第一話 ~愛娘から『ダンジョン配信』をしたい。と話をされた~

 第一話




「九百九十九……千」


 早朝。庭先で行っている日課の剣の素振りを終えた俺は、首にかけていたタオルで汗を拭う。


「ふぅ……最近は過ごしやすくなってきたとはいえ、まだまだ暑いな」


 四季と称されるものがあるこの国で、今は『夏』が終わり『秋』と呼ばれる季節へと映り変わっていた。


「さて、ルーシーがそろそろ朝ごはんの準備をしてくれてるはずだからな。戻るとするか」


 妻は十年ほど前に病気で他界してしまった。

 それからは愛娘のルーシーと二人で暮らしている。


 家事が全くできない俺に変わり、ルーシーが食事から洗濯まで全てを行ってくれている。


 まったく。愛娘には頭が上がらないな。


 そんなことを考えながら玄関の扉を開けて、家の中へと入る。


 脱衣場で汗に濡れたタオルをカゴに移し、居間へと向かうと、パンの焼ける良い匂いがしてきた。


 居間の扉を開けて中へと入ると、エプロンを着けて台所で料理を作っているルーシーの姿が見えた。


「おはよう、ルーシー。今日もありがとう」


 俺がそう言って彼女に声をかけると、ルーシーはこちらへと振り向いて満面の笑みで言葉を返した。


「おはようお父さん!!もうすぐ朝ごはんの準備が出来るから座って待ってて欲しいかな」

「あぁ、わかったよ」


 俺はそう言ってテーブルの横にある椅子に座った。


 そしてテーブルの横にある新聞紙を手に取る。


『迷いの森に異変・急激な魔力の高まりを計測』


 そんな見出しが目に付いた。


「迷いの森か……Bランクのダンジョンだけど、頭に入れておくか……」


 そんなことを呟いていると、目の前にスクランブルエッグと程よく焼けたトースト。そしてコップに入ったよく冷えたミルクも出てきた。


「お待たせ!!今日のスクランブルエッグは自信作だよ!!」

「あはは。いつもルーシーの料理は美味しいからね。自信作と言うならどのくらい美味しいのか楽しみだ」

「えへへ。そんな褒めないでよー。それじゃあ冷めないうちに食べようか!!」


 俺とルーシーは『いただきます』と声を揃えたあと、朝ごはんを食べ始めた。


 俺はまずは彼女が自信作と言ったスクランブルエッグから箸をつけてひと口食べてみた。


 絶妙な火加減で作られたスクランブルエッグは、ふわふわのトロトロで非常に美味しかった。


「とても美味しいよルーシー。自信作と言うだけのことはあるね」

「えへへ。そう言ってくれると嬉しいなぁ」


 その笑顔を見ながら俺は思う。本当に可愛いなルーシーは。


 今年で十八歳になるルーシーは『動画配信者』と言う職業に着いた。


 料理の作り方などを配信しているようだが、当人のルックスもあり、美少女動画配信者としてかなりの人気があるようだ。

 収入もかなりあるようだが、あまり散財をする性格では無いので、将来のために貯めていると聞いている。


 片親で育てた愛娘だが、とても立派に育ってくれた。

 本当に……俺は何もしてないんだよな……


 そんなことを考えていると、ルーシーが少しだけ言いにくそうに話を切り出した。


「ねぇ……お父さん。ちょっとお願いがあるんだよね……」

「お願い?珍しいな、ルーシーがそんなことを言うなんて」


 わがままをあまり言わないで育ったルーシーだ。

 あれが欲しい。これが欲しい。とか言って欲しかったが、そう言うのが一切なくて困ったことすらあった。


 そんな彼女が『お願い』とは一体なんだろうか?


 ……年頃の娘だ。まさかとは思うが……交際相手と会って欲しいとかか?


 ……俺より強い男じゃなければ認めない。とは言わないが、それなりの強さは欲しいな。


 なんてことを思っていると、ルーシーから言われた言葉は俺の予想の斜め上の物だった。



「その……お父さんのダンジョン攻略の様子を動画配信したいんだよね……」

「……え?俺のダンジョン攻略の様子を動画配信したい?」


 い、意味がわからない。ルーシーが動画配信をしてるのは知ってるが、それは料理を作る動画だろ?


「その……今ね『ダンジョン配信』ってジャンルが流行ってるの……お父さんのカッコイイ姿をみんなに見てもらいたいなって思ってるの」

「俺のカッコイイ姿はちょっと違うと思うが……それってルーシーがダンジョンに着いて来るってことだろ?」

「……う、うん」

「ダメに決まってるだろ!!!!」


 俺が思わず大きな声でそう言うと、ルーシーの身体がビクリと震えた。


「……すまん。大きな声を出したな」

「……ううん。大丈夫だよ……そう言われるってわかってたから」


 ルーシーはそう言うと視線を下に向けて話を続けた。


「わ、私の動画ね……伸び悩んでるんだ……」

「そうか。俺には動画配信は良くわからないんだが……でも、ルーシーが人気だってのは知ってるぞ」


 新聞にも載ってるからな。『期待の新人動画配信者』として紹介されてるし。


「結局はさ……私が可愛いからみんな見てるだけなの。そんなの……すぐに飽きちゃうよ」

「……それで、ダンジョン配信なのか?」

「うん。料理の作り方動画だけじゃなくて、お父さんがダンジョンを攻略してる様子を動画として配信したいの。Sランク冒険者のお父さんの強くてカッコイイ所を、みんなに見てもらいたいってのもあるの」


『Sランク冒険者』


 片手で数えられる程度の人数しかいない、冒険者ランクの最高位だ。

 俺には冒険者として三十年以上の経験と実績がある。

 かなりの数の功績を残してきたから、去年そのランクを拝命することになった。


「だからさ……ダンジョン配信をしてもいいかな?」


 ルーシーは俺の目を見て、初めての『わがまま』を俺に言った。

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Sランク冒険者のお父さんと人気美少女配信者の愛娘が送るダンジョン配信 ~私のお父さんは世界で一番強くて、世界で一番カッコイイんだからね!!~ 味のないお茶 @ajinonaiotya

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