穿

フレッドがただ1人魔王に向かって突っ込む。魔王は剣を両手で握りその剣を受け止めるが魔王の剣は聖剣に押し負けて魔王は後ろに蹌踉めいた。その間にもフレッドは追撃の手をやめようとしない。魔王は翼を使い滞空するが既に上空にはビルがおり、天井を蹴ってそのまま拳を繰り出す。魔王は咄嗟に剣でガードするがビルはむしろ剣に威力を増大させた拳を当て始めた。その狙いを察し魔王はカウンターを諦め一度後ろに下がり距離を取って斬撃を放とうとした。次の瞬間、魔王の左翼と左足の膝より先は斬られていた。ビルが放った風魔術の方が早かったのだ。

魔王は滞空する手段を失いバランスを崩し落下する。落下地点には既に聖剣へと聖力を貯めて構えていたフレッドがおり力の籠もった聖剣で魔王へと突きを入れる。魔王は間一髪片方の翼で風を送り聖剣を避け右足で着地した直後に地面を蹴り前へ突進し下から剣を上に振り上げるがフレッドはそれを見抜いており聖剣でそれを受け止める。そしてフレッドは右足で魔王の身体を蹴り飛ばし身体の左側に聖剣を携え左足で踏み込みながら魔王に斬り掛かった。魔王は翼の再生を停止し一時的に脚の回復速度を上げなんとか左足の再生を間に合わせ勇者を迎え撃つ。聖剣と魔王の剣が鍔迫り合いを起こし数秒停滞した。両者の顔にもう余裕はなく焦燥と怒りの入り混じった表情を浮かべていた。

ビルは滞空したままそのタイミングを伺っていたが両者の動きが止まったのを確認し背中を見せている魔王へと本日何度目か数えることすら面倒なほど撃った魔術を放った。

「《炎矢ブレイスアロー》」「《華火イグニッション》」

「ぐぅっ...!!」

魔王は状況が状況であったために避けることもできず背中で爆発をダイレクトに受け、再生しかけていた片方の翼は疎かまだ残っていた方の翼まで破壊され背中には大きな火傷傷が残った。それでも眼の前で剣を交えている男のほうが危険だと判断し魔王はその場で踏ん張ってみせギリギリと剣を押し返し聖剣を弾いてみせた。それでもフレッドは一歩も退かずに魔王との距離を詰め身体を捻り聖剣を背中まで持っていき身体をもとに戻すと同時に聖剣を思いっきり横に振り魔王が剣でガードしている上から攻撃を加えた。その時不穏な音が響いた。


バキン


今までの蓄積に加え上昇し続けていたその威力に耐えきることができず聖剣の刀身の2/3より先が折れてしまったのだ。

だが剣が破損したのは勇者の剣だけではなかった。

魔王の剣もまた、刀身が半分ほどになっていた。

この短いやり取りの間の中で自身への注目が下がったことを理解していたビルは追撃を加えずに現状負傷している4人の口へそれぞれ治癒薬ポーションを流し込んだ。それぞれの傷口は止血され徐々に塞がっていった。

(治癒薬ポーションの回復は不完全だ。聖女のあの回復とは違って身体に無理をして回復させている。意識が即座に復活するわけでもないし仮に覚醒したとしても負傷部が脆弱だ。完全回復には一定量を20分毎に飲ませて最低4時間はかかっちまう...加えてこういう身体の中に破片が取り込まれた場合は取り出してから回復しねぇと間違った形で臓器とかが再生するだけだ。だが...)

ビルは今丁度戦っている魔王と勇者をちらりと確認した。

(俺が参戦しては意味がない、フレッドに倒させなければ。詰めの場の経験も必要だろう。フレッドと魔王の戦いは...俺もこの場に控えているし氷魔術は封じれるし魔王の剣の斬撃は既に剣が壊れているから使えん...互角だろう。時間は稼げるが流石に内蔵を一度破壊して回復させながら破片を取り除くようなことはできないな...さてどうするか)

