アーヴァン王国首都・レヴェン篇

決闘


アーヴァン王国首都、レヴェン。

 ルクスより大きく内陸に位置する巨大な都市であり、アーヴァン王国の首都としての歴史が古く、また敵対国とは山脈を隔てておりさらに魔物の脅威も少ないため人が多く、商業や交通の要所として栄えてきた。

 なにせ巨大な都市であり、人口に関しては軽くルクスの2,3倍はいくだろうか。

 それほどに活気のある場所、というわけだ。

 道も石畳で統一されていて白い建物に橙または赤の屋根が高くそびえ立つ城を中心としてずらりと円形に並ぶ都市は都市の景観を考える者達の努力の結晶、とでも言うべきか。

 王都ともなればその直属に位置する王国騎士団が存在する。白魔銀ミスリルが混ぜられ大きく強度と輝きを増した騎士の美しさはそんな街に馴染みながらも殊更美を強調していた。どうやらこれは4世代前の王家と上位貴族が決めたことらしい。

 ともあれ武と美、芸を兼ねるこの都市はアーヴァン王国の都市の中でも最上位に位置するのだ。

 そんな美しい街の門番に話しかける怪しい男が居た。

 全身ローブ。腰には小刀。あまりにも異質な男はその門番に話しかけた。

「ここはレヴェンか?以前来たときよりも門が派手になっているんで自信が無いんだ」

「...確かにレヴェンだが...」

「ありがとう。...ああ申し遅れた。俺はビル。ビル・クリフトだ。勇者に会いに来た。居れてくれると助かるんだが」

「勇者に、だと?...ふむ、まあいいか...それより身元を証明するものは在るか?」

 手に持った槍の穂先をいつでもビルの首に当てられるよう、門番は臨戦態勢を取っていた。ビルはそんなこともどこ吹く風と言わんばかりに空間拡張バッグの中を漁り、狩人証を取り出し門番に見せる。

「.........ふむ、贋作ではないようだ。通ってよし」

「ありがとう」

 ビルは通り際に門番に声をかけたが門番は応ずることもなく次の来訪者を待ち受けていた。ローブを脱ぎながら門をくぐっていく。

「おぉ...」

 ビルは思わず驚嘆した。一度のみならず何度も来た都市なのに相変わらず辺りに漂う美味しそうな匂いと辺り一面の白い外壁の家並みについ声が出てしまう。

 ビルがルクスを発ってから2日が経っていた。

 軽めの身体強化ブーストを使いながら移動したため時間は大幅に短縮できた。そのため特に疲労などもなく到着し街をぶらりと歩いていた。3年の月日は長いものであり小さな雑貨屋だった場所は理髪店へと姿を変え、木の匂いで充満していて気に入っていた小さな古本屋は隣の建物と共に大理石の床にカーペット敷の店へと姿を変えていた。こればかりは少し寂しい気持ちにさせられた。

 だがそれでも街並みは変わらず行く人の顔には生気が籠もっており相変わらずいい街だ、と思わされた。

 柄にもないそんなしんみりしたことを思いながら円の内側へと入ってゆく。内側には厳選された建物しか存在していないが何せ教会や騎士団本部に加えレヴェンのギルドという顔ぶれであるため人の数の多いことは書き表しようもない。

 ルクスとは違いかなりの数の狩人がおり、中にはビルと同じように魔術を扱うと思われる者や傷負いの狩人、はたまた仮面で顔を見せようとしない狩人と多数存在していた。ちなみにレヴェンの魔物の脅威度が低いとされている原因として近隣に迷宮遺跡ダンジョンの存在があげられる。迷宮遺跡ダンジョンは概ね地下方向へと伸びる。それはレヴェンの迷宮遺跡も同じであり、故に外から魔素が集中しやすく魔物が集中的に発生する。強い物は深層に。弱い物は浅層に。そう分かれるため迷宮遺跡ダンジョンは様々な実力の冒険者にウケるのだ。その他の原因としてそもそも狩人が多いおかげで大事件になる前に物事が解決されるという良い循環を形成できている。恐らくビルと同じくギルドに向かう者の大半は出現状況などの話を聞いてから迷宮遺跡ダンジョンに向かうのだろう。

 ビルはそんなことを考えながらギルドへと向かっていった。いざ扉を開けようとしたのだがなにやら騒々しい。いや騒々しいのはいつも通りの平常運転なのはわかるがなにか面倒ごとの予感がしたのだ。この王都、知り合いなどに心当たりなど全く無かったため恐らくあの一件だろうなと予測を立てた。

