Sランク冒険者のお父さんと人気美少女配信者の愛娘が送るダンジョン配信 ~私のお父さんは世界で一番強くて、世界で一番カッコイイんだからね!!~

味のないお茶

~プロローグ~

 ~プロローグ~




 Bランクダンジョン『迷いの森』


 その入り口で俺は軽く目を閉じながら今日の討伐対象の事を思い返した。


 Sランク魔獣 ケルベロス


 Bランクダンジョンに突如として現れた超高ランク魔獣。

 若手のCランク冒険者パーティが遭遇し、命からがら逃げのびたようだった。


 そして並の冒険者では太刀打ち出来ない事から、Sランクである俺に討伐依頼が来た。

 まぁ、Aランクでもパーティを組めば討伐出来る可能性もあるがな。


 そして、俺は目を開けて迷いの森へと足を踏み入れた。


「3.2.1……配信スタート!!」


 そんな俺の後ろから、愛娘のルーシーの声が聞こえてきた。


「さぁ!!今日も始まったよ!!ルーシーが送る『世界一カッコイイお父さんのダンジョン配信』今日の討伐対象は何とSランク魔獣のケルベロスだぁ!!」



『ルーシーちゃん!!今日も可愛いよ!!』

『迷いの森に突如現れたSランク魔獣ってケルベロスだったのか……』

『パパ頑張って!!応援してるよ!!』


 俺の腕につけられた小型ディスプレイには、そんなメッセージが映し出されていた。


『ダンジョン配信』


 最近流行りの『動画配信ジャンル』のようで、動画配信者を職業にしている愛娘のルーシーの頼みで始めたものだ。


 本当は危険なダンジョンに娘を連れてくるなんて言語道断なのだが、以前勝手に着いてきて問題を起こした事があり、仕方なく許容した形だ。


 軽く後ろを振り向くと、俺の言いつけ通りにしっかりとした装備をした上で、動画配信用の小型カメラを装着したヘルメットを被っている。

 最初はカメラを片手に配信をしていたが、


『両手が使えるようにしなければ着いてくることは許さない』


 と強く言ったので、


『可愛くないからイヤだけど……我慢するよ』


 と言ってヘルメットとカメラが一体になっているものを使うようになった。



「ルーシー。これから先はダンジョンになる。今みたいな大声は控えるように」

「はーい」


『流石お父さん』

『今日もカッコイイ』

『ナイスミドル』

『こういうお父さんが欲しかった』


 そんなコメントが流れてきたが、まぁいつもの事なので気にしないことにしている。


 さて、『迷いの森』を闇雲に歩いても仕方がない。

 俺は『スキル』を使ってケルベロスの居場所を突き止める事にした。


「……ふぅ」


 スキル『鷹の目』


 目を閉じて発動するこのスキルは、使用時に若干の隙が出来ることが問題点だが半径10kmの範囲に存在する魔獣の数や種類を把握することが出来る。


 これにより、ケルベロスの場所に迷わず行くことが出来る。


 そして、数十秒程辺りを見渡していると、ルーシーから声が掛けられた。


「ねぇねぇお父さん。いきなり目を閉じてどうしたの?」

「……鷹の目のスキルを使っていたんだ。ケルベロスの場所が分からなければ闇雲に歩くことになるからな」

「なるほどなるほど……みんな!!今のお父さんは鷹の目のスキルを使ってたんだって!!寝てた訳じゃないよ?」


『知ってた』

『ダンジョンでいきなり寝てたら大物過ぎる』

『目を閉じてるパパカッコイイ』


「それでお父さん。ケルベロスの場所はわかったの?」


 首を傾げるルーシーに、俺は鷹の目で見つけたケルベロスの居場所の話をした。


「あぁ。ここから北に5km進んだところに居る」


『……え?北に5km??』

『鷹の目のスキルって熟練者でも1kmとか最大でも3kmって聞くけど……』

『流石Sランク冒険者……』


「北に5kmだね!!了解!!じゃあ足元に気をつけて、お父さんの後ろを着いていくよ!!」



 こうして、俺はルーシーを連れて迷いの森を進んで行った。


 ちなみに、スキル『鷹の目』は本気で使うと隙が出来てしまうが、範囲を500m程に絞ることによって行動をしながら『常時展開』も可能になる。


 これによって、なるべく魔獣に遭遇しないルートでケルベロスに辿り着くことが出来る。


「ねぇねぇお父さん。全然魔獣に遭遇しないんだけど?これじゃあ撮れ高が稼げないよー?」


 俺の後ろからはルーシーの不満そうな声が聞こえてきた。


「鷹の目を展開しながら歩いてるからな。なるべく魔獣には遭遇しないルートを歩いてる」


『しれっと凄いこと言ってるんだけど……』

『鷹の目って使いながら歩けるの?』

『このくらい出来なきゃSランクじゃないって事か』

『パパが戦ってるとこ見たいな!!』


「お父さん。ちょっと戦ってよー」

「はぁ……わかったよ。ここを少し外れるとサーペントが三体ほどいる。それを倒せばいいか?」


