第2話

「うそ……ヤマト、なんでぇ?」


「会いたくなった」


「嬉しい! けどごめん! 散らかってる!」


「大丈夫。俺が片付ける」


「うー……いつもごめん」


カナはストイックだけど、家事は苦手だ。ばあちゃんと暮らしてた頃は頑張ってたんだけど、ばあちゃんが入院して一人暮らしになった途端部屋が荒れ始めた。


俺が来る時は頑張って片付けてたけどな。付き合い長いんだから片付けが苦手な事くらい知ってるよ。俺は、目の前にある服の山に手を伸ばした。


「なぁ、コレは洗濯で良いのか?」


「ううん、この辺りのは捨てるの。おばあちゃんの服なんだけどもう傷んでるから」


「あー……確かにばあちゃんよく着てたなこれ。けど、良いのか?」


「うん、良いの。私さ、引っ越そうと思って」


「え?! そうなのか?」


「まだ部屋探しとかしてないんだけどね。実はね、昨日こんなの来てさ」


「なんだコレ……金を寄越せ?!」


「おばあちゃんの弟なんだけどね。私がゲーム実況やって稼いでるのを知ったみたいで。おばあちゃんの遺産を渡せ、おばあちゃんの代わりに私が養えって。電話がかかってきてさ、明日ウチに来るの」


「ふざけんなよ! ばあちゃんの介護は丸投げ、葬式だって来なかっただろ!」


「……うん。なんか、家を追い出されたんだって。荷物も届いてる。おばあちゃんの遺産は、あの人に渡るみたいなんだ。見て、これ」


「遺言書……なんだよコレ……全部弟に譲るって……ばあちゃんの面倒を見たのはカナだろ?!」


「私は稼いでるから大丈夫だろうって書いてある。だからね、この家を引き渡さないといけないの。養えって言ってるし一緒に住むつもりみたいだけどそんなの嫌だしさ、しばらくホテルに逃げようかなって」


「ざけんな!」


ばあちゃん、そりゃねぇよ。カナはずっと介護を頑張ってただろ? なんで……一番近くにいた筈のばあちゃんがこんなひでぇ遺言を残すんだよ。これじゃ、カナが可哀想だ。


「カナ、結婚しよう。俺のとこ来ないか?」


「……え、良いの?」


「結婚は今すぐじゃなくても良い。けど、俺にはカナしかいない。最初は同棲でも良い。いつか結婚して欲しい」


「嬉しい! 結婚するっ! でも、ヤマトのお家は大丈夫?」


「うちの親はカナを可愛がってるし、喜ぶぜ」


「ホント?」


「心配なら今すぐ聞いてみるよ」


父さんに電話したら、もう大人だから好きにしろって言われた。母さんは、電話の向こうで大喜びしてる。両親はカナの人柄も知ってるし、ゲーム実況の仕事も知ってる。たまにコメントしたり、貢いだりしてるらしい。カナは俺の親が配信を見てる事は知らない。


「諸々の事は後で考えるとして、今すぐカナの荷物をダンボールにまとめて俺の家に送る。ばあちゃんの物は放っておけ。大事なものは今日送る。取られても構わない物だけ残せ。カナの荷物が全くないのは不自然だし、鞄ひとつ分だけ残してあとは送ろう。ゲーム実況の機材は今夜の配信が終わったらコインロッカーに隠しておこう。送ると明日配信できねえだろ。あとは放置だ。下手に処分して遺産に手出ししたと思われたら困る。住民票は俺の家に移すぞ。閲覧制限もかけておこう。念のため、引っ越す前の住民票と印鑑証明も取っておこうぜ。相続放棄する事になって良いのか?」


「うん、良い。けどもうおばあちゃんの弟とは関わりたくない」


「扶養義務はねぇし、無視だ無視。今日代休で良かったぜ。役所行って、婚姻届も貰おうぜ。そのあと司法書士の先生を探す……あーいや、弁護士の方が良いな。ハヤトに連絡する。アイツ、相続専門の弁護士事務所に就職したらしいぜ。あとは、そうだな。俺のアパート家族で住んでる人もいるし問題ねぇと思うけど、大家さんに住民が増えるって連絡しとく」


「相変わらず仕事早いね。荷物は片付けなきゃって思ってたけど、手を出さない方が良いのか。確かに、あのケチなおじいちゃん難癖つけてくるかも」


「だろ? わかんねぇように取られたくねぇ物だけは今日中に梱包して送っちまおう。電気代とか引き落としになってねぇか?」


「全部コンビニ払いだから大丈夫。おばあちゃんの遺骨は置いて行った方がいい?」


「あの爺さんがばあちゃんを大事にするとは思えねぇ。持って行こう」


「うん。うちは墓もないし……ごめんねばあちゃん、東京に行こう」


「あっちで永代供養してくれる施設を探す。どうせあのじいさんは供養なんてしねぇだろ。四十九日も終わってねぇし役所行った帰りに寺に寄って、引っ越す事を伝えて相談しよう」


「うん。ヤマト、いつもありがとう。私、なんも知らなくて……」


「俺はカナみたいにゲーム実況で稼ぐなんて出来ねぇ。なんも知らないなんて言うなよ」


「それも、ヤマトがアイデアをくれたじゃん」


「ゲームやった事ねぇのに、初見でこんだけ出来るなんてカナはゲームの天才だなって言っただけだぜ」


「あれ、嬉しかったんだ。私あんまり頭良くないし、スポーツも苦手だし、褒められた事なくて……」


「カナはすげえよ。いつもそう言ってるじゃん」


「ヤマトだけだったんだよ。私の事を褒めてくれたの」


「嘘だろ? うちの親もカナを褒めまくってるぜ」


「そうだね。ヤマトのお父さんとお母さんは褒めてくれる。ヤマトのお家、羨ましいんだ。みんな優しいもん。うちはさ、あんまそんな感じじゃなかったし……」


「そっか、ならこれからは楽しい家族になろうぜ」


「うん! よろしくね!」

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