破片が食い込んでカミラの回復が思うように行かずどうすべきか思案していた時、1人の男が起き上がり斧を持って魔王の方へとゆっくりと歩いていった。

「まだ手首は再生しきってないぞ。下手すりゃ腹も裂ける。やめておけ」

「気を使ってくれてありがとよ。でもやんなきゃいけねぇんだ」

ビルの忠告を聞かず斧を肩に担いで歩いていく。それはオリヴィアも同様で短剣を2本持ってビルの2歩後ろを歩いていった。

「死にたいのか。レイが復活したわけじゃ__」

「いえ、私は大丈夫です。傷付いても回復させられます」

「そうなの?じゃ、後でしっかり回復させてもらおうかしら」

さらに2人に声をかけていたときに不意に後ろから聞こえた声の方を振り向いてみれば上半身を起こしていたレイと口から血が零れ落ちながらも弓を構えるカミラがいた。

(とんだ美徳の塊だな。まったく。少し手を貸してやるか)

ビルは怪訝そうな顔をしながらも特に動いたりはせずに彼らと魔王の様子を見ていたが彼らの様子を見て小さく嗤いとある術式を用意した。

(さて、ここまでいったら俺も加わりますか)

「《炎矢ブレイズアロー》」

放たれた炎の矢は丁度剣を振り下ろそうとしていた右腕を焼き切り剣はあえなく落下した。その間に勇者は魔王の胸へと聖剣を突き出した。ガードではなく身体を強化して受け止めるという選択をした魔王は聖剣を受け止め左手に力を籠めた。聖剣はガードした胸に折れた切っ先の僅かな凸が刺さった程度でそれ以上進めることはできず、逆にガードの手段を奪われた勇者がモロに拳を食らいかけたその時、魔王の左肩に矢が深く突き刺さりその痛み故か拳と胸に割り振っていた力の制御が乱れ左拳は勇者の頭を殴りつけたもののただ殴りつけたのみでその胸には殴られた痛みを堪えた聖剣がそのガードを破り刺さり始めた。だが心臓を貫くまでには至らずすぐに魔王は聖剣を押し返さんと聖剣を手で抜きつつ胸を再生させ始めた。再生させている力も相まってフレッドの力は徐々に魔王に押し返され始めた。

その時、魔王の背後に短剣が2本突き立てられた。まだ治っていない焼けた背中にオリヴィアが短剣を刺した。これも心臓までは至らなかったがゲイルが斧を水平に振り払った。斧は短剣にまっすぐに当たり短剣は聖剣よりも深く突き刺さり心臓まであと少しというところまで刺さった。魔王は痛みからか大きく仰け反った。その瞬間、力の配分が崩れ聖剣を押し返していた再生が止み短剣の方へと移った。それを見ていっそう力を込めたフレッドは折れた聖剣で魔王の心臓を穿った。


全員にとある意識が芽生えたその瞬間、魔王の身体からかつてないほどの冷気と氷塊が繰り出された。


「いやはや、こうなってくれるとは。万々歳、一石二鳥、棚ぼた...」

ビルはそう嬉しそうに呟きながらあぐらを掻いて口角を上げていた。ビルの背後には結界で保護された5人が横たえられていた。全員、意識はないものの怪我は既に回復していた。

魔王ガルベリアの最期(だと思いこんでいた)氷魔術(だと思いこんでいた)による攻撃は冷気こそ無効化してみせたもののその衝撃は止められずガードの手段を得ていなかった5人は纏めて気絶してしまった。

そしてビルの視線の先には特殊な半透明の結界に身を護られながら地面の上でうめき声を上げてのたうっている魔王の姿があった。

「雑魚どもを狩った甲斐があった...!いやぁ魔王の進化など到底見られるものじゃない...なるほど進化は配下の魂...一定基準を満たした権能があれば出来るのか...!ましてや死に際やら感情を引き金トリガーにして自分の魂と身体の理解を完成させたとは!素晴らしい...この人格とこの遺伝子とこの魂の数でなければ失敗に終わっていたかもしれんなぁ...なんという運命だ...あと19分31秒...30...29...28...」

