第5話
「って事で、これからもよろしくね。ヤマト」
配信の最中にコンビニに行ってカナの好物の杏仁豆腐とカシオレを購入しておき、配信を終えたカナに渡すといつものように笑ってくれた。
さっきの険しい顔とは違い、穏やかに笑ってるけど、なんだか無理してるように見える。
やっぱ、ちゃんと話した方が良いな。カナの好きなものを用意して、リラックスしてもらおう。
「おう。今日も配信お疲れ様」
「へへ、稼げるうちは稼がないとね。杏仁嬉しい。ありがとう! ねぇ、明日の配信で結婚するって言っても良い?」
「良いぜ。そうだ、結婚式はしたいか?」
「んー……うちは親もいないし……ヤマトの親戚に変に思われちゃうよ」
「だぁから、そんな言い方すんなって。俺の親はカナの事知ってるし、気にしないよ。親戚もうるさいのはいないけど……式は面倒かな」
「だねー。結婚式に呼びたい人もサエコとセイラくらいしかいないしなぁ。残念」
「そんな言い方するって事はドレスは着たいんだな」
「うん。着たい」
「じゃあさ、リゾートウェディングかフォトウエディングにしねぇ? リゾートウエディングならうちの両親とカナの友達呼ぶくらいで良いし、親戚には土産でも持って挨拶に行けば良いよ。親戚もみんなカナの事知ってるし大丈夫だと思う。実は俺、カナにプロポーズしたくて金を貯めてたんだ。リゾートウエディングするには、まだ半分くらいしか貯まってねえけど、フォトウエディングなら余裕だぜ」
「リゾートウエディングが良いな。半分は私が出すよ。ほら、私稼いでるしさー」
「なぁ、そうやって無理すんのやめねぇ?」
「え?」
「声聞けば分かるよ。今日の配信も、めっちゃ無理してたじゃん。毎日ネタ考えて、ゲームの腕を磨いて、大変だよ。辞めろとは言わねぇ。けど、俺の前でくらい弱音吐いてくれよ。今回だって、手紙が来た時点で相談してくれりゃもっと……!」
「そしたら、仕事放り出して私のとこに来るでしょ?」
「……それ、は」
「ってかさ、休み取ってるって知らなかった。なんで教えてくれなかったの?」
「急遽休みになったんだよ。残業で夜中になったし……」
「そっか。なら仕方ないね。正直、助かったよ。どうして良いか分かんなくてパニックだったし。けどさ、配信の時は上手くやってるつもりだった。そんなに、バレバレだった?」
低い、カナの声。
しまった……!
カナはゲームガチ勢の人気が高い。カナのゲームの腕は高く、俺の事を伝えてもファンはあまり減らなかった。
配信スタイルは人それぞれだが、ゲーム実況はチームで行う方が人気が出やすい。大人数で楽しそうにゲームをしている様子がウケるのだろう。
そんな中、カナは一人でのし上がった。週に一回の質問コーナーも数分のみ。あとはただひたすらにゲームをする。華麗なキャラの動きと、質問コーナーの時とは違う真剣な声。そのスタイルが受けているのだ。カナは、完璧主義だ。自分が求められていることを分かっている。
だから、配信でカナの様子がおかしいと気が付いたなんて言ってはいけなかったんだ。
「違う、待て! 俺は付き合いが長いから、声でちょっと元気ねぇなと思っただけで、ゲームの腕はいつも通りだったぞ! 休みだったから会いたくなっただけだ!」
やべえ、このままじゃ……!
「ごめん。話は明日で。防音室、借りるね。ヤマトは先に寝て」
やっぱりこうなったか。
配信を見直し、何かおかしなところはないか徹底的に確認するつもりなんだろう。
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