氷雪魔王との戦闘

剣と剣が激しく衝突し、抜剣の勢いのまま魔王を後ろに弾いた。魔王は即座に左手を勇者に向けて詠唱した。

氷晶槍クリスタルランス

左手から放たれた氷の槍は聖剣に砕かれたが、勇者はその威力で後退った。

「《炎矢ブレイズアロー・Ⅱ》」

魔術を使用したばかりの魔王に炎矢を打ち込む。通常よりもさらに威力が増大し速度も大幅に増した炎矢が直撃する。

「《華火イグニッション》」

さらに着弾の瞬間、追加で詠唱して威力を飛躍的に高めて爆発させた。だが魔王は不敵な笑みを浮かべたまま無傷で黒煙を引き裂いて歩んできた。

「怖い魔術師だな。やっぱ早めに倒そうかな?そらっ」

「させねぇ!」

「はっ!」

刀を構えビルに向かって斬り掛かった魔王をゲイルが盾で防いだ。だが、奇妙なことにゲイルの身体だけが後ろに大きく弾かれてビルを巻き込みながら倒れた。間髪入れずカミラが矢を続けざまに2本射ったが魔王は剣でそれらを弾く。勇者が聖剣を構えて正面から突っ込んだのに合わせオリヴィアが後ろに回り込んで短剣2本を持って肉薄した。クロスした2本が魔王の背中に命中するかと思われた時、魔王は仕舞っていた翼でオリヴィアを弾き飛ばした。瞬時に起き上がったものの既に魔王は右手に持った剣をオリヴィアに振り下ろした。短剣2本で漸く止めたオリヴィアに魔王の左手が向けられた。

「《冷波アイスウェイブ》」

「《溶熱点ヒートポイント》」

冷気が魔王の左手から放たれ、オリヴィアを凍らす直前、ビルの炎熱魔術にて冷気が相殺され、さらに魔王の左腕を燃やした。さらに焼けてそこから先が無くなっている部分に矢を打ち込み、回復を遅らせる。

これを好機チャンスと見て、フレッドとゲイルはそれぞれ武器を構えて魔王に肉薄し、一気に振りかぶり魔王に当てたものの魔王はガードしていなかったにもかかわらず微動だにせず、逆に武器だけが後ろに吹き飛ばされ、2人ともその武器に引っ張られるように後ろに飛ばされた。吹き飛んだフレッドに魔王が剣で追撃し、その剣は鎧を貫きフレッドの右の脇腹を突き刺した。フレッドはすぐさま聖剣を魔王に振ったもののまたも聖剣は弾かれ魔王は突き刺した剣を強引に横に凪いで腹を切り裂く。ゲイルはすぐに身体を割り込ませてさらなるダメージを防ごうとしたものの今度は既に回復していた魔王の左の手のひらがゲイルの身体に触れていた。魔王が詠唱しようと口を開いた、その時だった。

「《天狗嵐・乱旋てんぐあらし・らせん!!》」

フレッドとゲイルがいる地点に、上からビルが降ってきて両拳を地面に叩きつけるように空を切った。瞬時にビルを中心とした嵐が起こり、魔王は嵐の中に混ぜ込まれた斬撃を食らいながら大きく後ろに跳ね飛ばされ玉座を破壊するほど強く叩きつけられた。ビルはその風の余波を使って僅かに横に逸れ、2人の上に着地しないように避けた。

「全員集まれ!フレッドは今のうちに治せ!」

身体の一部が凍らされたゲイルと腹を斬り裂かれてダメージを受けたフレッドを庇うようにビルが正面に立って構える。声をかけ終わるころには6人が集結しており、レイが一言呟いた。