自分自身でカウントを口ずさみながら嬉々としてその進化の完了を待っていた。

その間、鼻歌を唄いながら本を取り出し魔族の進化についての記述を始めた。上機嫌だったためかペンはとても早く進みその内進化の様子のスケッチを始めた。

全身が激しく変化して苦しんでいる魔王の周りを鼻歌を唄いながら歩いてスケッチするビルはもし第三者がいたならばそれは奇妙な光景に見えることだろう。

ビルは長い時間スケッチを取り続け書いては修正し書いては修正しを繰り返し続けたため終わるころにはビル自身のカウントは残り1分55秒となっていた。

そしてそのカウントが残り30秒になった時、ビルはやっとペンや本を含めた全ての荷物をバッグへと詰め込み終えローブを脱ぎバッグの上に被せ身軽な服装となった。

丁度魔王の進化も終わり魔王の全身からとても強く青白い光が放たれた。その光が放たれると同時に魔王を覆っていた結界は崩壊し消滅した。そして光が収まる頃には1人の男が立っていた。

「クックックッ...なんだ...その姿は?」

「.....?..........??....................!」

口元が完全な進化を遂げきれていないために発言できない今の魔王の姿は翼はなく、身体は1周り小さくなり、髪は黒く、虹彩は先程までよりも明るい緋色で、そして肌の色はビルの皮膚の色に近しい、まさにその姿は「人間」だった。

「人間との友好を望むうちに『the・バケモノ』から『人間みたいなバケモノ』に変わったか?面白いもんだなぁまったく...」

ビルがその姿を見て暫く嘲笑っていた。その間、魔王は自分の身体を見回して軽く拳を前に出したりして身体の動きを確認していた。そしてその確認が終わったタイミングでビルの方に向き合った。

「........!....................!!」

「おっと、逃げんじゃねぇぞ」

身体の力の移動を見切ったビルが軽い脅しの言葉をかけながら魔王を牽制する。そして裁判長が判決を言い渡すがごとく、はっきりとビルは言い切った。

「オマエはたった今『一撃で』殺される雑魚になった」

魔王の顔に焦燥が浮かび上がった。そして魔王の身体から六角形の透明なタイルが出現し魔王を覆い、勇者に折られたはずの魔王の剣が再生しその柄が魔王の手に収まった。

「殺られる前に殺ろうって?いいじゃねぇか。やってみろ」

ビルは顔に笑いを浮かべたままそこから指一本動かすようなことはしなかった。魔王はそれを確認して、空を斬った。

そうした時、ビルと5人を護る空間以外の剣の延長線上にあったもの全てが斬られていた。魔王は斬りたいものが斬れなかったことに激しく動揺していた。

「結局俺は観れず仕舞いだったからなァ...でも案外ショボいなぁ?『空間連続性の応用による剣の延長線上の空間の切断』っつーのは」

「............!?」

「あー...タネを知りたいって?いーぜ、教えてやるよ。『空間』の切断はあくまでも同じ空間にあるものしか斬れねぇだろ?ソレに対して結界っつーのはそもそも『空間を分断してその中に独自の結界を策定する』っつーもんだ。アイツらを斬れなかったのはそれだ。ちなみに俺の身体には常時流動性を上乗せした結界が貼ってあってな?これがまー便利なことこの上ねぇ。こっちの魔術は全部通すが相手の魔術にしろ打撃にしろ毒ガスにしろ洗脳にしろなんだって遮断してくれる良作さ。ま、戦いの常識の範疇だから覚えとけ」

