ダンジョン・スタンピード
王との面会の日の次の日。
ビルは潰れかけていた。
「相変わらず広大だが...どこにある?」
間違って市が開かれている場所に入ってしまい凄まじい数の人波に揉まれながら地図を片手に迷っていた。
「本当にこの先か?信じ難いな...」
数分かけてなんとか人の塊から抜け出すと早足で道をゆく。
しばらくすると他の国立の建物と比べれば少し見劣りする規模の建物が見えてきた。
赤みの勝った木の扉を開いてロビーを通り通路を歩いていくと開けた場所に出た。見れば子供の背丈より50cmほど高い本棚の列がずらりと並べられている様がはっきりと見えた。本棚同士の少しの空間には円形の机2つと長方形の机1つが置かれていて少しの空間同士は等間隔に配置されていた。
ビルは国立の図書館に来ていたのだ。とあるカテゴリの本を捜すためだけに来ていたのだ。各棚には紙の表示が貼り付けられておりカテゴリごとに綺麗に分けられていた
が、どうやら1階にはそのカテゴリは無いようだった。
少し歩いて壁際にあった2階へと上がる階段を登る。踊り場を一つ挟んだ20段ほどを上がっていった。
登りきったちょうどのタイミングで火球が頭に命中する。幸い結界で守っていたからダメージは無かったものの何か様子がおかしいことに気付いた。
恐らく学院の生徒と思われる男子女子それぞれ4人ずつが群を作っていた。手前側に女子の集団が、奥側に男子の集団が陣取っていたが女子側は真ん中をサッと開けて分かれていた。しかも全員が揃ってこちらを向いていた。
「...木造の図書館で炎熱魔術を使うな。危ないだろ」
「おいおいおいおいおいおいおい」
「嘘だろぉ!?」
「逃げろ!逃げろ!」
「お、俺も!」
「お前は残れよ!じゃあな!」
トーンを落として一言注意すると男子の集団は何故か左手を前に出していた集団のリーダーと思しき男子1人を残して逃げていってしまった。
「赫眼...」
「なんでここに...」
一方の女子の集団も似たような状態であり1人を除き皆引き攣った顔をしていた。
「...何があったんだ?」
ビルは只々その様子に困惑していた。
「...なぜ炎熱魔術を使ったんだ?事情なしにぶっ放したわけじゃないだろ?」
「えっと...そのー...」
「よお。どうかしたか?」
「いきなり火球が飛んできたんで事情を聞いてるところだ」
この2日間聞いた声を聞きながら肩に手を回した男に声をかける。
「まさか図書館に来てまで一緒になるとはな。ゲイル。図書館とか来ない人間なんだろうなどと推測していたんだが」
「図書館は普段から来るぞ?本は暇つぶしになるしな」
「そうなのか」
「で、事情って?」
ゲイルが真面目な顔に切り替えて彼らに問いかける。
ちなみにビルの身長は190cmを超える長身なのだがゲイルも負けず劣らずの背丈であり前衛職らしくガタイがいいため中々こうして相手に問いかけるとかなりの威圧を与える。半ば脅しのような光景だが競い合うように互いの頭目が話し始めた。
「コイツが魔術は軟弱とかケチつけてきやがったんだぜ?攻撃魔法一つ使えねえのに」
「何よ!騎士の加護もないくせに!」
「加護?なんだ?貴族なのか?」
ゲイルがすぐにそのことについて尋ねる。
するとすぐに少し後ろに陣取っていた少女が話し始める。
「はい、彼も含めて5人とも子爵の家なんですが...私は魔術師の家ではあるんですが騎士の加護を授かれなくて...」
色々と話し始めたのをビルとゲイルは相槌をうちながら聞いていった。
「なるほどなぁ」
「ふむ...?」
聞き終えてビルは疑問を浮かべ、ゲイルは納得した。
「で、そんな大変なことになってたのか...まあ貴族の家なら拘るだろうしなぁ...なあビル、加護なしでも魔術って使えんのか?...ビル?」
「...前提から違うぞ」
「え?」
「魔術は加護ありきではないぞ?」
「...そうなのか?俺全く使えないぞ?」
「...変に誤解しているみたいだな...一旦全員席につけ。解説するから」
頭にハテナを浮かべている5人とゲイルに声をかけバッグからかなり大きめの羊皮紙と赤茶色よりさらに赤みが強い色の本を念動術式を発動させてそれぞれ立てて見やすいように角度を整えた。