「《完全癒術パーフェクト・ヒール》」

光がフレッドとゲイルを包み込んだ。2秒ほどして光が収まり、フレッドの傷とゲイルの凍傷は癒えていた。

「ヤッベェ...間一髪だった...ありがと」

「私も焦ってた...ごめん」

「あの嵐が直撃したのにまだ立ち上がるのか」

短く言葉を交わしたフレッドとレイを含む5人を庇うように立っていたビルは起き上がってきた魔王を見て一言呟いた。

「痛ってー...いやー、怖いな。上からの攻撃って」

「さてさて、どう調理してやろうかな?」

痛がりながら不敵な笑みを浮かべて歩いてきた魔王をみやり、ビルは呟いた。

「怖いなぁ怖いなぁ。俺に攻撃効いてなかったのにどうしてそんな強がれるのかな?」

「強がってんのはどっちだ?」

そういってビルは右肩にやった左拳をそのまま左に振り、空間を殴りつけた。

すると空間にヒビが入り、やがてオレンジ色のガラスのようなものが上からこの空間全体に降ってきた。命中するまえにそれらの破片は消滅した。

「結界があったのか...」

「だから、ですか..」

フレッドとオリヴィアがその様子を見てこれまでの原因を察した。ゲイルはニヤリと笑ったが魔王は相変わらず余裕を崩さない。

「《氷丸弾アイスボール》」

2つの大きな氷の弾が飛んでくるがビルに当たる前に溶けて消滅した。ビルはそれにあわせて接近してきた魔王を避け、既に壊れた玉座の方を目掛けて魔術を構えた。魔王は剣を持って突っ込んだ勢いを殺しきれず5人に突撃したが既にフレッドとゲイルが構えており、聖剣と斧が魔王の剣を受け止めた。

「《炎矢ブレイズアロー》」

魔王は横に飛びながらビルの魔術を左手で受け止めた。

「そんな必死になるのか?やっぱなにか隠してるんだよな?やはりそこにがあるんだな?」

ビルが呟いて風魔術で一気に飛翔し玉座へと到達する。が、そこには結界があった。

ビルは全く動じること無くその結界に右手で触れた。右手は弾かれたものの、。翼を使い急接近してきた魔王を再び風魔術で躱す。突っ込んでまた方向を変化させるのにわずかにその場にとどまったタイミングで、白いレーザーが魔王に命中した。与えたダメージは微量だったが、追撃という選択をやめさせるにはそれだけで十分であり、その間にビルは5人のいる場所へと戻ることが出来た。

「私も少しは戦えるんですよ」

「聖力のレーザーか、良い術だ」

「小賢しい!」

レイが少しだけ誇らしげに言った言葉に対しビルは特に掘り下げることもなく褒めた。その間に魔王が飛翔しその勢いのまま突っ込んできた。フレッドが聖剣で迎え撃とうと剣を構えたがビルはそれを手で静止した。

「なにをっ!?」

「まぁまぁ。見てろ」

そのままビルが魔王を素手で殴りつけた。魔王は剣をその拳に向けて突き出したが、今度はそのまま魔王の剣だけが弾き飛ばされた。そのままビルはがら空きになったボディに左のストレートを繰り出した。

「ぐぁっ!?」

身体強化ブーストを上乗せしていた拳は殴った部分を明確に凹ませ、魔王を後方に吹き飛ばし、ゴロゴロと転がらせた。ビルは追撃せず、その場にとどまった。

「ダメージが...」

「無敵じゃなかったのか!?」

「効いた...」

それぞれのリアクションをするフレッド、ゲイル、オリヴィアを余所目に魔王は再び立ち上がった。魔王の顔は笑ってはおらず、どこか焦燥が見受けられる様子で眉を潜め6人を見ていた。

「...最悪だ」

「オマエにとってはな」

魔王が呟いた言葉にビルが反応した。

「ビル、もう攻撃しにいっていいか?」

「一つ聞いていいか?」

「ん?」

「これまでの戦いは全部このやり方だったのか?」

「そうだけ...どっ!」

「マジかよ...まあ、もういいぜ、攻撃しても。大方終わったしな」

フレッドが魔王の剣を受け止めながらビルの言葉を返した。ビルの言葉を聞いてゲイルが斧を上から振りおろす。魔王はそれを後ろに下がることで避けたがカミラの矢が迫る。魔王の右肩に当たったがカンッという音とともに弾かれて地面に転がった。その間にゲイルとフレッド、それにオリヴィアが一気に前へと出て、オリヴィアは正面からいくと見せかけて横にそれ、少し距離を取ってから後ろから勢いをつけて斬りかかりにいった。魔王は上に飛翔しながら地面に両手を向けた。そして詠唱しようとした時、再び白いレーザーが左手に命中したがダメージはなく、そのまま詠唱された。すぐ後ろに今最も警戒すべき敵がいることに気づかないままに、

「《凍空アイスオーラ》!!」

「甘ぇよ。《融熱ヒート》」

後ろにいる敵に気がついて、後ろを振り返ったものの既に時遅く、翼で防ぐ前にその頭に右のストレートが決まった。技は相殺され3人に届く前に無力化され、魔王は再び吹き飛ばされた。

