私の中の私

第5話 解離性同一性障害

紫音はソファに寝転んで、何か考えている。

僕は、その横で今回の調査のファイルをタブレットで見ていた。


「なぁ、迅。解離性同一性障害ってわかるか」

「ん?なに?」

「解離性同一性障害、昔は多重人格って言われてた心の病気だよ。何か特にショックなことがきっかけで、自己の中に別の人格を形成してしまうんだ。」

僕だって、それぐらいは知っている。

「それがどうしたの?」

紫音は神妙な顔で続ける。

「今回の依頼人、解離性同一性障害なんじゃないかと思うんだけど。

幼少期の虐待、いじめ。大人になってからもパワハラ。そして恋人からのDV。

辛い現実から逃れるために、お姉さんを拠り所にしようと自分の中に形成した。そして、人格として分離させることで自分の孤独を癒していたとしたら。」

「うん、だとしたら、僕たちがかかわる案件ではなくなるよね。それは精神科の先生の領分だ。といったとしても、お前は手を引くつもりはなさそうだけどね。」

少し僕は呆れた感じで言ってみた。紫音は悪びれもせずに答える。

「よくわかってらっしゃる。もちろん、俺らでは問題を解決するのは難しいだろうけどな。今回の依頼、どうしたもんかね。」

「俺が思うに、彼女は幼少期に虐待を受けて自己の精神を守るために別の人格を生み出したんだね。それが、亡くなった奈央ちゃんと重なるところがあった。

奈央ちゃんの人格は姉人格で、割としっかり者で面倒見もよくて明るい。

でも、彼女つまりゆう子さんの元人格は引っ込み思案で弱気で暗い。

会社では上司からのパワハラを受けて奈央ちゃんの人格が出ていた。これはゆう子さんの元人格を守るためなんだろうね。

ただ、二つの人格が同時に出てくることってあるんだろうか。」


二人でそんな話をしていると、紫音のプリペイド携帯が鳴った。

「はい、赤崎です。」

紫音はスピーカーで通話している。

「近藤奈央です。初めまして。ゆう子からあなたのことを伺いました。

一度お会いして、お話をしたいのですが、お時間をとっていただけませんか?」

紫音と僕は顔を見合わせた。

近藤奈央。まさしく佐伯ゆう子の別人格ではないだろうか。

「わかりました、では、cafe PRINCEに明日の10時でよろしいでしょうか。」

「結構です。よろしくお願いします。」

電話を切った紫音は、僕に言った。

「迅、お姉さん見つかったかもな。明日、迅も一緒に来てくれるか?」

「あぁ、もちろん。」

僕は答えた。





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