「そもそも魔術って一言に言ったって種類分けが多い。まず設置術式型と即時構成型の2種に分かれてさらに攻撃魔術に始まり強化魔術に呪術、そして結界術といった区分が存在する。だが何故か魔術から身が離れている者はこれを一括りにしてしまう。ゲイル、お前はその典型だ」
「あー...まあそうか?」
「その最たる要因として挙げられがちなのが「加護がなければ魔術は使えない」という偏見だろうな」
「そうなんですか?」
「マジか?」
「ああ。決して不可能ではない。ただ強化魔術や呪術は相手をしっかりと理解できなければ行使は難いし設置術式型はかなりの知識を要する。その一方即時構成型の攻撃魔術は戦闘でも使えるレベルで使うことが出来る」
「あんま聞かねえな...」
「攻撃魔術を例に上げるが発動までの経緯は
1,術式の構築
2,魔力の錬成
3,魔力を構築した術式に流し込み思念を流入させる
という3ステップを経る必要がある。みんなこれを理解していないんだ」
「...?そんなの意識したこと無いぞ?」
「だろうな。魔術系の加護はこのステップを簡略化するものだからな。それぞれのステップにおける動作に関連する動きをする」
「つまりどういうこと?」
「加護はあくまでも「補助するもの」でしかないってことだ。やろうと思えば誰だって出来る」
時折反応を見せる6人を前にビルは淡々と語った。
「ですが...魔導書を読んでも全く出来る気がしなかったんですが...」
「魔導書を読んだからって魔術の理解には至らないし大前提としてなーんにも知識がないズブの素人がいきなり「術式組めー」だの「魔力練れー」だなんて出来るわけがないからな。大事なのは「経験」だ。ちょっと手ェ出してみ」
「...?」
ビルは魔術が使えないという少女の疑問に答え手を出させる。少女は何が起こるのか全く理解できていなかったがとりあえず言葉に従って右の掌を上向きにして差し出した。ビルは掌の中心に人差し指を立てた。
「!!」
何が起こったのかを本能的に理解したのだろうか。少女は吃驚した顔そのままに己の掌に向けていた顔をそのままに終始無言で手を何度も握っては開いていた。
「いいか?これが魔力だ」
「なるほど...」
「なぁ、何が起こったんだ?」
「コイツの体内に在る魔素で魔力を錬成してみせただけだ。だが血が良いんだろう。すぐに習得したらしい。同時に弱い風術式も手に組んでやったんだが一瞬で壊せるぐらいの量を造ったか」
「壊れた?」
「自覚は無いようだな。そもそも...《
羊皮紙を浮かせ軽い術式の図を黒く染めて示す。
「術式というものは繊細で一定量の魔力を注がねば使えないしかと言って多すぎればすぐに破壊される。魔力は身体に決して留まろうとはしないからこそ術式を組んでそこに溜めさせるつもりだったんだがここまでとはな。ならこれも解説に使うんじゃなくて渡したほうがいいか?ホレ、受け取れ」
解説しながら取り出した分厚い本を少女に投げ渡す。
「これは...?」
「魔導書だ。俺の手持ちの中でもかなり上質なやつだ。そいつは面白くって魔具と融合しつつあってな、慣れない内はそいつを使えば術式の構築の補助になる」
「え?あ、あぁありが...」
「よかったじゃん!ボニー!」
「魔術が使えるじゃん!」
急に投げ渡した本を受け取りながら頭を下げようとした少女はすぐにそれまで言葉を話そうともしなかった女子たちに囲まれて騒ぎ始めていた。
「なあ、俺にも使えたりしないのか?」
「無理だな」
「なんでだよ!」
「なんでだよと言われてもな...魔術の学習については若い内じゃないと成功しにくいしそれに生齧りの魔術を覚えて使ったって自分が鈍って自分を弱くするだけだぞ?」
「確かに...」
「で、何か言うことがあるんじゃないのぉ?ヴィンス?」
「え、あ、」
ゲイルの問いに真顔で答えている最中に後ろでは詰問が始まっていた。
「ま、頑張りな2人とも。加護あっても無くても出来ることはあるんだよ」
平日のこの昼の盛り、しかも2階の実践スペースには誰も来ていなかったためかその場から離れていくビルの耳には彼らの話し声が長いこと聞こえていた。
