調査開始

ジャラガハート迷宮遺跡ダンジョン。レヴェン近くの迷宮でありつい先日迷宮型暴走ダンジョン・スタンピードを起こした件の迷宮遺跡ダンジョンである。ここは階層ごとに下がる深さが大きいせいか一層ごとの強さが全く異なるという少し異質な特性を持つ迷宮遺跡である。そして魔素の質がいいのか何の変哲もない金属がすぐに貴重なものへと変化したりするだけでなく目まぐるしく迷宮遺跡ダンジョンの構造が変化する。そのため昔の地図などは役に立たず潜る際は常に最新の地図が必要である。

だが今回は迷宮暴走ダンジョン・スタンピードが起こったばかりである。何がどうなっているのかもわからないため探索者の加護の効果や彼らの習得している技能スキルが重要となる。そのためにもオリヴィアを待つ必要があったのだ。

6人は迷宮遺跡ダンジョンの入り口の近辺に集まるとフレッドが口を開いた。

「事前に伝えたが今回は数日かけてゆっくり下層まで行って確かめようと思う。途中で分断されたりしてもなるべく分断される前の地点に集まるように!」

フレッドは普段着とは異なり聖銀ミスリル製のしっかりとした鎧を着て帯刀もしている。ゲイルはゴツい鎧こそ無いものの盾を片手に持って同じく帯刀している。

後衛組のビル・カミラ・レイは戦闘寄りの格好をしているだけの軽装である。探索者のオリヴィアも前衛ながら軽装に他の物より大きめのリュックである。

「じゃあ行きましょう」

オリヴィアがランプを片手に持って扉をくぐり階段を降りていく。5人はそれに続きやがて平坦な通路に出た。全体が石で構成されていて壁には赤い光の松明があり辺りはかなりの部分が苔に覆われていた。そのまま進んでいくと2手に分かれる地点に出会した。

「早速地図と変わってますね。私は右に進むのでフレッドさんはもう一方をお願いします」

「そうだな。4人はあとで分かれて着いてきてくれ」

2人が先にそれぞれの道を行き勇者の方にレイとビルが、オリヴィアの方にカミラとゲイルが移動した。

フレッド達が行った道はかなり先まで行くとまた2手に分かれた。

「またか?」

「ですね...」

「まだ第一層じゃないか」

「俺が左行くぞ」

「ああ。レイはどうする?」

「ええっと...」

「俺は必要ないぞ。1人のほうが戦いやすいしな」

「ホントか?」

「ホントだ。じゃあな」

ビルはそう言って左へと進んでいった。暫く行くと妙に広い角にあたりビルはそれに従い右に曲がった。しかし魔物の姿は確認できなかった。そのまま進んでいくと若干開けた空間に出た。すぐになにか居るのに気がついた。3匹の小鬼ゴブリンだ。ゲゲゲ、グググと妙な声を出しビルの方へと手に持った棍棒を肩に担ぎ向かってきた。ビルは身体強化ブーストを使い地面を蹴って天井も蹴って着地し後ろに回り込んでから拳でそれらの頭に1発ずつパンチを決めた。頭はカチ割れてすぐにくたばった。ビルは何事もなかったかのようにそれらをバラして魔石を3つ手に入れた。左手にそれらをもって再び歩き始めた。が、すぐに壁に当たった。ハズレだったことに少しがっかりしながら今来た道を引き戻す。

つい先程2手に別れたところで少し待つ。辺りを警戒しながら待っていると2人が戻ってきた。

「そっちはどうでした?」

「行き止まりだ。出会したのも子鬼ゴブリンが似合わねえ大きさの空間に3匹。魔石を見てみたがコレと言って特殊なモンは無い。至って普通の奴だな」

子鬼ゴブリンか...俺たちも6匹ぐらいに会ったが普通種だったぞ」

「引き返したほうが良さそうですね」

そう言ってレイが歩き出そうとした丁度のタイミング。

着た時には無かった壁にある不自然な黒い斑点が不定形な形のまま這い出て中に浮かびレイの左右から襲いかかった。レイがそれに気付いた時には左をフレッドが、右をビルがそれぞれ剣で斬り拳で殴り消滅させた。

