駐車場に行く前に流されちゃうって!」


「うわ、一瞬でびしょびしょだね」


 しばらく玄関で雨が降る様子を無言で見ているだけの二人。


「あ、みてこれ、外出を控えろだって。これはさすがにやばくない?」


「せ、先生? 一旦もどろう?」


 玄関の扉を閉める音。




<再び職員室>


 激しく打ち付ける雨音はガラスの向こう。

 収まる様子はないが、室内にいると言うだけで何処か心地の良い音にも聞こえる。

 先程、外の激しい音を聞いた後、安全が保証されている学校の中に入ると安心できる。

 また、お互いに一人ではないという安心感もあった。



 タオルで体を拭く二人。


 タオルで体を拭きながら、職員室の窓に張り付いて外を見ていた彼女はふざけたような口調で

「うわーやっば。校庭も水浸しだよ。こりゃ帰れませんな」


 先生がいるのですっかり安心している彼女はなんだか楽しそう。

「え、だってさっき言ったじゃん。今日はあたしは別に帰るの遅くなっても大丈夫だし」


 ちょっと声のトーンを落として彼女が聞いてくる。

「先生は、実は帰りを待つ彼女とかがいたりするわけ?」


 彼女はつぶやくように独り言で

「ふーん。彼女もいないんだ……ふーん……」


 キーボードの音もなく、ただ雨と風が窓に打ち付けられる音だけが心地よく聞こえ続ける。

 時折遠くで雷鳴が聞こえる。雷鳴がだいぶ近くなってきている。


 椅子のローラー音が少しずつ近づいてくる。


 彼女が申し訳無さそうに言う。いつもに比べてかなり本気な声。

「先生、ちょっと近くにいてもいい?」


「実は雷が……あんまり得意じゃなくてさ」


 何か思い出して慌てた様子の彼女は

「あ、でもそれ以上近づいたらダメだから。今日いっぱい汗かいたし」


 先生の返答に対して、彼女は憤慨する。

「先生が気にしなくてもあたしが気にするの! まったく、そんなだからいつまでも彼女できないんだよ?」


 かなり大きな雷が鳴った。


「ひうっ!」

 彼女はおかしな悲鳴を上げる。雷の音が静まった後、慌てて

「あ、今のナシ。ホント、ナシだから。意味わかんないとかじゃなくて! ナシなの! 忘れて……」

 といい切ってしまう前に


「また光った! ひうっ!」


 そして、大きな雷鳴がかなり近くで響く。


 彼女は泣きそうな声でいう。

「ううぅ……。笑わないでよ!」


 先生の提案を聞いていっきに声が明るくなる彼女。

「え? うん! 食べる!」


 すっかり元気になった彼女。

「カップラーメンしかないの? ううん! あたしカップラーメン大好き! シンガポールラクサ味がいい! ないの? じゃあトムヤムクン味! それもないの? じゃ、何があるの? え、センス悪……じゃあね、その中なら……味噌かな! あ、やっぱ塩!」






<食事後>


 お腹いっぱいで満足そうな彼女。

「ごちそうさまでした」


「くしゅっ! は……、くちゅっ!」

 可愛らしいくしゃみをする彼女。


「え、大丈夫大丈夫。漫画じゃないんだから雨に濡れたくらいで風邪なんか引かないよ」


「え? いいってば。別に寒くないし……くちゅっ!!」


「じゃあ先生ついてきてくれる?」


「はあ? こんな夜の学校で一人でシャワー室まで行かせるつもりなの先生! あたしがどうなってもいいの? 生徒が心配じゃないの?」


「わかればいいんだよ。そもそも先生はあたしよりもびしょ濡れじゃん。先生もシャワー浴びればいいじゃんね。……なんなら……いっしょに浴びる?」


「いてっ! なぐんなくったっていいじゃん! 体罰で訴えてやる!」


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