しばらく歩いた頃だろうか。目的のスペースに到着した。
何やうっすらホコリを被った特別な装飾までなされている空間の分厚い本から絵本までもがかなりの部分に空きを持った本棚の多いことは言うまでもない。他のスペースに比べても圧倒的に多いにも関わらずビルからすればなんの違和感も感じることはなかった。ページ数は多いとは言わないが少ないとも言わないような本を手に取るとその表紙を確認してページを捲っていった。しばらくしてその本を閉じて元ある位置へ戻しまた読んで...という工程をずっと繰り返していた。
読んだ冊数の合計が20を超えたあたりでビルは目的の内容だった特に分厚い本を手にとって深く読み始めた。
それは「勇者の起源」に関するものだった。
闘ってビルが実感した、荒削りながらも一つの都市をも滅ぼしかねないほどの力。
そして歴代の勇者、更には全ての人間が憎む「魔族」について。
だがその本にさえそれらの起源となることに関する記述に具体的なものはなく伝承の話しか載せられていなかった。
獄神ゼキアと光神レリア。これらの諍いというなんとも曖昧で具体的なことはこれっぽちも書かれていなかった。
(貸し出されている本でさえこの程度の情報しか載っていないだろうな。まあ世界の
ビルが特に残念がる素振りも見せずにその場から階段の方へと歩いていこうとして4歩歩いた時。
何やら図書館全体が騒々しくなっているのに気がついた。勇者について調べる前に話していた5人と逃げてしまったはずの3人をあわせた8人がこちらに向かってきていた。
「何があった?この騒ぎ様はなんだ?」
「ヤバい...
図書館を出てすぐにゲイルと合流し
道は大勢の冒険者と民衆でごった返しており皆が顔に不安を浮かべ口を閉じようとはしない。
ギルドから出てくる人達が皆焦燥しきった顔で噂を広めそれを聞いた人が慌ててふためいてさらにギルドへと向かおうとする。そのせいでルクスよりも大きいはずのギルドへの入り口は非常に狭くなっていた。
「ヤバいことになってんなぁ...」
「メンバーとの合流も不可能なようだな」
「この混乱しようじゃしょうがねぇけどな。とりあえず現場に向かうか?」
「今すぐ出来るのはそれぐらいだしな。東門に向かおう。運が良けりゃ誰かと会えるかもしれないしな」
そう思い立った2人はすぐにその場を後にして東門の方へと走りながら向かった。
手柄を挙げようと思い立っているのか冒険者の姿がかなり多く見られたが同時に担がれて運ばれてくる負傷者の数もかなり多かった。それも単なる打撲や軽い骨折などという類ではなく四肢の一部を千切られた者や顔面が大きく拉げ胴体も肋骨が折られているであろう者、更には首から先を失っていたりして落命している者も多く見られた。その中に知り合いでも居たのだろうか。前を行っていた酒も飲めないだろう年齢の者たちが顔を青褪めさせて足を止めていた。
もし行けば手柄は確かに上がるだろう。だが忘れてはならない。その手柄は命の賭けの勝者にしか渡されないものだから。そのことを念頭に置いていなかった若輩達が彼らの他にも道をゆけばゆくほど多くみられた。やっと着いた衛兵も逃げた東門は血の匂いとあちこちに倒れている負傷者のうめき声と悲しむ悲哀の叫び、然程遠くないところから聞こえる狩人達の闘いの声で満たされていた。
「凄まじい場だな」
「その場の闘いに混じりに行くってのに何ビビってんだ?」
「俺はお前と違って斬り結ぶわけじゃないからな」
そう言葉を交わすとビルは浮遊術式を使用して空へと浮かび上がった。
「守りに行くだけで良いんだな?」
「ああ。そこまで緻密な攻撃はできないんでな。周りの奴らを片付けてほしい」
ゲイルは魔物を倒しながら前へと進み奥の方で戦っている一団へと向かい彼らがダメージを追いかけている所に乱入して彼らを下がらせる。
「さて...全滅してくれると嬉しいんだがどうなることか。《緋雨》」
空高く浮かび上がり戦っている地点に当てないようにして炎の雨を降らせる。緋色の雨粒が魔物に当たった途端その身体を焼き尽くし発生地点全てをカバーする。
多くが死滅したことを確認すると地面付近に降りゲイルと会話する。