影霊シャドーゴースト?珍しいな」

「そうみたいですね。実物は初めて見ました」

「ビルはあるのか?」

「...旅してた頃たまに墓地にふらっと行ったりしていた頃は見かけてたが最近は会ってなかったな」

「墓地...?」

不死系アンデッドが多いんだよ。あの辺は」

「でも旅か...そりゃまたなんでだ?」

「んー...強くなるため、だな」

「強くなるためって...」

「単純だな...実際に強くなったのか?」

「おそらくは」

「おそらくかよ...」

話している内に2組に別れた分岐点へとやってきた。先程行った方向とは異なり右へと進んだ。

少し行くとまた分岐があったのだが片方の通路の床には☓が書かれた紙が置かれてあった。

「...探索者は便利だな」

「今は入れて良かったと思ってるよ」

そのまま別の方向へと進むとオリヴィアだけが引き返して来るのに気がついた。

「皆さんそっちの探索は終わりました?」

「すぐにな」

「特に魔物も居なかったからな」

「じゃ、行きましょう。下に降りる通路も見つけてますし」

そういってオリヴィアに3人は付いていく。途中何度も何度も分岐があったのだが迷うこともなくオリヴィアは進んでいく。途中で何度か大きい空間に出たり謎の小部屋があったりするのを見たがそれらをスルーして進んでいくと下へ降りる階段の前で2人が待っていた。

「2層目か...」

「先は長いけど頑張ってこうぜ」

迷宮暴走ダンジョン・スタンピードの直後だからでしょうか?魔物が少なかったですね」

「いや、時間経過でそれはどうとでも増える。早く行かなきゃ帰りがマズイことになる」

「そうね。早くいきましょう」

5人は先に階段を降りていったがビルだけは階段の上に腕を組んで立ったまますこし思慮していた。

「?どうかしました?」

「...予感が外れてくれればありがたいんだがなぁ」

「?」

何がなんだかわかっていない様子の聖女を放っておいてビルは彼らに追いつくためにすこし小走りで階段を降りた。




40分後。

2層目、3層目と同じように分岐が続いたが苦戦することもなく早々と降りていった。

問題は、4層目からだった。

一行が直線の通路を歩いていてビルが偶々前に出ていた時、ビルは突然後ろに跳躍した。

「罠だ」「!罠です!」

オリヴィアが罠の存在を指摘するよりも早くビルは罠の指摘をした。見れば、ビルが居た所、一行が進もうとしている寸前にぽっかりと穴が開いていた。

「罠か...いよいよらしくなってきたか」

「直前まで気づけなかった...そもそも無かった?」

「...その可能性は大いにあるな。とっとと進まねぇとヤバいな...」

「しかもあそこに魔物がいるわ」

分岐した通路の先から子鬼ゴブリンたちが7匹やってくる。皆、戦闘態勢を取っていた。

「1人1体。余裕があるやつは...」

「心構えは素晴らしいが、勇者」


「待ってられないんでな。7匹は俺だ。《風乱刃スラッシュラッシュ》!!」

「一匹寄越しなさい!!」

ビルが風の斬撃を飛ばし6匹を倒したが残りの一匹は額に矢が刺さる方が速かった。

「争う場か?ここ」

「...進もうか。」

呆れるゲイルとそれを最早気にすることもやめて先へ進もうとする勇者だった。

ゲイルはここでも思案していた。そして一つの仮説を立てた。もし、言えば騒ぎになる。ならば、ここで1人で潰すのみ。


迷宮遺跡に最深部あり。されど、知る者は無し。


ギルドに伝わる、有名な話。

迷宮遺跡は深い。故に進みすぎを懸念するものなどいない。何故なら終わりはあるとされていながら、終わりに到達したものは1人もいないからだ。遺跡が長い時間を経て変化したものである以上、終わりはある。だは辿り着いたものは居ない。常識である。