「また...」

「頭にいったな」

「さっき矢を跳ね返したのに...」

そんなことを言う3人に向けて、着地したビルが言い放った。

「ブツブツ言うな。もうコイツは無敵じゃない」

「無敵じゃない?」

「そうだ。いくらか無敵の仕組みがわかった」

まっすぐ飛んできた氷の槍を横に飛んで回避しながらビルはそう言ってのけた。

「この空間内では少し厄介なことが矯正されている。まずひとつ目に__」

魔王が突き出してきた剣を避け魔王の顔面に殴りかかる。ビルの腕だけが後ろに弾かれた。

「お互いにが設定されている。俺たちの攻撃は全てこれに弾かれてたってわけだ。」

「んなことあんのかよ?」

ゲイルは斧を振り下ろして魔王を攻撃しようとしたが再び斧は弾かれ魔王の剣がゲイルに向く。その向いた剣をフレッドがかわりに受け止めながら2人はビルと会話を続行した。

「それが起こっているのが今の状態だな。両者に設定されることで術者へのデメリットも生じるがその分のリソースを能力上昇バフの使用を禁ずる、という部分に充てがっている。違うか?」

「...さぁな」

魔王は顔を強張らせながらフレッドとゲイルの攻撃を受け止める。だが2人は魔王の剣を押し返して体勢を崩させる。丁度その時魔王の後頭部にオリヴィアが短剣2本を突き出したが効かず、オリヴィアは反撃を避けるために後ろに飛んで避けた。

「今のも無敵時間ですか?」

「いや。見てな。《炎矢ブレイズアロー》」

飛んできた炎の矢を受け止めるしかなかった魔王は剣の腹で受け止めるために構えたが剣に直撃する直前、ビルが小さく呟いた。

「《華火イグニッション

炎の矢は観測不能な速度で帯びた熱が上昇し強烈な光を放ち爆発した。煙から出てきた魔王の体と剣にはダメージが無いように見えた。


 実際、ビルの読みは正しかった。一言一句狂いもなく、淡々とそのシステムを看破してみせた。魔王が無敵だったのは特定の時間だけ。それ以外の時間はただ魔王自身の守りに依存するのみ。魔王はこれまで幾人もの敵を相手にしてきたがこの魔王城のこの空間での戦いに於いてこのシステムが見破られたことはなかった。それもそのはず、魔王は無敵の時間の周期スパンを把握しており、攻撃の時間をその時間に設け逆に終わり際には詰めの手を間違えたような素振りをして守りの体勢に入る。攻撃している間は受けに回るしか無い。攻撃の間に万が一反撃を食らってもその一瞬の思考如きで仕組みがバレることはない。相手がそれで攻めてこないのであれば様子を伺うふりをして自身が無敵になる時間まで待つ。その守りの間にダメージを追ったとしても回復を入れれば単にダメージを追っただけとしてバレることはない筈だった。

身体に満ちる魔素のバランスの変化。負傷したと推測される部分のダメージを被る前後の比較。ダメージを食らった後に回復したのだと完全に見抜かれてしまった。


 自分の立てた仮説が正しかったのだと理解したビルは一度下がりレイになにか耳打ちしてレイの右の手の甲を握ってから魔王のところへと駆けていった。

既に3人を相手にしていた魔王は発動しようとした魔術を解除して剣を振るいビルを迎え撃とうとした。だがビルが魔王の一寸前に到達した時、彼はそれに反撃することなく避けてそのまま駆けて玉座へと向かっていった。

魔王はそれを追撃しようとした時、その背中を猛烈な痛みが襲いかかった。レイが遠くより狙撃したのだ。一瞬痛みで身体が強張り行動できなくなった隙に3人は一斉にそれぞれの方向から襲いかかった。魔王は瞬時に後ろを振り向いて3人に対応すべく剣を構えた。その隙にビルは玉座へと手を伸ばしその座面に触れようとした。

その時、城門のときと同じようにその手は弾かれた。だがビルはニヤリと笑みを浮かべてあのときと同じ青い球体を作り出しその結界に衝突させた。碧い球体は玉座を包むと再び城門のときと同じように結界は破壊された。ビルは破壊された結界に向かって後ろを振り向かずに一つ詠唱しようとした時、なにかが迫るのを感じその場に伏せた。何事かと顔を上げると壁にはつい先程まで首があった高さの位置に大きな斬撃の跡が刻まれていた。瞬時に後ろを振り返りながら身体を起こしすぐさま跳躍した。今度は膝があった高さに大きな斬撃の跡が刻まれていた。

(...何があった?フレッドにビル...オリヴィアまでいただろう?)

疑問に思いながら魔王の方をみるとオリヴィアとゲイルは上下に両断されてその場で呻いておりフレッドはゲイルよりも魔王から遠い位置にいた。

「外したか...あんま使いたくなかったんだぜ?テメーらよぉ?」

「オリヴィア!ゲイル!」

(...2撃!傷の状態から察して恐らく1撃目はオレを狙った攻撃!それにオリヴィアが巻き込まれたのだろう!2撃目は勇者狙いか!)

魔王はあの余裕たっぷりの笑顔を浮かべて今度はレイとカミラを狙い剣を構えていた。

「させない!」

その斬撃が放たれようとした時、勇者は起き上がり魔王の剣その手に持つ聖剣で受け止めようとした。魔王の剣は急に軌道を変え、その剣の軌道上には勇者の頭があった。

「フレッド!」

「死ね、勇者ァ!」

そのまま魔王の剣が縦に振り下ろされ、勇者が死ぬ未来を1人を除いて誰もが想像した時、その除かれた1人が呟いた。

「《炎矢ブレイズアロー・II》《俊影ソニック》」

魔王が魔術が使われたと感じたときにはもう既に左肩が焼き切られており、剣は力なく振り下ろされ、斬撃は放たれることなく終わりその間にビルは両手に半透明の球体をそれぞれ造り倒れている2人のところへと放ち彼らに攻撃が加えられないよう小さい結界を張ってフレッドは蹴りを魔王の腹に入れて攻めに転じた。

その様子を見てビルはフレッドへと一言言い放った。

「30秒!それだけくれればいい!」

「わかった!任せろ!」

「そんな時間くれてやると思うなよ!」

剣戟の音を聞きながらビルは玉座へと振り返って玉座の後ろの壁に埋め込まれた何かに触れそれについて深く解析を進めていった。

剣戟の音以外にも様々な声が聞こえてくる。魔術も使っているのだろう。こちらに何か破片が飛んできた。結界に弾かれて落ちた音もする。フレッドが吹き飛ばされたようだ。魔王がこちらに向かってくるのを感じる。それでも解析をやめる理由にはならない。レイやカミラも魔王に攻撃しているらしい。フレッドもまた参加したらしい。

(...あった。これか。この石盤か)

埋め込まれた何かの正体を理解するとビルはそれを即座に無効化し石盤を破壊し後ろを振り向きながらその左拳を接近してきていた魔王の右頬に命中させた。

魔王はそのまま後ろによろけたが既に勇者の攻撃が来ることを察知していたようで振り向きざまに剣で迎えとうとしたが飛来した矢が魔王の額に突き刺さりそれも叶わなかった。

「はぁぁぁぁぁっ!」

勇者の聖剣はあのときと同じ軌道を辿り魔王を袈裟に斬り裂いた。

「ぐぅ...!」

魔王は呻きながらも傷を回復し再び勇者に向き合った。

その再生の仕方を見て僅かに疑問を抱いたビルは突然玉座の間の壁に向かって走り出し壁を破壊した。魔王は剣戟の合間に僅かに眉間に皺を寄せてビルの方を見たものの

それをスルーした。その様子を見てビルはフレッドに向かって一つの青白い光弾を打ち出しそのまま夜空が広がる城の外へと飛び出していった。フレッドは何事か警戒し、回避を試みたものの魔王にそれを許されずその光弾を右の手の甲に受けた。不思議なことにダメージはなく右の手の甲には術式が描かれていただけだった。

その光弾はカミラの右の手の甲にも命中しており同じような術式が描かれていた。

(聞こえるか!フレッド、カミラ!)

(!)

(?)

(聞こえるらしいな。今は応える必要はない!恐らく魔王は配下の魔族と能力を共有している!あの玉座にあったのは中間地点アクセスポイントだった!俺はそいつらを狩るのを優先する!)

(!)

(!)

(2人の方は傷は治しましたがオリヴィアさんは意識が戻っていません...ゲイルさんももう動ける状況ではないですね...)