ペラペラと自分の無敵の仕掛けを語るビルに魔王は手を出せなかった。ビルに貼られた結界を観測してその弱点を見出そうとしたのだが、そもそも観測できなかったのだ。

「ちょーっと自慢話が長かったか?まあいい。オマエ、氷だろ?だったら...」

ビルは右手の手を左手の上に重ね、そして下に向けた左の掌には水の球が生成されていた。

「..........ミズ......ダト...?」

口の形がはっきりしてきて言葉が話せるようになったのか魔王が驚いたような言葉を話した。

「ああそうさ。オマエを殺すにはこれでいい」

ビルは左の掌を魔王へと向け、水の球を握り、より加圧していく。魔王は宙に浮かびその上で氷魔術にて迎撃しようと術式を構築した。

「《水蓮仙仏拳すいれんせんぶつけん》」

突如加圧していた水は消滅し巨大な水の仏が顕現し、その仏の拳が魔王に炸裂した。

魔王は反撃カウンターの魔術も防御ガードの氷のタイルも全て粉砕されその拳の直撃を受けた。そして拳の一撃はそのまま魔王を勢いにて消し飛ばした。

魔王が消滅したことを確認すると水の仏を解除し5人のところに貼っていた結界のところへと歩いて戻っていった。

「久々だな。この威力の魔術を使うのは」

「おいおいバカバカバカバカ...俺を巻き込む心積りだったんじゃねーの?色無しカラーレスさんよぉ?」

「そして俺をその名で呼ぶやつも久々に会ったな」

ビルが後ろを振り返るとそこには一匹の魔族がいた。だが特にお互い気にすることもなく、魔族はギリギリ壊れていなかった玉座の椅子にどっかりと座り込みビルは5人のいる結界へと戻り彼らの様子を確認した。

「勇者ねぇ...先代?先々代だっけ?の勇者を殺した奴が今更今代を育てようって?」

「3代前な。まぁ何代目なんて言い方は正直アテにならんさ。なにせ力を授かった順にその番号が付けられるだけだしな」

「順番のルールなんてどーでもいいけどよ。どういう心境の変化だ?」

「変化?なんも変わってないぞ」

「じゃーなんで殺したんだ?」

「しらん。俺とオマエの喧嘩に巻き込まれて潰れた奴なんていちいち数えてられるか」

「あ?あれはオマエの魔術が勇者潰しただけだろ?」

「オマエが弾いたのが飛んでったんだろーが」

ギャーギャーと下らない口喧嘩を始めたビルとその魔族は暫く言い合うととあるタイミングでどっちも電池がきれたようにぱったりと話すのを辞めた。

「よし、賭けようぜ。そこの女が死ぬかどうか」

徐ろに魔族が結界の中にいるカミラを指さして笑みを浮かべながらそう言った。

「負けたら?」

「さぁ?その時決めようぜ」

魔族は肩を竦めて両手を頭の後ろで組み、そして玉座に座ったまま居眠りを始めた。

ビルはそんな状態には目もくれずカミラの体内に残った破片を取り出し続けた。常に回復薬を飲ませているため回復速度は速いがそれでも破片を取り除くことのほうが早かった。

(さて、起きるかどうか。レイが回復してくれりゃ勝率は100%になるんだがなぁ...)

ビルはただその勝負のことだけを考えていた。


帰路にて。

「...なんかすっげぇ体が重い...」

「奇遇だね。僕もだ」

雲一つ無い朝晴の空の下で2人がボヤいていた。

「そう言うな。俺以外全員致命傷だったんだから」

「...何か癪に触れるような言い方をされますね」

「真っ先に致命傷を負った奴はなにも言うなよ」

誰も背負っていないビルとオリヴィアがやいのやいのと言い合いながら誰よりも先導して歩いていた。

「..zzz....」

「......zzz...」

「よく寝てやがる...カミラは仕方ねぇけどさ」

「レイが起きてくれていればそれも無かったんだがな」

「そういやビルは一人旅してたんだよね?」

「常に1人って訳じゃあなかったが...どうかしたのか?」

「あー...ほら、怪我した時とかどうするのかなって思ってさ」

「ん?普通に回復させるだけだが...」

「...回復薬で?」

「いや、回復術を使う」

「え?使えるの?」

「あー、レイとかフレッドが使うようなものとは違うぞ。自分専用だな。なんでそんなことを急に訊いたんだ?」

「...身体が怠いんだよ。ずーっとな。フレッドもだろ?」

「...うん」

「そりゃ副作用だな。身体の能力を一時的に向上させて本来再生できないものも再生させてるだけだから身体に負荷がかかるのはしょうがない。聖力がトチ狂ってるんだ」

「え?そうなんだ」

「当たり前だろ。ただエネルギー使うだけでどっちにもそのエネルギー消費以外の副作用が起こらないのに脚生やしたり胴くっつけたり病気にも毒にも有効...挙句の果てには鬱まで治せるってどういう理論だ」