だが実際は違う。現に、この男がそうだ。

だからこそ知っている。魔族がもしもこれに気付いた時の脅威を、自分たちの利便性にもなることを。

また道が分岐した。6人は一層の時と同じ面子に分けられた。さらに分岐した。また同じ面子に別れた。

ビルはまた行き止まりに着いた。だが、ここでビルは壁に右手を付け、グッグッと押して確かめると左の拳で軽く殴った。

当然、魔術を発動しながら。

壁は砕け散りだだっ広い空間へと出た。

これまでとは違い明かりが全くと言っていいほどにない暗い空間に腐った匂い。温度も明らかに低くなっていた。

「尻捲って逃げんのか、殺されにくんのかハッキリしろよ?苦手なモンは克服しねーと大人になれねぇぞ?」

ビルは挑発的な言葉を投げかける。

闇からはなにも帰ってこない。

「魔王に伝えようとしても無駄だぜ。もう結界で閉じてあるからなぁ」

すると闇から幾つかの囁き声が聞こえた。

___あーあ。人間ってとーっても愚かなのねぇ__

__死ぬわよぉ。クスクス__

__人間の死体よぉぉ__

__やったぁぁぁ__

甲高い掠れている女の声がビルの耳にのみ届く。

「おいおいおいおい?雑魚に言葉で攻めさせるってか?心臓無しハートレスよぉ?」

____忌々しい奴め...失せろお前達____

__本当に怒らせたわよ?__

__クスクス。やっぱりバカなのかしら__

____殺すぞ____

やけに殺気立っている声の主が姿を現した。全身骨だけの死人の花嫁というべき姿だが大鎌を持っているそいつは空に浮かんでいて後ろが微かに透けて見える、つまりゴーストだ。

影霊シャドーゴーストを使った時点でなんとなく察したがな。お前、よくもこの前は嵌めてくれたな?心臓も度胸もねぇ癖によく顔出せるなぁ?」

____また姿を現すとは何の用だ?赫眼め____

「殺しに来たに決まってんだろ」

ビルはそういいつつ身体強化ブースト・Vをかけて跳躍しそいつに左手から殴りかかった。

咄嗟に心臓無しハートレスは大鎌でガードした。だがそんなもので止まるはずもなく大鎌は砕けて拳は顔に炸裂した。幽霊ゴーストは実体こそ伴わない故に殴ったとて殴った側には作用・反作用は働かない。だが幽霊ゴーストは動かされる。つまり、自分が前に行く勢いは殺されないまま幽霊ゴーストも後ろに下がるから空中で連打できる。