(わかった。早急に戻る。それまで3人で足止めしておいてくれ)

連絡を終え風魔法にてはるか上空に舞い上がったビルは目を細め魔族の所在を確認し始めた。空高く飛ぶと同時に、魔族の位置を目視と魔素の流れから感知しようとした。しかし如何せんこの大地の影響で魔素が激しく探し出すのは困難だった。

ビルはバッグからビー玉程度の大きさの水晶玉を5つ、それぞれ別の方向へと投げ飛ばしある程度の探索を行った。

(あまりこうするのは控えたいんだがな。幾つか目星は付けた。そこを襲撃していこう)

1つ目の地点に向かって掌を向け炎矢を放つ。3秒ほど飛んで着地し、その地点が大きな爆発を起こした。

(2匹...いや3匹か。面倒な...)

「《九尾狐炎ユラメクホノオ》」

小さく呟き自身の周囲に9つの炎を発生させそれらのうち8つを目星をつけた地点に、残りの一つを魔王城へと放った。炎はホーミングレーザーのように飛んでいき其々の地点でまた大爆発を発生させた。

(分散させていたか...どうやら8箇所全てにいるらしい。1箇所だけ護りの強い奴がいるな...雑魚まで生きている)

「1つ1つ潰す方が合理的かもな。そう思うだろ?」

「っ!?」

瞬時に目標地点に到達し焦げた大地の上に降り立つ。ビルはちょうどそこにいた魔族の首にかつて奪い取った刀を突きつけながらそう問うた。

「時間はかけられないんでな。死んでくれ」

2本の角を生やしている赤髪で長身の和風の服を着た男型の魔族の首を刎ね、槍を持って攻撃してきた同じような色合いの魔族の女を縦に真っ二つにし、返り血を浴びながら瞬時に空へ舞い上がりまた別の地点へと到達した。

そこは雑魚が大勢生きておりそいつらを庇うように1人の黒い髪のデカブツとその肩に乗った桃色の長髪の巫女のような服を着た女型の魔族が位置取っていた。

ビルは手に炎を生み出すとそれを雑魚とデカブツの方へ投げた。するとデカブツの肩に乗っていた奴が何やら壁のようなものを造り迫りくる炎を押されながらも防ぎ止めようとしていた。

「オマエか。ダメージ効かない要因は」

「!?」

壁を超えナイフを投擲しその女型の魔物の首を貫こうとした時、デカブツの手がそのナイフを止めていた。だがナイフを止めた時、ビルが爆発が発生させデカブツの手首から先を焼き払った。デカブツはもう一方の手でビルに殴りかかってきた。そしてその拳には先程炎を防いでいた壁が貼られていた。ビルはそれを見てホウと1つ息をついてその拳の直撃を右手で防ぎ風魔術にて2人纏めて頭以外を粉微塵にした。

「おおよそ能力の共有だけじゃなく情報の共有もされていたというところか。だからこそ風への耐性を強くした壁を用意したと...」

ビルは地面に着地し、地面に転がった女型の魔族の頭を掴み無表情にて呟いた。

「この俺の話もオマエの記憶を介して共有されているだろうからはっきり言わせてもらおうか。『足掻くな、雑魚』」

言い終わると同時にまだ意識があるその頭を握り潰しデカブツの方の頭も踵落としにて粉砕し逃げようとする雑魚どもに向け炎を放ち焼き尽くした。つい先程までギャァァァだのうわぁぁぁぁだのと泣き叫んでいた声は炎が雑魚どもに到達するとすぐさま消え失せた。

(残るは9匹...しかも魔素量からしてあまり強くはない...先程生きていたのもコイツらから能力を共有されていたからか。ただまあ殺しておくに越したことはない。殺せば魔素の供給やら回復力の増加やらは抑えられるし後々殲滅する手間を省くことにもなる...)

そう判断しその場で目標の地点に向かって炎矢ブレイズアローを6つ放った。辺りの鬱蒼とした木々を焼き払いながら炎矢ブレイスアローは飛んでいき、ビルの前には6本の焼けた道ができた。そのうちの一本を悠々と歩き、やがて着いたところには一匹の魔族が全身に火傷をおった状態で仰向けになって倒れていた。

「ガルベリア...さま...」

「大した忠義だな。もう息絶えそうだってのに俺の方を見てきやがる。せめて情報は伝えようってか。」

魔族の頭を焼き消した後にビルはその忠義だけは褒めてやった。

(おい、3人とも。状況は?攻撃は通じているか?)

