直接対決

第7話 堀田さんからの電話

近藤奈央と別れた後、僕たちは紫音の部屋で今後の事を考えていた。

二人とも黙ったまま、どうすればいいのかを考えていた。

紫音はソファに座って、サングラスを怖い顔でいじっている。

僕は紫音の向かいに座って、ダイコー印刷のホームページや企業の評価サイトなんかを見ていた。ふと、少し気になる記事を見つけた。

【ダイコー印刷の連続不審死の謎】

どうやら、ダイコー印刷の社員で自殺や事故死が相次いでいるらしい。どんだけブラックなんだよ、この会社は。

僕はそんなことを思いながらPCから顔を上げた。


その時、紫音のスマホがなった。

「あ、堀田さん。ご無沙汰してます。どうしました?

…はい、ええ行きましたよ。ちょっとある調査で。…え?なんですって?

…はい、え?あ、はい。わかりました。…ご連絡ありがとうございます。

はい、助かりました。はい、失礼します。」

電話を切った紫音の顔色が変わったきがした。

堀田さんは、以前からKINGにも出入りしている常連さんで、刑事だ。しかも、ずいぶん前には紫音と何かあったらしい。堀田さんは紫音の事を何かと気にかけているし、紫音は堀田さんには足を向けて眠れないとか言ってる。

「堀田さんから?なんだって?」

「あぁ、ダイコー印刷どうやら警察がマークしていたらしい。俺らが社長に会いに行ったときに、堀田さんの同僚が俺らを見かけて堀田さんに報告が上がったらしいんだ。たぶん、あの秘書が刑事に俺らの事を言ったんだろうな。」

「でもなんで警察が?」

「どうやら、あのダイコー印刷の社員の中から何人も不審死が出ているらしい。しかも何件かは自殺か事故か他殺か判別つかないらしいんだ。

それで、捜査一課も内々に捜査しているってわけ。

で、堀田さん。俺らにあんまり深入りするなって釘さしてきた。

かなり危ない奴らとも係わりがあるらしい。」

「なるほどね。で、どうするつもりなの?ここで適当にお茶を濁して幕を引くような紫音様ではないですよね?」

「そうだね。これは使えるよ。依頼人にはしっかり会社を辞めてもらって、そしてあの社長さんにはお縄についてもらいましょう。」

僕的にはあまり危ないことはしたくないんだけど、こうなってしまっては仕方ないな。

紫音があまり危ないことをしないように見張っておかないと。

俄然やる気になった紫音を前に、少しため息をつく僕だった。


翌日、僕たちはCafé PRINCEにいた。

僕たちの前には、僕たちと同年代の男が座っている。彼の名前は岸 悠馬。刑事で、堀田さんの相棒だ。

「で?話って何?ダイコー印刷の件で情報あるっていうから来たんだけど。堀田さん抜きで俺だけっていうから、堀田さんにバレない様にするの苦労したんだぞ。」

岸くんは目の前のケーキを頬張りながら、僕たちのほうを上目使いで見た。

「岸くん、今日はまぁ俺のおごりだから。で、ダイコー印刷なんだけど、

自殺者そんなに出てるの?」

「俺は、そっちから情報があるっていうから来たんだけどね。一応、堀田さんにも口止めされてるし、話せることなんてほとんどないよ。」

岸くんはケーキをコーヒーで流し込みながら、僕らを軽くにらんできた。

紫音のケーキをそんな風にガツガツ食べるのは、僕が知る限り岸くんだけだな。

「まぁ、そんなに怖い顔をしないで。もちろん、ただでとは言わないよ。こちらにもそれなりに情報があるし。それに、こちらの情報とそっちの情報を合わせて事件解決できるんなら、winwinでしょ?」

「そりゃあまぁ、事件解決するなら協力してもいいんだろうけど。」

「でしょ?じゃぁさ。まずは、とりあえず事件の概要を教えてよ。」

「なんかさぁ、うまく誘導されてる気がするのは俺の勘違いかなぁ?

まぁ、事件解決になるなら。

そもそもな、ダイコー印刷の社員でセクハラとストーカーの被害届が何件か出てたんだよ。結構執拗な嫌がらせだったようなんだ。で、色々内部調査とか入っていたんだが、最近になって相次いで8人が自殺や事故で亡くなっているんだ。

その何人かはちょっと死因に不審なところもあって、しかもそもそものセクハラやストーカーの被害も不審な点があるんだ。

で今、捜一で内々に捜査してるってわけ。」

「それって、ネットニュースになってたやつだね。昨日俺が調べた中では、確か一人は奥さんとの離婚の話し合いがうまくいかずに自殺ってなってるし、他は事故とかってのは出てきたけど、でも8人もいなかったよ。」

僕はダイコー印刷について前日に色々調べていた事を少しぶつけてみた。

「うん、そのうちの4名は病死ということで処理されてる。

自殺者は2名。事故死者は2名。すべてが公表されてるわけじゃないし、一般人だからね。それに、裏で死因を隠蔽しているものがいるみたいなんだ。」

「少しやばい反社との繋がりも噂あるみたいだよね。」

僕は持っていたタブレットを岸くんに見せた。

「あぁ、だからあんまり関わらないほうがいいと思うんだけどな。

で、そっちの調査って?情報ってなんだ?」

紫音は、いつになく真剣な顔で言った。

「ダイコー印刷に勤めているある女性からの調査なんだけど、調査を進めていく中で、どうやら彼女は社長からパワハラとセクハラを受けているらしいと分かった。精神的にも追い詰められてるようなんだ。

彼女が会社を辞めればいいんだろうが、それじゃ何も解決しないよな。

今回の依頼には彼女の心の傷を癒すことが重要なんだよ。

だから、岸くんにも今回協力してもらって、ダイコー印刷の膿を出してしまおうと思ってね。だから、彼女の事情聴取をしてもらおいかと思ってね。」

「おい、紫音。それはまずいんじゃないのか?彼女の承諾なしにそんなこと約束しちゃって、大丈夫なのかよ。」

と、僕が紫音をたしなめると、ニヤリと笑って、

「迅、もう彼女たち?には話をつけてあるよ。もしかしたら、警察が話を聞きたいっていうかもしれないと。

でも、事情聴取には俺らも同席させてほしい。そして、堀田さんと岸くんで聴取してほしいんだけどそれでいい?」

え?紫音は、いつの間に彼女と連絡を取って承諾をもらったの?というか、彼女も本当に大丈夫なの?僕は一気に不安になった。

「なるほど。紫音のお節介が発動しちゃってるわけね。

わかった。それなら堀田さんに話してみるよ。

ところで、彼女たち?って依頼人は一人じゃないの?」

岸くんは不審そうな顔をした。

彼女の事情を事前に岸くんに伝えるべきなんじゃないのかな、と思ったが、紫音は

「まぁ、それは会ってみればわかるって。」

といって、岸くんにウインクした。







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