ビルの拳が一瞬のうちに30発超を叩き込む。吹き飛ばされ結界に激突した心臓無しハートレスは動こうとすらしなかった、いや、できなかった。

__うそ__

__うそ__

__うそ__

__うそ__

「うるせぇぞ」

ビルは脳に流れ込む声の元の小さな幽霊を言無しの炎熱魔術で全滅させる。

____理不尽だ...理不尽だ...なぜ...なぜ...勇者に...____

「採用されたからな。もういいぜ、消えろ」

また言無しの炎熱魔術で焼かれ心臓無しハートレスは消えた。

____報いを...受けるぞ...____

死に際に聞こえたその言葉を無視して結界を破壊した。

「さぁてどうするか...俺は今に来ちまってるんだがどう合流するか...勇者たちは今3層の入り口だろ?うーん...まあこの辺色々探ってみるか」

ビルは戻ることなどあとに回して通路を歩いて次々と部屋を探っていった。


第三階層から第四階層への階段の入り口にて。

つい先程まで第四階層を分岐して道を捜索していた勇者一行は突如その場所に呼び出された。ビルを除いて、だが。

「ん?なんでまたここに戻ってきたんだ?」

「おかしいですね...」

「ビルは何処へ行ったのかしら?」

「そもそも気配すら感じないですね」

オリヴィアが周辺を探るも何も手がかりは得られなかった。

「......」

フレッドは何も言わずに片手を顎に当てて渋い顔をして考える。断片的な情報しかないが、心当たりならある。

それはレイとて同じようで彼女と少し目を合わせたあとに

「とにかく調査を続けてみよう。彼とも途中で合流できるかもしれないから」

とだけ言って再び調査を始めた。

進んでいく第4層はつい先程まで調査していた場所とは大きく変わっていた。

「おや?頂いた地図と一致していますね...」

オリヴィアが一つの分岐ポイントでそう呟き左へと進む。そのまま出てくる魔物などを倒しながら進めば下層へつながる階段に出た。

「地図と完全に一致していました...」

「急に変だな?」

「ですがこの先も一致しているとは限らないので先程までと同じやり方で問題ないかと。」

「そりゃーそうか。...おいフレッド?レイ?聞いてるか?」

「え?...ああ聞いてたぞ。まあ先に進んでいこう。幸い魔物も全然弱い部類の奴らしか湧いてないしな」

そういってさらに下層へと降りていった。



一方、ジャラガハート迷宮遺跡ダンジョン 115層

「やっぱりか?」

ビルが一つの新聞を手に取って一つの不気味な物体に話しかけた。

「馬鹿が。肉体が無い身体の存在が魔物の合成体に憑依できると思ったか?大体お前は魔王だろ?幽霊の。そのくせに憑依の本質をまだ理解できてなかったのか」

話しかけた相手は巨大な肉の塊だった。この世のどの生き物の分類にも該当しない、全く不気味な生物だった。

天井まで15mはあろうかという天井まで届きそうなほどに巨大な球の形をしていていたるところから大小定まらない目の数々が隙間を埋め尽くしており場所によっては、異常に痩せ細った手や足が飛び出していた。もっとも、それだけならまだマシなのだが場所によっては色が変色していてまさしく死体と生きた体の合成という見た目をしていた。

「その用もない目で見てみな。『勇者、初の魔王討伐!戦ったのは亡霊魔王』だってよ。そのお前がなんでここにいるのか...愚問だな。あと今のお前だいぶキモいぞ。《斬風スラッシュ》」

ビルは呆れてため息をついてそれに手を当てて真っ二つに両断された。2つに切り分けられたそれは腐敗臭を発しながら灰となってどこかへ消えていった。

用も無くなったためビルは身体強化ブースト・VIIIを発動して通路を駆け抜ける。途中で現れた守鬼オーガの系統の魔物はビルの軽い蹴り一発で顎を砕かれて即死した。壁で跳躍して、壁でまた飛んで...を繰り返す。途中高度が下がってきたため床を蹴ってまた進む。そうしている内に上へとつながる階段へと出た。

「最下層-1階層、と。何階層あるんだ?ジャラガハートって...」

階段を一気に駆け上がったビルは今度は打って変わってだだっ広い空間に生い茂った密林が広がっているのを確認すると再び道を進み始めた。

出会した鎧を纏い鉄斧を持つデカい猿やら自立して20匹ほどの集団を形成している狼男なんかを全て道すがら倒し、再び階段に辿り着いた。また同じ空間が広がっていてまた繰り返す。一層につき一分を切る速度で駆け抜けていった。


