第3話
「だから何度も言ってんだろ。カナはテメェの面倒なんてみねぇよ! 行くぞ! カナ!」
「待て! どこへ行くんだ!」
「カナは俺と結婚して引っ越す。もう関わってくるなクソジジイ!」
ブチ切れながらも、全く関係ない地名を言った。もしこのジジイがカナを探そうとした時の為に出来る事をしておきたかったから。
「落ち着けヤマト。失礼しました。私は弁護士の……」
親友のハヤトが営業スマイルで対応してくれる。弁護士と言われて怯んでるけど、遺産を全部渡すと言うとあちらの態度が豹変した。
ハヤトは手早く承認を取り、ばあちゃんの遺言書通りにあのジジイに全ての遺産が渡る事になった。ばあちゃんの遺産は溜め込んだ年金数十万と、この家だ。
「家の相続もお手伝いしますよ」
「ワシは金がねぇぞ」
「ご安心ください。貴方からは一円も頂きません」
ハヤトへの依頼料は、カナが払った。ばあちゃんの遺産より多額の金をカナは稼いでる。いくら治療費で使い切っても、カナならすぐ稼げる。
けど、その事をこのジジイに教える気はない。
「へっ金持ちは違うねぇ。なぁ、ワシを養ってくれよ」
「カナがお前を扶養する義務はねえ! 欲深い事を言うなら遺留分を請求するぞ!」
「遺留分? なんだそりゃ」
「カナさんは直系卑属です。おばあさんの介護を献身的に行い、血縁関係もあり、同居もなさっていました。遺言書で一切遺産が貰えなくても、遺留分を請求する権利があります。逆に、貴方様は遺留分がありません。遺言通り貴方だけに遺産が渡るかどうかは、カナさんが相続放棄するかどうかにかかっています」
「そりゃ困る! オイ! 相続放棄しろっ!」
「カナさんは相続放棄するおつもりです。ですが貴方様がしつこければ気が変わるでしょうね。今後はカナさんへの連絡はお控え下さい。それが、相続放棄の条件です。何かあれば、弁護士である私が承ります。ご安心下さい。既に相続放棄に必要な書類は揃っています。あとは貴方が手続きを行えば、遺産は全て貴方のものです」
「へ、そうかい。困ったらこの家も売れるな。おい、家の荷物はそのままだろうな! 金にするんだからな!」
「カナの荷物はこのカバン一つだけだ」
「見せろ!」
「見るなクソジジイ!」
「いいよヤマト。けど、コレは見せないから。服と下着。後は勝手に見なよ」
「この高そうな壺はなんだ!」
「それ、おばあちゃんの骨壷。これだけは渡さないわよ」
「ちっ……骨壷なんて売れやしねぇ。この家の物は全部俺のモンだぞ!」
「分かってるわよ。けどもう二度と私に関わらないで」
「それは……どうかねぇ、稼ぐんだろ? ゲーム実況でさ」
「カナはもうゲーム実況をやめた」
「は?! やめた?!」
「ゲーム実況はすげぇ過酷な職業なんだよ。じいさんのせいでカナはゲームに向き合えなくなった。実況しようとすると震えて出来なくなっちまったんだよ。だから俺と結婚して、俺が養う」
別のゲーム実況者が引退宣言をしてる動画を見せる。コイツがカナの動画を見てたら終わりだけど、幸い気が付かなかった。良かった、これでカナにタカろうとは思わねえだろう。
引退宣言の動画を見たじいさんは、カナを睨んで怒鳴りつけた。マジでコイツぶん殴りたい。けど、そんな事して俺が捕まったらカナが悲しむ。
必死で我慢していたら、じいさんは信じられねぇ事を言い出した。
「……ちっ! 稼がねえヤツなんて興味ねぇわ! 金に困っても関わってくんなよ! どこにでも行っちまえ! 遺産は俺のモンだ!」
「ほんと、腐ってんなぁ。ばあちゃんの葬式にも来なかったくせに」
「なんだと?!」
「ばあちゃんの遺産、食い潰すなよクソジジイ」
言い捨てると、カナを連れて家を出た。あとはハヤトが上手くやってくれる。涙目になってるカナの頭をひと撫でして、俺の家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます