※一部話の統合が行われた部分があります。接続がかなり怪しくなっている部分がありますがご了承ください。

新たな地へ

「レッドウォードに行くのは良いんだがな...」

「ん?どうかしたのか?」

招かれた祝宴の最中ビルが漏らした言葉をフレッドは聞き逃さなかった。

「なに、少しばかりルクスのことを思い出してな。どこもかしこも皆ルクスの住民って訳じゃあないと信じたいが1人行くだけであんな有様になったからな。6人そろい踏みすればどうなるか...俺はあの雰囲気が少し苦手でな」

「意外だね。お祭りは好きなのかと思ってた」

「好きさ。ただ持ち上げられるのはそれ以上に嫌なんだよ。現に俺はここから逃げ出したい気分だ」

「だからこんなところでお酒飲んでるんだ」

柱の影で一本の空になった瓶を左手に持って右手には残りが半分ほどになった同じサイズの瓶を右手に持って飲んでいたビルの様子をフレッドは揶揄した。

「別にいいだろ?これも1つの楽しみだ」

「えー...」

「gvujknguithyiikhii?」

「大丈夫だ。決してそいつみたいにはならない」

フレッドの肩の上に真っ赤になった頭を置いて全く訳のわからないことを言っているゲイルを空いた方の瓶で指さしてビルが言った。

「whi〜」

「ギリギリ聞き取れたな今のは」

「...ビルは酔わないの?そんなに飲んでも」

「一切酔わないな」

「強すぎるのか弱すぎるのか...」

「両方正解さ、勇者くん」

「あ、公爵」

フレッドの独り言に人の多い方から歩いてきた初老の男性が声をかけた。

「祝宴は楽しんでいただけているかな?そうなのだとしたら申し訳ないのだがそこの魔術師の方に少し頼みがあってね」

「頼み?」

「少しついてきてくれないだろうか?少し内密にしたい要件がある」

「構わないが...」

公爵に連れられてグレイフォードの城の広間から出て何度か右に左にと通路を曲がった後、とある絵画の前で公爵は立ち止まり壁にかけられた絵をずらした。すると小さい真っ暗な穴が出現した。

「《光よ》」

侯爵がポツリと言った時、公爵の掌の上には小さい光の玉が生まれた。それを持って真っ暗な穴の中にあった螺旋階段を降りて行った。2人とも何も言わず、カツ、カツ、と足音が木霊していた。

どれほど下がったころだろうか。やっと螺旋階段が終わり今度はまっすぐに伸びる通路に出た。その通路は1人通るにも壁に服が擦るほどの狭さであった。そしてすぐにまた別の空間へと辿り着いた。そこには、奇妙な光景があった。

15人の女がいた。年齢はまちまちなようだが、全く動かない。姿勢もバラバラだ。

「この人らは?」

「ある時突然...体が動かなくなってしまった私の先祖たちだ...始まりはこのグレイフォードに魔王が攻めてきた当時の公爵の姉だった、と伝え聞いている」

「...呪いか?」

「...そう思ったから最初にレイ殿に頼んでみた...しかしレイ殿でもどうにもならなかったのだ...」

「なるほど、それで俺か。しかし俺はあまり呪いには詳しくないぞ。原因ぐらいはわかるかもしれないが...」

「...」

「...ん?あぁそういうことか」

「...なにかお気づきで?」

「ああ。まあ幾つかな」

眺めているうちに何個か気づいたことを見つけたビルは歩いて行って、最も前に置かれていた女の頬に触れた。

「冷たいな」

「...死人は冷たいでしょう」

「そういうことじゃないさ。少し離れていたほうがいい」

ビルが触れていた女は髪の毛一本動かなかったのに突然体がぐらりと動き後ろに倒れた。

「!?」

「これは説明が難しいな。ま、呪いじゃなかったってことさ。安心しろ。ここに閉じ込めずとも突然化けて人を襲ったりはしない」

「......」

公爵は唖然とした表情でビルが次々と硬直していた人を開放していくのを見ていた。

「これで、最後」

その言葉を合図に最も奥にいた女がビルの手にもたれかかった。既に死んでいるためになにも言うことはなくただどさりと倒れるだけだった。

「一体...どうやって...」

「教えられんな。教えられないし教えてもできないだろう。これができるのは知り合いに数人くらいならいるがそいつらは気紛れすぎてアテにならないしな。また犠牲者が出たなら俺を呼んでくれ」