「どーなってんだよ今の。お前マジで災害じゃねーか」
「黙ってろ。雑魚を片付けただけだ。その証明に、ホレ見ろ」
濛々と上がる煙の中から駆逐した他の魔物よりも明らかに別格を思わせるような者が近づいてきた。身体は赤く眼は4つ、ねじれた角は鉱石化しており幅広の明らかに両手用であろう柄の長さ・大きさの剣を右手に握り身体は筋骨隆々としていて関節部を除くすべての部位が金属化しておりさらには魔素を吸着しているため妖しい光をうっすら放っていた。
そもそも
そもそも魔素というものは大気中よりも地中の深くに多く集められる傾向がある。下方へと伸びる
これに対する対策とはなにか?ズバリ「数多の人数を用いて大量の魔物を討伐すること」に他ならない。魔素を使わせればいい。ただそれだけだ。
その役目のために
今回はその役目が果たされなかったのだ。
ひとえにギルドのせいである。だが被害の抑制に向かわされるのはギルドの職員じゃない。狩人だけだ。なんとも、酷いものだ。
刹那、
「中々ヤバい奴が来たな?」
「オマケ付きでな」
上を見上げながらビルは愚痴をこぼした。空は曇天で光は少ないがそれでも上に何かいると思わせる威圧感を感じさせるその存在は空にとどまりこちらへの攻撃意思を見せていた。
「こっちの相手は任せる。俺は先にアレを撃ち落とす。街に行かれたらとんでもないことになりかねん」
「オーケーオーケー。...はぁっ!」
ビルは背を
「《風返》」
風は吐息を押し流しに命中するも本体が
「グゥゥオオオオ....!!!!!」
一瞬でそれらが繋がって怒りの咆哮をあげながら左へ一度回り込んでから突っ込んでくる。風魔術の特性を鑑みれば当然の動きだ。ビルはそれを避けながら《
「《
「上出来だな」
「おう。お疲れ」
短く言葉を交わして2人共もと来た門へと帰っていった。
「なぜ2人だけ先走ったんですか?死んでいてもおかしくなかったんですよ?なぜ合流しようと思わなかったんですか?自分がどういう立場なのか把握した上で行動していただききたいんですが?」
門をくぐってすぐに2人は3人に詰められていた。本気で詰めているのは1人だけだったが。
「緊急時だったろ?」
「先に連絡してくれ...」
「それは申し訳ない。合流すべきかと思ったがギルド入り口が混み過ぎていたから入れなかったんだ。それにどうせメンバーが揃い切る前にこっちに来ると考えて先に足止めでもしようかと考えてた」
「あの火の雨が足止めの魔術ですか?先に殲滅することだけ考えていたんじゃないんですか?」
「足止め≒雑魚の掃除という認識だったんだがなあ」
2人は合流できなかったことを誤りながらも悪びれる様子は一切見せようとしなかった。
「まあ2人が無事で良かったじゃないですか」
「お?もう終わったのか?」
「はい。怪我をされた方が一箇所に集められていたので回復させるのにそこまで時間はかかりませんでした」
「無事だったからどうこうで済む問題ですか?貴方達の意識が足りてないんじゃないですか?」
「俺が入ってからまだ街移動したぐらいしかしてねえし...ビルに至っちゃ実戦は初だろ?」
「まぁな。案外いい感触が掴めたんでこれは有意義だった」
「全く...」
「で、この顛末をギルドの人達は知ってるのかしら?」
「多分知らないだろ。とりあえずみんなギルドに引き返すぞ。色々報告しなきゃいけない」
「「おう」」
ギルドに戻ってからゲイルとビルは先に会議室に呼び出され、戦闘した階層守護者の詳細や全体的な魔物の総数と種類などを事細かに聞かれた。
どのように倒したのか、どんな魔術を使ったのか、という質問はなされなかった。本人たちの同意無しにこれらを聞き出すことはできない、とギルドの掟にも記されてはいるがそもそも聞かないということにしてくれたのは彼らなりの配慮だろうか。
2体の階層守護者、
「
「なんですか?それ」
「ん?ギルド職員も知らないので?」
「ああ、それには少し事情があってだな。
「94年前...」
「もしや勇者か?」
「正解だ。ずっと昔にいた勇者による討伐記録が残っている。逆に言えばそれほどの事態だったというわけだ。だが...
