第7話
カナ、いつもありがとう。
この手紙を読んでるって事は、ばあちゃんはもう死んでるんだと思う。
カナには迷惑ばっかりかけたね。リフォームまでしてくれたのにこんな事お願いしちゃいけないんだけど、弟が遺産を欲しがったら相続放棄してちょうだい。
待って、できたら最後まで読んで。カナが可愛くないとか、弟が大事だとかじゃないの。おばあちゃんは、カナが大好き。弟は、嫌い。
でも、そう思えたのは最近なの。
カナはずっと大事だった。けど、おばあちゃんの優先順位は弟が上だったわ。
夫も息子も死んで、頼れる男性は弟だけだからと思ってた。今はそんな事思ってないわ。
本当にごめんなさい。
おばあちゃんが間違ってた。
おばあちゃんは、子供の頃から弟を支えて生きろって教えられてきた。うちは昔から長男が家で一番偉いって考えてる家でね、おばあちゃんもそう思って生きてきた。夫も長男で夫の命令にはなんでも従ったわ。それが当たり前で、嫌だとも思わなかった。
けど、ヤマト君と会って気が付いたの。おばあちゃんは、間違っていた。
ヤマト君は長男だけど、うちの弟や息子のように偉ぶった所が一切ない。カナを大事にしてくれるし、家事だって料理だってする。何度かヤマトくんと話をして、おばあちゃんの家はおかしかったんだって気が付いたわ。
おばあちゃんの知ってる男の人は、みんな偉そうだった。目の前の新聞も自分で取らない。全部命令する。父も、弟も、夫も、息子もそうだった。けど、ヤマト君は違う。
ごめんねカナ。カナのお母さんとカナを苦しめたのはおばあちゃんなの。おばあちゃんは、ヤマト君に会うまで自分がおかしいと気が付かなかった。カナのお母さんが、息子が働かなくて困ってるって訴えても、妻は夫に従うものだって相手にしなかった。
息子をちゃんと教育すれば……あんな子にならなかった。もしかしたら、あの事故も起きなかったかもしれない。
ヤマト君と話すたびに、自分がおかしいと気が付いていく日々は恐ろしかった。だけど自分の過ちに気が付いたおかげで、カナに迷惑をかけずに済む。
実はあの家は定期借地権が設定されているの。あと数年で、家を壊して更地にしないといけない。だけど大家さんが優しい人でね、一千万円で土地を売ってくれるって話になってるの。生命保険に入っていて、保険金が一千万だったから……おばあちゃんが死んでも土地が買えるって思ったわ。生命保険の受取人は弟にしていて、弟に全て渡すつもりだった。
安心して。今はカナを受取人にしてるし生命保険の事は弟に言ってないから。
余命宣告をされて、財産を弟に全て譲らないといけないと思ってこんな事をしてしまったの。色々準備してたら頑張って貯めた貯金もほとんどなくなってしまった。家をきれいにしたいって言ったら、カナがリフォームのお金を出してくれて。つい、甘えてしまったわ。ごめんなさい。
あの時のおばあちゃんは愚かだった。これで綺麗な家を渡せる。弟に怒られないで済む、そう思ってしまったの。
何度謝っても足りないけど、謝らせて。本当にごめんなさい。
カナを大事に思っていたのに、どうして弟の事を優先してしまったのか分からない。
ごめんね。もうおばあちゃんは間違えない。
生命保険の受取人はカナに変えたわ。一千万でカナが出してくれたリフォーム代が賄えるか分からないけど、受け取って欲しい。本当は、家もカナに相続して欲しいけど、弟はとってもしつこくてお金に執着するの。私が余命宣告された時、じゃあ遺産は俺のものだって笑ったのよ。カナはあんなに心配してくれたのに。
カナに家はあげられないけど、家は負の遺産よ。ない方がいい。弟はカナがリフォーム代を出したと知ってるから絶対にカナにたかろうとする。
相続放棄して、おばあちゃんの遺産を全部渡して、引っ越して連絡を断ちなさい。おばあちゃんの遺言は守るけど傷ついた。もう会いたくないとか言えばいいわ。ゲーム実況も、出来なくなったと伝えるのよ。そうすれば弟から縁を切ると言い出すわ。
弟に家を押し付けたら、連絡先を告げずに引っ越して。
借地権が切れて家を更地にしないといけなくなれば、弟はごねるわ。お金がない、家がなくなるって騒いでカナにたかる。だから早めに縁を切って欲しい。
大家さんに迷惑かけないように、解体業者との契約は済んでいてお金も支払ってある。土地を買うなら解体費用を返して貰えるように契約してあるわ。だから、弟が遺産を欲しがらなかったらカナが相続して。おばあちゃんとしては、家に縛られず新しい人生を歩んで欲しいと思ってるけど、カナの自由にしてね。
リフォームさせたのに家を取り壊す事になって本当にごめんなさい。あの時のおばあちゃんはおかしかった。
弟の為に、家を綺麗にしておかないといけないと思ってしまったの。
カナを大事にしてるヤマトくんを見て、ようやく自分の間違いに気がついた。
可愛い孫が頑張って稼いだお金を、あんな自分勝手な弟の為に使おうとするなんて愚かだったわ。本当に反省してる。ごめんなさい。
あの時に戻れたら、絶対リフォームを頼んだりしなかった。
ごめんなさい。カナ。
生命保険がお詫びになるか分からないけど、どうかこのお金で幸せになって。
カナ、今までありがとう。カナと過ごした日々が、おばあちゃんの人生で一番幸せな時間だった。
孫のカナが大好きなばあちゃんより
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同封されていた生命保険の証書の金額は一千万。支払いは、口座振替ではなく年払いの振込だった。今年の分までしっかり振り込まれている。問い合わせすれば、カナは保険金が貰えるだろう。
受取人にカナの名前が書かれており、弟には絶対渡すなと証書に書かれていた。
生命保険は相続財産じゃねぇし、証書にばあちゃんの意思が書いてある。万が一生命保険を寄越せとあのじいさんが言っても、ハヤトに相談すれば、良いようにしてくれるだろう。
「おばあちゃん……おばあちゃん……!」
ばあちゃん、ちょっと遠回りしちまったけどばあちゃんの愛情はちゃんとカナに伝わったぜ。
カナは強いけど、折れちまう事もある。その時は俺が支えるから安心してくれ。
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