『サーペント!!』

『Bランク魔獣だけど……あれって魔法で倒す魔獣だろ??剣で倒せるの!?』

『パパは確か魔法は使えなかったよね……どう倒すんだろ……』


 そう。コメントにもあるように、俺は魔法が使えない。

 魔力が無いからな。


 サーペントはBランク魔獣だが、基本は炎系統の魔法で倒す。

 その理由は身体の表面がぬめぬめした体液で覆われているからで、この体液が剣を滑らせてしまうからだ。

 別名『剣士殺し』とも言われているな。


 そして少しした所でサーペントの群れへと辿り着いた。

 まだこちらには気がついていないようなので、先制攻撃が仕掛けられるな。


「ルーシー。これから戦闘に入る。絶対に喋るな」

「……(こくこく)」


 ルーシーは俺の言いつけ通りに無言で首を縦に振った。


『お手並み拝見』

『剣でサーペントを倒す所を見れるのか』

『パパ頑張って!!』



 俺は足を音を消してサーペントへと近づく。

 鞘から『ヒヒイロカネの聖剣』を抜き放ち、まずは一体のサーペントを上段から真っ二つに断ち切る。


『……は?』

『いやいやいや!!何で!?』

『サーペントが紙切れみたいに斬られてるんだけど!?』

『ヒヒイロカネの聖剣……やっぱりすげぇな』


 そして、一体がやられた事でようやく事態を理解したのか。サーペントが戦闘態勢に入る。


 さぁ、ここからが本番だな。


 俺は剣を青眼に構え二体のサーペントを視界に収める。

 すると、そのうちの一体がこちらに攻撃を仕掛けてきた。


 大口を開けてその巨体からは考えられないような速度で接近してきた。


 サーペントの牙には猛毒が仕込まれており、噛まれれば即死級である。

 だからこそ、近接戦闘で戦うのは危険であり、遠距離の魔法で戦うことが推奨されている。


 だが、この程度の魔獣で手こずっていては、ケルベロスとは戦えない。


守護しゅご太刀たち月天流げってんりゅう一の型 三日月みかづきまい


『守護の太刀 月天流』


 俺が使う剣技の流派だ。『剛の太刀 紅蓮流』に並ぶ大陸の二大流派と言えるものだ。


 一の型 三日月の舞は神速の太刀筋を横に走らせる技。


 俺は真っ赤なサーペントの口に目掛けて剣を走らせた。


『太刀筋が見えなかったんだけど……』

『ヒヒイロカネの聖剣だけの性能じゃないでしょ……』

『パパすげぇ……』


 二体のサーペントを倒した所で、もう一体はこちらの脅威度を悟ったのか、巨体を翻して逃げをうった。


『あ!!逃げる!!』

『お父さんは遠距離攻撃が無いから厳しいかな……』


 そう。俺は魔法が使えない。

 だが、『遠距離攻撃』が無い訳では無い。


 俺はヒヒイロカネの聖剣を鞘に収めると、それを腰だめに構える。


 そして、それを一気に抜き放った。


「守護の太刀 月天流 三の型 満月まんげつひらめき


 三の型 満月の閃は『刀気』と呼ばれるものを飛ばし、対象を斬り裂く技だ。

 俺の放った刀気は逃げをうったサーペントを背後から真っ二つに斬り裂いた。



『……え?今何したの??』

『刀気を飛ばして敵を斬り裂く技って……射程5m位でしょ?ゆうに50mは離れてたよね……』

『流石Sランク……』


 俺は聖剣を鞘に収めると、ルーシーの元に歩いて行く。


「もう喋っていいぞ」

「はい!!お父さんカッコイイ!!ねぇ、みんなもそう思うよね!!」


『わかる』

『ルーシーちゃんがファザコンだって事は良くわかった』

『パパカッコイイ!!』


「えへへ。私のお父さんは世界で一番強くて、世界で一番カッコイイんだからね!!」



 投稿されたコメントを見ながら、ルーシーはニコニコしながら言葉を返していた。


 まぁ……ダンジョンに愛娘を連れてくることには未だに抵抗がある。

 だが、勝手に着いてこられるくらいなら、しっかりと装備を整えさせて、俺の目の届くところで守っている方が確実だからな。


「よし。これから向かうのは今倒したのとは比じゃないレベルの強さの魔獣だからな」


 俺がそう言うと、ルーシーは真剣な目で俺を見つめ、首を縦に振った。


「はい!!絶対にお父さんの言いつけを守ります!!」


『ルーシーちゃん気を付けてね!!』

『お父さん、ルーシーちゃんをよろしくお願いします』

『ケルベロス討伐……大変だと思うけど頑張って!!』


 こうして俺は、愛娘の視聴者に見守られながら、ケルベロスの討伐を完了した。






Sランク冒険者のお父さんと人気美少女配信者の愛娘が送るダンジョン配信 ~私のお父さんは世界で一番強くて、世界で一番カッコイイんだからね!!~


 第一話へ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る