第8話 事情聴取
次の日、岸くんと堀田さん、僕と紫音、そして依頼人は、Café PRINCEにいた。今日の紫音は普段の紫音で、メイクなどはしていない。
依頼人。その向かいに岸くんと堀田さんの並びだ。僕と紫音は隣の席に岸くんたちと並ぶ形で席に着いた。
今日の依頼人はどうやらゆう子さんのようだった。
堀田さんが、手帳を見せながら自己紹介をした。
「初めまして、神保署の堀田といいます。隣にいるのが相棒の岸。この度はご協力ありがとうございます。さて、お勤めのダイコー印刷の話なんですが、実は最近、亡くなってる方が多いのはご存じですか?」
「えっと、ダイコー印刷には勤めておりますが、私はあまり人と関わらないので、姉に聞いていただければ…私ではお答えできることがあまりないと思います。」
「お姉さん…?お姉さんもお勤めなんですか?今日そのお姉さんは?」
堀田さんが周りを見渡して、依頼人に聞いた瞬間、僕たちでもゆう子さんから奈央さんに人格が入れ替わったのがはっきり分かった。
ゆう子さんの自信のなさげな雰囲気から、スウッと背筋が伸びて頬も少しばかり赤みを帯びて、正面に座る堀田さんの目をまっすぐ見据えた。
「はじめまして、佐伯ゆう子の姉の近藤奈央です。」
堀田さんと岸くんは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、固まっている。そりゃ、驚くよな。いきなり目の前の人が声色も表情も変わるんだから。
「探偵さんにお聞きではなかったんですね。私はゆう子の中の別人格になります。わかりやすく言うと、多重人格です。
ダイコー印刷で働いているときは私の人格が出てくるので、ダイコー印刷の事は、私に聞いていただければ。」
さすがに堀田さんは状況が飲み込めたらしく、奈央さんに質問を始めた。
「最近、あなたの勤め先のダイコー印刷で不審ななくなり方をされてる方が多いのはご存じですよね。
ダイコー印刷で何が起こっているのかご存じないかと思いまして。」
「はい、そのことなら存じております。会社内部で緘口令が敷かれまして外には漏らすなと言われてます。でも、会社を辞めるつもりなので何でも聞いてください。」
「そうですか、ありがとうございます。では、私たち警察がつかんでいる情報では、社長はじめその幹部たちはかなりの強権支配で社員を押さえつけている事と、以前から不審ななくなり方をしている社員がいるという事なんですが。まず社内でのあなたの立場を聞かせてください。」
紫音は彼女の事を堀田さんにも何も話していなかったらしい。
堀田さんが聞き役で、岸くんは記録をするみたいだ。
「私は、印刷の受発注をする部署で働いています。入社した経緯は社長夫婦と同じ養護施設の出身だからです。その養護施設の園長先生が口をきいてくれました。でも、恩義を感じたことは一度もありません。先程おっしゃったように、あの会社はかなりの強権政治で、パワハラ、モラハラ、セクハラ何でもありです。私も社長夫婦からのパワハラ、むしろ脅迫に近いことをされてきました。社長に近い部署の者なら、何かしらの嫌がらせの被害にあっていると思います。」
「わかりました。実は先日、また事故にあわれて一命をとりとめた方がいまして、どうやらその方の話では今回の事故は、故意に起こされたものだといわれてるのですよ。その方が、あなたの事を仰っておられました。秘書課の方ですが、ご存じですよね。斎藤和美さん。」
「和美ちゃん!!大丈夫なんですか?」
「はい、帰宅途中に車の事故に会いまして、ひき逃げでした。加害者はまだ見つかっておりません。でも、斎藤さん曰く、「私を狙って車が走ってきた」と。今は、警察病院で警官が警備をしていますから、大丈夫です。
彼女は本日同席しているこの二人に、社長夫婦のパワハラについて話をしたらしいんですね。たぶん、それで狙われたんじゃないかと私たちは睨んでいるのですが。」
なんだって?じゃぁ、僕たちがダイコー印刷を訪れた際に、話をしてくれたあの女性が事故にあったってことか?
紫音も驚いたようで、堀田さんに詰め寄った。
「堀田さん、待ってください。そんな話は聞いていないですよ。それじゃ、俺たちのせいでその斎藤さんて方は事故にあわれたんですか?
なんて奴らだ。」
すると堀田さんが珍しく声を荒げて、
「だから、あまり深入りをするなといったはずだ。斎藤さんだけではなく、近藤さんも狙われる対象になってしまうんだぞ。お前たちだって、狙われないとも限らない。
だから、今日あなたに来ていただいたのは、あなたを保護するためでもあったんです。
ちなみに、お前たちにも警備がつくことになっているから、そのつもりでな。」
「ちょっと待ってください!堀田さん、俺達には警備なんか必要ないですよ。」
警備だなんで、窮屈すぎて勘弁してほしい。
「安心しろ。お前たちの警備には岸が付く。一応、公式発表は斎藤さんは事故で亡くなっていることになっているので、警察内部に内通者がいなければ大丈夫のはずだ。」
「まぁ、という事なんでよろしく。大人しくしてくれよ。」
「まじかよ。」
僕と紫音は顔を見合わせてため息をついた。
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