「確かにそうなのかも?」

「ビルはそういうの会得しようとしたことはあるのか?」

「無いな。完全に。俺の専門範囲を超越してるからってのもあるけどな」

「つまり会得できないってこと?」

「ああ。俺は魔術ならまだ知識はあるが祈術とか呪術は完全に専門外だ」

「なるほどなぁ」

「怠いのは耐えろ。飯食って寝て起きれば元気になる」

「先輩の言う事は違ぇなぁ」

「もう一度眠りたいのか?ゲイル」

「カミラが先に凍えるぞ?」

「そんなお粗末なことはしないさ。その壊れた鎧ごと殴りつづけるだけだ」

「...あー、確かに」

「...ちょっと待て、なんで同意したんだ?助けてくれよ?な?な?」

「いや、そうじゃなくってさ。ほら、色々壊れちゃったし補充しないとなって」

「ここからだとレッドウォードが一番近いか?」

「そうですね」

「レッドウォードか...」

「なんか因縁でもあるのか?」

「あー、いや、まさかこんなに早く故郷帰りするとはと思ったんでな」

「僕、レッドウォードに狩人がいるイメージはあんまり無いんだけど...」

「まぁ俺も貧困街スラム生まれだよ。ただそっから出てきてレヴェンまで行って狩人に...ってなっただけだ」

「レッドウォードか。あそこは飯も美味いからな」

「行ったことあるんですか?」

「何度かな。レッドウォードから向こうはワームドストーンとブロー湖、つまり迷宮遺跡ダンジョンがあるしあの辺のアウトオーバーの迷宮遺跡ダンジョンもあの山脈にある。ゲート谷通っていくとピストル・ハンドル、それも通り過ぎるとサンシャインショットがある。色々と各所とのアクセスには便利なんだよ」

「どこも行ったことがねぇ...」

「普通そうだろうな。余程の貴族階級でもない限り普通は全部は見られんだろうさ」

「わからないよ?狩人とかだったらあり得るんじゃない?」

「河岸を移すのは勇気がいることだ。失敗すりゃどうなるか...わかったものじゃない。それに基本的に狩人が拠点にするポイントの1つの迷宮遺跡ダンジョンなんて得意不得意はあるが大して難易度はかわらないからリスクのほうが高いんだ」

「なるほどね...」

話が一段落したタイミングでフレッドは落ちていた枯れ枝を踏んだ。雪の湿気のせいで音はしなかったがその踏んだ感触がある出来事を招いた。

「......?」

「お、レイが先に起きたか」

「...マジかよぉ」

「...あ...みなさん...あれ?フレッドは...あれ...?」

「おはようございます」

「あ、お、おはようございます」

「あと1人だな」

「ビルさん...あと1人...?ゲイルさん...カミラさんも...あれ?」

自分が誰に担がれているのかを把握出来ていないのか半開きの目で辺りを見回すが当然担がれているので見つからない。一方フレッドは恥ずかしくなったのか顔を赤くして声を出せずにいた。

既にオリヴィアはニヤケ笑いが止まらないのか顔を背けていてビルとゲイルは素知らぬ顔をして歩いていた。


レイが自分が誰に背負われているのか理解したのは起きてから2分以上経過してからだった。理解してから少しばかり小さい喧嘩やらご機嫌取りやらがあったがその話を聞き流していたためビルは何も聞いていなかった。

(レッドウォード...久々に行くが...どう変わっているかな)


雲が晴れて星の見える空が戻ったグレイフォードに戻ろうとしたときにはその壁の上に何十人、いや何百人もの人が騒ぎ踊っていた。外に出ようとしないのは律儀なことだと思ったがよく見ればかすかに開いていてそこから大勢の顔が見えていた。どうやら衛兵たちは律儀にも門を開けずに待っているらしい。だが門の手前まで来た時に開いた門から出てきたのは遠くから確認したときとは違い兵士の集団だった。その先頭に立って率いてきていたのは例の男だった。もう兜をかぶっていないその男が横に移動するとその他の兵士は右と左にそれぞれわかれ、一本の道を作った。率いてきていた男はただ右手を額に当て、ビシッと声をかけた。

「敬礼!」

その声に従い率いる兵も同じポーズを取った。フレッドを先頭にした6人はその道を一言も発さずに通りきった。その瞬間、周りから凄まじい数々の人々が押し寄せた。皆、いつでも逃げられるようにと地味で身軽な服装なんてしていない。皆がそれぞれの職種の制服に見を包んでいる。顔には、暗い色なんてない。

1つの戦いは、ここに終わったのだ。

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