第9話 直接対決
PRINCEでの話し合いの後、僕と紫音は、岸くんと一緒にKINGに戻ってきた。
奈央さんは、その後到着した女性警官と一緒に帰宅した。
僕と岸くんはカウンターに座り、紫音はカウンターの中で何か作業をしている。
「ねぇ、岸くん。警護っていつまでなの?」
僕はたまらず岸くんに聞いてみた。
「うん、まぁ堀田さんはここ1週間ぐらいで動きがあるんじゃないかってゆってるけど。宍戸夫婦がどういった動きをするかってところじゃないかな。それまでは、大人しくしといてください。オネシャス!!」
岸くんがおどけた様子で頭を下げると、
「つまりさ、宍戸夫婦がつかまりゃいいんでしょ?傷害でもなんでも」
紫音がグラスを拭きながら、岸くんに言った。
「紫音さん、なんかよからぬこと考えてませんか?」
僕は紫音の言葉にニヤリとした。
「いやいや、迅さん。あなたも同じこと考えてるんじゃないですか?」
どうやら紫音と僕は同じようなことを考えているらしい。
そうだよ、俺たちが囮になって宍戸夫婦をおびき出せばいいんじゃない?
「おい、お前ら、自分たちが囮になるなんてこと考えてんじゃないだろうな。そんな危ないこと、俺が許すと思っているのか?」
岸くんが俺たちの雰囲気に気づいたらしく、警戒しだした。
「きっさーん、きっさんだって、手柄ほしいでしょ?宍戸夫婦を捕まえれば俺たちの警護も解かれるわけですし。それに、堀田さんに言い所見せたいでしょ?特に由紀さんに」
そういいながら、僕は岸くんの肩に手をまわし、紫音が差し出したビールグラスを岸くんの前に置いた。
「手柄…いや、ダメだ。今回は危ないんだって!だから、本当にやめてくれ。」
そう言って岸くんはカウンターにおでこを押し付けて頭を下げた。
「そうか、わかったよ。ごめん。岸くんの立場もあるもんね。今回は大人しくしておくよ。」
紫音はそう言って、話を終わらせた。
とは言ったところで、大人しくしてる紫音様ではないようで、岸くんには悪いけど、囮作戦を決行することにした。
ダイコー印刷に佐伯ゆう子さんの件でもう一度お話がしたいと、電話を入れ、翌日のアポを取り、その際に斎藤さんにもお会いしたいとお願いした。
すると、「斎藤は退職しました。」といわれた。
翌日、僕と紫音は岸くんには買い出しに行くといい、岸くんも警護をするからと一緒についてくることになった。岸くんをだますのはだいぶ気が引けたけど、これで事件が解決するなら万事丸く収まると思い、心を鬼にした。
ダイコー印刷に近づくにつれ少しずつ緊張感が増してきた。
岸くんの反応もそうだが、いつ僕たちを襲ってくるのかとドキドキしながら歩いた。紫音はどうやら肝が据わっているらしく、あまり表情を変えずに歩いている。
僕らがあまり人通りの少ない裏道に入ったところで、目深に帽子をかぶりサングラスをした一人の男が僕たちの後をつけていることに気が付いた。紫音に目配せを送ってみると、紫音も気づいていたらしく軽く頷いた。
すると、岸くんが小声で
「後ろから男がついてきている。俺が、走れと言ったら、二人とも全力で走って逃げてくれ。あとは俺が何とか捕まえる。まったく、無茶しやがって。…いいな。全力だぞ。走れ!!!」
僕と紫音は岸くんの言う通り、全力で走った。
後ろのほうで岸くんがその男と戦っている音が聞こえた。
だが、僕たちの行く手にもう一人、今度はナイフを持った男が立ちはだかった。その男は宍戸だった。宍戸はナイフを振りかざし、僕たちに襲い掛かってきた。
その宍戸の腕を紫音がつかみ捻り上げた。宍戸はナイフを落として、慌てて逃げ出した。
僕たちはしばらく呆然としていたが、そこへさっきの暴漢を捕まえた岸くんが現れた。
「応援を呼んだ。もうすぐ現着するはずだ。まったく、やるだろうなとは思っていたけど、ほんとにこっちの身が持たないよ。
あーあ、堀田さんに怒られるかもな。お前たちもだぞ。」
呆れた顔で岸くんが僕たちに言った。
「岸くん。申し訳なかった。でも、これで事件解決だね。」
紫音が岸くんに謝る。僕も頭を下げた。
「今、報告があった。宍戸は逮捕されたよ。さっき襲った男は宍戸が雇った鉄砲玉だね。とにかく怪我がなくてよかった。」
その後、僕たちは堀田さんにこっぴどく叱られた。
佐伯ゆう子のところには、宍戸の奥さんが現れたが、女性警官が取り押さえたということだった。
ダイコー印刷の連続不審死は、結局宍戸夫婦がすべて仕組んだことだったらしい。パワハラ、セクハラと好き放題にやってきて、それに歯向かった社員を自殺に追い込んだり、事故死に見せかけて殺害していたらしい。
ダイコー印刷は社長不在になり、どうやら他にも粉飾決算などの余罪が見つかり、結局会社を清算する形で幕を閉じた。
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