「ああ、それは適当にあの場で名付けただけ。気にしなくて良いですよ。さっき言った通りの見た目だというだけです」
「いや、名前を咎める気はないんだが...その見た目の階層守護者はこれまで確認されていないんだ」
「つまり前人未到の領域、ということですか?」
「そうだ。これは凄まじい事態だな...にしても、ビルと言ったか。これを討伐できるほどの力を持ちながらなぜここまで無名だったんだ?」
「サボってたからですね」
「...」
「...」
「...」
「...とにかく近々君たちに依頼を出す。それまで待機していてくれ」
「相分かった」
「わかったぜ。ありがとなマスター!」
「被害の収束に協力していただいて改めて感謝する」
最後にギルドマスターが言った言葉の半ばでドアを閉めて2人は会議室から出てきた。
入れ替わるように数枚の紙を持ったギルドの職員たちが会議室へと入っていった。
「完全解決、とはいかんか」
「まだ何かありそうだぜ。それより今からヒマか?」
「酒か?」
「よくわかってんじゃねぇか。行こうぜ」
ゲイルは半ば強引にビルを連れて酒場へと入っていった。
3日後の昼下がり。
いつものように貴族の応対を様々な場所で勇者と聖女がしている中、ビルはギルドを訪れて依頼ボードを眺めていた。やはり場所が変わると要求される物の内容も大きく変わっていてどの依頼を見ても興味をそそられる物が多かった。
一言も発さずにただ立っている所に一度見た顔の男が左手に手紙を持って歩いてきた。
「すまない、時間は空いているか?」
「ええ。...何の用です?
「少し郵便を頼みたい。今勇者はどこに居る?」
「いいですよ。ん?勇者?パーティへの相談ですか?」
「そうだ。詳しいことはこの手紙に書いてるが見るか?」
「いえ、結構です」
「そうか。じゃあこれを頼む」
「はい、預かります」
ビルは手紙を受け取ってすぐにギルドを出て内円を歩き始めた。
10分もしないうちにこのレヴェンの中で王城の次に大きい場所へとやって来た。
外の壁も建物自体も一際白く、樹木さえ輝かしく見える。
門を通る際に横に立つ門番に話しかけようとしたが彼らは
「どうぞ。」
とだけ言ってなにもせずに突っ立っているのみだった。ビルは不思議に思いながらも門をくぐりその中で最も大きな棟のドアを開けた。ギィィィという重い音を立てて入った中は太陽の光が採光されていて綺麗に並べられた焦茶色の木の長椅子も洒落て見えた。数段上がった所には小さな机と一つの大きな彫像が置かれておりその段には1人の他のものとは風格が違う服を纏っている柔和な顔の男が立っており少し驚いたような表情を浮かべこちらを見ていた。
彼の前で横に広がっていた男女異なるそれぞれの修道衣に身を包んだ二十数人がこちらに顔だけを向けてみな驚いたような表情を浮かべていた。ビルはそれを無視してゆっくりと彼らの方に歩み始めながら奥にいる男に話しかけた。
「止めてしまって申し訳ない。ジルフェルク大司教」
「珍しい方が来られましたね。今日は礼拝に来られたので?」
「俺がそんな人間に見えるんですか?」
「ちょっと程遠いですね」
「でしょうね。今、勇者は何処に?」
「勇者ですか?彼は今ここから左の方の出口を出たすぐの建物に居ますよ。確か......あーすみません、応接室であることは間違いないんですがどれか覚えてないですね。今貴族の方と面会していますよ」
「ありがとうございます。」
「いつか気が向いたら礼拝に来てくださいね」
大司教の案内に従って出口から出て通路を歩きそのまま外へ出る。石畳の上を歩いてその建物へと入った。ほんの僅かに廊下まで話し声が聞こえてきており特に1人の男の声は建物に入ってすぐのビルの耳まで届いていた。ビルはその音が聞こえる部屋の扉の前に立って様子を伺っていた。一度完全に話が切れたタイミングで扉を3度ノックしてから扉を開けた。
やはりというべきか居たのはフレッドとレイ、それから全く知らないでっぷりとした1人の貴族だった。
「ビルさん?教会にくるなんて珍しいですね」