(...!ダメージを食らう時間ができるようになってるわ!)

(でもダメージを負わせられない!堅すぎる!あと、レイの意識がない!)

(レイが?)


ここでゲイルは通信中の一瞬で思考した。

(まだ別の箇所に魔王の配下を思しき奴が居る...しかもここからじゃ遠い...恐らく部下を潰されることを避けて遠くにしたのだろう。そこにいる奴は確実に強い。そいつが恐らくガード系の力を持っているんだろう。だが持っていなかった場合は?回復可能なレイがダウンしている以上俺もフレッドらに加勢して2人を庇いながら戦う方が良いか?いや、権能は持ち主を攻撃したほうが手っ取り早く潰せるのも事実...だがここで大っぴらに俺の手札を公開したくもないが...仕方ない。あの小娘が見せた魔術を使うとするか)


(悪い。俺はその権能持ちの討伐を優先する!終わり次第そっちに加勢する!)

(わかったわ!)

(あとそこに仕込んでおいた魔術を発動させておく。しばらくの足止めにはなるはずだ)

(助かる!)

ビルは通信を終え手に炎を生み出してそれを手と手で挟んで圧縮した状態でそこを基点に術式を組む。術式の完成と同時に中心の炎が爆ぜ術式ごとなくなった次の瞬間、ビルから遠く離れた森のとある地点に曇天を突き破って街1つ分にも比肩する大きさの炎の槍が空から降り、落下地点を焼き尽くし激しく爆発した。

(見ているか小娘。落火槍バスターヴァーンとは少なくともこういうものだ。使いこなせんのに無闇矢鱈と難度の高い魔術を使おうとするな)

ビルは炎が完全に落下地点を破壊し尽くしたのを確認すると決闘にて戦った小娘のことを思い出し心の中で彼女に忠告し、滞空状態のまま魔王城へと戻った。

自分が破壊した壁から玉座の間に突入すると全身がボロボロになり肩で息をするほどに弱った魔王と完全に鎧が砕かれてもはや原型を留めていない鉄塊を身にまとっている勇者が対峙していた。ビルが玉座の間に入ってもお互いに読み合って何もしないまま時間が過ぎていった。

その間に壁に激突して流血しているカミラの方へと走って行って傷の状態を確かめた。

(主に内蔵がやられてるのか。心臓と肺は...問題なさそうだな。腕も脚も...背中に破片が食い込んでるせいで流血が止まらないな。早急に手を打たないと失血死するだろう)

後方にいる横たわっているレイの方を見やると杖を持っていた左腕の肘から先が無くなっており吐血の痕があり額からも流血している。

(あっちもマズそうだな...先に負傷した2人は...内蔵とかは既に回復済みか。ただ...2人揃って手首から先が斬られたままだな)

ビルは一通り全員の負傷状態の確認を済ませると未だに睨み合っているフレッドの左肩に手を置いて魔王に向き合った。

(頭に血が登ってるな。安心しろ。俺は今いくらか回復薬を持ってる)

(......)

(だが状況が状況だ。コイツを片付けないと治療できんぞ)

(わかってるよ、そんなことは)

(なら良かった)

「...散々僕の仲間を奪ってくれたな...」

「魔族を殺しただけに過ぎないぞ。俺の後ろにいる奴らにこんな怪我を負わせたやつと何が違う」

「オマエらは侵略者だ...奪い...殺す...どんな理想を抱いているのかさえ理解しようともせずに...!」

「全て己に跳ね返っているというのにな」

「そんな簡単な話じゃない...!」

「ほーお。大方人間と仲良くしたいとか言うつもりか?」

「何故わかっ...」

「《炎矢ブレイズアロー》」

ビルが不意打ちで放った炎矢を魔王はその剣の腹で受け止める。が、魔王は威力を殺しきれず大きく後ろに仰け反った。そんな体勢で勇者の剣を受け止めたが当然踏ん張れるはずもなく後ろによろめいた。

(心做しか剣の腕が上がったか?パワー自体も非常に高くなっているな)

「時間つぶしに付き合ってくれて助かるよ。冷血な魔王さんよ」

「......!」

ビルが言い放った言葉に対して魔王はただ睨むことしかできなかった。剣が届く距離まで近づいたフレッドが左目だけを開けながら非常に強い剣幕で言い放った。

「もう終わりだ。オマエを殺す」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る