45分後。

「えーーーーっと最下層-55層目、と...」

迷宮遺跡ダンジョンというものの特性上、奥へ進むのはルートがややこしいものの上層へと上がる際はルートが比較的容易で帰りやすくなっている。

そのため全速力で進んでいっても問題自体はないのだが。

疲れないということではない。ビルは階段に座って顔を膝に埋めてうたた寝を始めた。昨日ワクワクしすぎた余り一睡も出来なかったことが裏目に出たようだ。


「..........ろ...きろ......きろ!起きろ!」

「ん?」

顔を上げて後ろを向くと5人が揃っていた。どうやらあの幽閉世界は出られたらしい。良かった。

「ああ、起きたか」

「来るのが遅いぞ」

「ここで待機してらっしゃったんですか?」

「そうだな。下の方に飛ばされたことは辺りの壁やら床やらから察したから来るのを待っていたところだな」

「無責任な...帰ろうかとも話してたんだぞ?」

「え?」

「なんか考えてたのもそれだったのか?」

「ゲイルですら知らないのか?」

「ああ。全く」

「私もオリヴィアもそうよ。そんなこと考えてたの?」

「今はもう考えては無いですよ。懸念していたことはようですし」

「なあ。今何階層だ?」

「今ですか?丁度50層ですよ。今日はこの辺りで寝ようかと話してたんです」

「50?だいぶ飛ばされてたな...」

少し過大気味にリアクションをして疑われないようにはする。

階段前後の少しの空間は魔物に襲われにくくさらに罠も少ない。そのため比較的安全と言えるのだが警戒に越したことはない。聖女が感知妨害の結界を張ってからバッグから各々が食料を取り出し、軽くそれらを食べてから見張りを話し合って決め、結果としてゲイル→オリヴィア→レイ→フレッド→ビル→カミラという順番になった。

そのスペースに寝袋を置いて見張りの者以外は入る。そして準々に眠りについた。


「起きてください。フレッド」

「...ンン..あぁ...見張りか」

「そうです。交代が近いので」

「わかった」

フレッドは寝袋から這い出て立ち上がってレイと少し立ち話を始めた。

「それで、第4層のことなんですけど...」

「...ああ、亡霊魔王が関わってるかもしれねえって話だったっけ」

「そうです。まだ2人の時でしたけど、あの時あの配下に似たような技量スキル使いが居ませんでした?」

「...それに影霊をつけてたのも怪しいしな...ほぼクロか?」

「しかし...」

「それについては俺が話そう」

「ビル?寝なくて良いのか?」

「昼間かなり寝ていたから寝てないぞ。それより、亡霊魔王の件だな。結果から言うと魔王は既に消滅させた」

「消滅?」

「ああ。お前らに負けて力がだいぶ削げていたらしい。肉体の器を造ってそれに乗り移ろうとしてたな」

「...出来るんですか?そんなことが...」

レイの警戒するような声の疑問にビルは眉を片方だけ下げて両目を閉じ首を横に振った。

「無理だ。負担に耐えられる器かどうかとかいう問題を抜きにしてもそもそも存在自体はあるが本来の肉体が「死」の状態であるものが生きている体に乗り移ること自体が不可能だ。肉体が「死」となった以上魂も「死」となる。霊系はそれらが何らかの要因を経て存在している、って感じだな」

「よくわからんが...無謀だったってことか?」

「それを承知でやったのかは知らんが。「死」である魂が生きている体を操縦できようはずがない。死屍術師だってあくまでも死体を直接操るのではなく死体の命令部分に間接的に作用させることで運用しているしな。それに器もその他生物を無理やり合成したようなモノだ。そんなことをすればそれぞれの知能が対消滅しあって本能のみで暴走しはじめる。操縦不可能な状態でな。しかもたちが悪いのが迷宮遺跡ダンジョンと強引に接続していた」

「接続...?まさか」

「この件は多分その暴走のせいだろう。迷宮遺跡ダンジョンの保有する魔素を活かそうとして無事、暴走。最下層から起こしただけでなくそいつの本能で威嚇し続けてたからより深層の魔物が出てきやがった」

「うわぁ...」

「うわぁ...」

一気に顔が青褪める2人。それを見てビルは言葉を繋いだ。

「統括者から聞いた話だが、市民はけが人はいたが死者はゼロ、だったそうだ。まあ被害が拡大する前に終わったのは幸いだな」

「でも私たちのせいで...」

「なに、報告しなければいい。もう終わったことだし、暴走のところは憶測の範疇を出ることはない。あることないこと綯い交ぜにして言うような真似はしない。それでいいだろ」

「......」

「死んだ狩人もリスクを承知で挑みに行った結果だ。責任を感じる必要なんて無い。それでも申し訳ないって思うんなら次に倒す魔王を逃さないために出来ることを考えたほうが吉だぞ」

ビルはそうとだけ言って階段に座り込んで自分の見張り番が来るまで待っていた。

(まぁ、何があっても逃すことはしないが、な)

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