「そうせざるを得ないんでな。勇者、
「
「うむ?うーむ、うむ」
ビルとフレッド、レイは廊下へと一度出た。
「いやー、助かったぜ」
「助かったって...まあ実際助かってるんですが」
「あー、詳しいことは聞かないでおく」
「それより早く手紙を確認しましょう」
レイの一言でフレッドは封をされた手紙を丁寧に開き読み始めた。2人も覗き込んで文を目で追っていた。3人が読み終えるとフレッドは持っていた手紙をレイに回して内容を纏め始めた。
「要は、「ダンジョン内の変化を確かめたいんだが実力者が不在だから俺たちにやって欲しい」ってことか?」
「そうなるな」
「そりゃまたいきなりだな...それに実力者って...」
「でもタイミング的には丁度いいですね。3人加わってから実戦出来ていませんし、ある意味安全かもしれません」
「受けてみるか。となれば...」
フレッドは1人ひょっこりと顔を扉の隙間から出して
「急を要す件が入ったので失礼します!」
と言い切って早足で歩き始めた。レイとビルはそれを追うように同じぐらいの速度で歩いて遠ざかり始めた。
建物を出て教会の敷地から出てから歩く速度を少し落として3人は話し始めた。
「そうは言ってもメンバーを全員呼ぶ必要があるだろう?アテはあるのか?」
「ギルドに居るんじゃないのか?」
「その可能性はあるが...ゲイルについては少しだけ心当たりがあるんでそっちの方に行かせてもらう」
「分かりました。私もカミラさんの場所についてはいくつか見当をつけているのでそっちの方に向かいます。フレッドは...頑張ってください」
「無責任な...」
「じゃ、見つけたらギルドで落ち合おう」
「じゃあな」
「わかりました」
丁度T字路についたのでビルは2人と分かれ左の方へと歩いていく。ビルはそのまま進み3日前の同じ場所へと入り2階に上がった。しばらく歩くと案の定ゲイルが机に座って本を読み込んでいた。ビルはゲイルのすぐ側まで寄って声量を殺しながら話しかけた。
「ゲイル、勇者が招集かけてるぞ」
「マジか、この本返したらすぐ行くわ」
「ギルドで集合だそうだ」
「わかった」
淡白な会話を済ませビルは先に図書館を出てギルドへと向かった。すぐにゲイルも追いついてギルドの扉を開けると奥でレイとカミラが話していた。
「で、招集ってのは何だ?何かあったのか?」
「私達に任務が課されたんですよ。ところでゲイルさんはどこに居たのですか?」
「え?俺は___」
そうして喋り続けて30分が経過した頃。
フレッドが何故か不機嫌そうな表情のオリヴィアを連れて4人の集団に加わった。
「悪い。遅れた」
「急に連れてくるのが悪いんです。服選び中にいきなり呼び出さないでください」
「じゃ、服屋に行くのはしばらくお預けだな」
「どういうことです?」
「まず、なんで呼び出したのかって言うと...」
経緯を説明したところ3人からは無事に理解を得ることが出来た。
「どうする?今すぐ行くか?」
「俺は身軽だからいつでも構わないが...」
「私は教会に少し荷物を取りに行かなければ...」
「俺はここに預けてるからすぐに準備できるぞ」
「私も弓ここに預けてるわ」
「装備は全部宿にありますね。それにいくつか準備したいものがあるので出来れば明日が望ましいんですが...」
「みんな色々取りに行くものがあんのか...じゃ、明日でいいか?8時にここで集合だ」
「「「「「わか/った/ったわ/りました」」」」」
「じゃ、全員荷物取ってきてから解散ってことで」
フレッドがそういうと2人はギルドの受付に行きもう2人はすぐにギルドの外に出て教会の方向に歩いていった。
残された2人はまた別の方向へ歩き始めた。
「...ちゃんと起きれるんだろうな」
「失礼な。私を何だと思っているんです?」
「寝坊常習犯。遅刻魔」
「全く...」
翌日、彼らは8時までに5人が揃い最後の1人がギルドに来たのは10時半だった。
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