「......」

「それより早く外に出たい。狭いしなにせここには死体があるんでな」

公爵は光の玉をビルの掌の上に乗せた。ビルは光の玉を少し大きくして自分の前を行かせた。

ビルはゆっくりと歩いてその場を去ろうとした。その時になって公爵は慌てて後ろを振り返って「た、助けていただいて感謝する!」

と声をかけた。ビルはそれをすべて聞き流しながらもともといた広間へと戻っていった。



翌日。

「となると、先行組は俺とオリヴィアってわけか」

「そうなりますね」

一夜明けて4人は小さい部屋を見つけて話し合っていた。

「ゲイルも来るのかと思ったが無理か。さすがに」

「私、お酒で酔ってしまったものは治せないんですよね...」

レイが苦笑しながら言った。フレッドも額に手をやりながらため息を吐いた。

「カミラは重度の怪我、僕とレイはグレイフォードの復旧作業の手伝い、ゲイルは....二日酔い」

「ゲイルらしいな」

「ゲイルさんも居れば力仕事も出来るでしょうし案外悪くないと思いますよ」

「前向きだなぁ....」

「前向きに考えれば、ですけどね。本当はもっと文句を言いたいですよ?」

「わかった、わかった」

長くなりそうな予感がしてビルはオリヴィアの話を途中で止めた。一方レイは明後日の方向を向いて一人だけぶつぶつと何かを言っていた。

「...レッドウォード...」

「おーい、レイ?」

「っ!?いえ、なにも考えていませんよ?ご飯のことなんて考えてないですよ?決して!」

慌てて否定し始めたレイをフレッドが訝しみはじめ部屋が騒がしくなりはじめた。




陽がちょうど真上にきた頃、ビルとオリヴィアはグレイフォードの関所に立っていた。

「ここを抜ければ国外だな」

「次はロッドザード帝国ですね...」

「軍備に金を多く割く国だからな。だが身構えるのはやめておけ。平然としておけばどうにでもなる」

「...」

「まぁそんなことはどうでもよくて本当は陽が上に登って道が歩きづらくなるよりも先に出発したかったんだが」

「...治らないんです。どうやっても」

「致命傷だな」

軽口を叩きながらゲイルは自分の狩人証を衛兵に確認させて通った。続いてオリヴィアも自分の狩人証を見せ、さっさと関所から遠ざかり始めた。

歩き始めて早々にビルが泥濘んだ地面に足を掬われて後ろに大きく倒れかけた。

反射的に風魔術をおこして間一髪のところで背中が雪解け水と泥まみれになることは回避したものの肝を冷やす羽目になった。

「この辺りは寒暖差が激しいんだよな...本来は夏至が近い季節だしな」

「...だから早く行きたかったので?」

「そうに決まってるだろ」

「......」

滑りかけたビルを見てバチが悪くなったのか目をビルに向けるのをやめて真横を向いた。そのせいかわからないがオリヴィアが足を踏み出した瞬間滑って頭から泥に突っ込んだ。

「さっさと行くぞ。何度もこうなっちゃ気が滅入る」

「...滑らないブーツとか持ってないんですか」

「持ってない」

「チェッ...」

ビルが羽織っていたローブを脱いでバッグに詰めながらオリヴィアに声をかけた。オリヴィアは泥まみれの顔だけをビルの方に向けて一縷の望みをかけて聞いたが返ってきた言葉を聞いて軽く舌打ちして起き上がった。

「まぁそんなに悲観するな。確かに馬車の停留所はこの道の状況じゃずっと遠いだろうがコケなければもう汚れないさ」

「......」

「それともぶっ飛ぶか?」

「......最初からそうしてくれませんかね?」

ビルが文字通りぶっ飛んだ提案をしたところその意味を理解したのか文句を言うかのような声色でビルに頼んだ。

「《風玉籠》」

ビルとオリヴィアは1つの風の玉に包まれて空に浮き上がりかなりの速度で前へと吹き飛んだ。着地したところにはちょうど1台の馬車が停留していた。

2人は馬車の横に小さい椅子を置いてその上に座ってウトウトしていた精悍な男に話しかけた。

「御者さん、すみません。この馬車は何処まで行かれますか?」

「ん?レッドウォードまで引き返すつもりだけど...行きたいのかい?」

「はい。運賃はどれぐらいですか?」

「あぁ、1人40レーンだよ」

「乗っていこう。80レーンだよな?」

ビルはカバンから100レーン硬貨を1枚と10レーン硬貨を3枚取り出して椅子に座って休んでいた御者に手渡した。

「まいど。50レーンのお釣りだよ。乗り込んで待ってておくれ」

「じゃ、よろしくお願いします」

先にオリヴィアが乗り込んで座りその後にビルがオリヴィアと人1人分を開けて横に座った。御者もしばらくすると小さい椅子を荷台の方へとやって2頭の馬と木の杭を繋いでいた縄を外してから御者台に乗り込んだ。そして馬車が動き出した。

「いやー、それにしてもとうとう魔王が倒されるなんてね。レッドウォードじゃみんな大喜びさ」

御者が馬車を操縦しながら砕けた調子で2人に話しかけた。

「それほどなのか?」

「そりゃぁそうさ!レッドウォードとグレイフォードは近いからね。兵士はどんどん行ったしメシも送り続けてきた。それがやっと実を結んでくれたんだからな!流石にグレイフォードに住んでた人ほどじゃないけどみんな大喜びさ!」

「ほぉー...」

「実は俺も毎回毎回ビクビクしてたぜ?魔族がもし俺のとこにきたら...ってな。だがしかし!そんな惨めな気分とももうサラバだ。なにせその英雄たちを連れていけるんだからな!」

「...気付いていたんですか?」

「空から降ってくる人なんて世界にそうそう居ないさ!ハッハッハ!」

「肝っ玉が太いからかと勘違いしていたよ」

「よく言われるよ!」

御者はそう笑い飛ばしながら馬を操りレッドフォードへの道を進んでいった。

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