おばあちゃんの愛と、復讐

みどり

第1話

「はぁー……マジで疲れた」


今日は仕事でトラブルがあり、終電で帰宅した。帰ったら日付は変わっていた。くっそ、明日から代休で土日も足して三連休なのに彼女と話せねぇじゃん。


「仕方ねぇ、アレを見るか」


シャワーを浴びてスッキリした俺は、ビール片手にタブレット端末を開いた。


「はーい! 今日も頑張りますね。カナのゲーム配信です!」


「あー……癒される。マジで可愛い。くっそ、リアルタイムで見たかった。電話してえけど……今頃疲れて寝てるだろうなぁ」


俺の彼女は、ゲーム実況をしている。顔出しはしていない。可愛い声と、凄腕のゲームプレイで人気の実況者だ。


「今日は質問コーナーもやります! えっと、彼氏はいるかって? ゲームと関係ないじゃないですかー! ん? こんなゲームオタクに彼氏がいるはずない? そんな言い方ないでしょー! いますよ! めっちゃ優しい彼氏がいますよ! もう5年の付き合いなんですからねっ! え、彼氏の声が聞きたい? うーん、いつもはライブ配信の前にちょっとだけ電話するんですけど、今日は残業なんですよー。今度聞いてみますね。さ、そろそろゲームやろっかな。今日のソフトは新作で……」


「……俺の存在を隠さないところも可愛い。神か。天使か」


画面の中では、厳ついおっさんが敵を倒している。カナの可愛い声で実況されるとギャップがあってなんかイイ。


カナはゲーム機を持ってなくて、ゲームに馴染みがなかった。俺のお古のゲーム機を貸して、練習しまくってここまできたんだからすげぇと思う。


「さ、今日の実況はここまで! また明日よろしくお願いしまーす!」


「なんかちょっと、声が疲れてんな。明日朝イチで電話するか」


カナは、病気になったばあちゃんの介護をしていた。介護に時間を取られるせいで会社勤めが出来ず、医療費もかさみ、家を売る瀬戸際までいった。そんな時、カナが見つけた仕事がゲーム実況だ。カナは必死で売れてるゲーム実況者を観察し、やった事もなかったゲームの腕を磨き、人を惹きつける声を練習した。


こうして、ゲーム実況者カナは人気になり、ばあちゃんの医療費も払えた。カナはばあちゃんの為に稼いだ金をほとんど使ってしまったらしい。だが、ばあちゃんの容体は良くならず……つい先日他界した。


カナに親はいない。葬式でカナは物凄く憔悴していた。それなのに、カナは毎日動画を上げる。過酷な職業だと思う。毎日動画を上げないとすぐ人気がなくなってしまうらしい。俺らみたいに有給なんてねぇし、毎月決まった給料もねぇ。全てが自己責任。


カナはストイックで、追い詰められやすい。普段通りに見せてたけど、あの声は絶対なんかあったと思う。


「……いや、電話は無しだ。会いに行こう」


俺は東京、カナは大阪。俺達は遠距離恋愛だ。元々はカナも東京にいた。けど、親が死んじまってばあちゃんに引き取られたんだ。高校生だった俺達は遠距離で付き合いを続けた。高校生の頃は余裕がなくて長期休みくらいしか会えなかったけど、今は二ヶ月に一回くらいカナを訪ねている。


遠距離恋愛は会いに行くだけで金がかかる。先月会ったばかりだから今月会う予定はなかった。けど、先月は残業が多くて給料がいつもより多い。チケット代とデートの資金くらいは出せるだろう。


俺は手早く旅の準備を済ませて、明日に備えて仮眠を取った。

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