 この世は嫌な予感ほど当たるものである。

 2枚ある黒みのかった扉のうち片方を押して入ってみれば何処かで見た顔の5人組が一つの卓を囲んでいるところに1人の如何にも高そうな服を着た10代前半の少女が2人の騎士を後ろに控えさせて耳障りな声を張り上げていた。

「あの、ですから魔術師に関しては__」

「だーから!そのビルとかいう奴はいつ来るのよ!そんなに時間の予測も立てられないほど無鉄砲な男なんて必要ないでしょう!?」

「...今日来るんだよな?レイ」

「そのはずですが...」

「それか気付いてないだけではなくて!?どーせ地味で汚らし___」

「地味で汚らしいか?」

 ビルは脱いだローブを左手にかけてその少女の後ろに立ってその一団に話しかけた。

「もう少し早く来る予定だったんだがな。ついレヴェンで迷ってしまったんだ」

「君が、ビル・クリフトなのか?」

「ああ。俺がビル・クリフトだ。聖女にルクスから引っ張り出されてきたぞ」

 対角に座っているパーティリーダーの男がビルにそう問いかけた。

 ビルは間髪入れずそう答え聖女の方を見た。

「魔術師、来たぜ?」

「なにか用があるのでしょうか、ドリュアス様?」

 話に関わろうとしていなかった体格のいい男と小柄で落ち着いた雰囲気の女がドリュアス様と呼ばれた少女に話しかけた。

「平民は黙ってなさいよ!で、なに?この変なフード持って胡散臭い男が海竜を倒したって?嘘に決まっているでしょう!?聖女様も見る目がないのかしら?」

「胡散臭いか?勇者」

「勇者と呼ばないでくれ、むず痒い。あと、レイから聞いているだろ?」

「パーティに入れ、という件か?」

「それだ。受け入れてくれるか?」

「なにそんな話が進んでいるのよ!勇者!あなたもビルの実力なんて何も知らないでしょう?噂を鵜呑みにするなんて愚かしいわよ!」

「しかし...」

「一理あるな。実力など何も示していない」

「おい?何をする気だ?」

「最悪負けたところで俺は勇者パーティに加入した訳では無いし実害はない。となれば...」

 ビルはそこまで言い切って勇者にとあることの確認をとる。

「勇者、今から魔術師大会に参加を申し込めるか?」

「...まさか」

「ドリュアス様、と言ったか?俺の加入に不服なら条件を飲んでもらおう。条件次第では加入を取り下げる。それでいいだろう?」

「何を勝手に決めているんですの!?私が加入する!それはもはや決していること!」

「そうか。加入するものが2人とは困ったものだ。こういう場合社会ではどう決めるのかな?聖女」

「...決闘です」

「やめろ!それは色々と問題があるぞ!君に罪が降りかかるかもしれ__」

「立場やら権利やらに喧しい家の者だろう?わざわざ先に俺が妥協案を出しているわけだ。なら、どちらが優位かは理解しているだろう?」

「...なに?舐めているの?私を?」

「この程度で怒る小娘には負けるほど弱くはないぞ?」

「小娘...ね。いいわよ、決闘ね。どうなっても文句なしよ」

「嬢様!?なりません!それはあまりにも...」

「ビル!?やめておけ!決して楽に戦える相手じゃないぞ!」

「ビルって言ったかしら?そこまで拘るのは何故?元からあなたは加入できたじゃない」

 勇者パーティの勇者や弓使い、ドリュアス家の娘に仕える騎士までもが決闘を取り消そうとする。

 しかしビルは落ち着き払って全員を黙らせてから、

「なに、利益を取っただけだ。もしコレ以外の選択をしていたら色々と迷惑がかかるだろうからな」

 と淡々と言った。

「いつ決闘するんだ?日時は決めていいぞ?俺は何時でも構わない」

「なら5日後でどうかしら?」

「了承した。逃げることのないようにな」

「...!!覚えてなさい」

 そう言い残してドリュアス様とやらはギルドから出ていった。

 たちどころにギルド内が騒々しくなる。

「おいおいおいおい...」

「勇者パーティ加入を賭けて決闘だと?」

「しかもドリュアス家の...」

「相手はルクスの魔術師ですって?」

「無謀じゃねぇかな」

「どうなるか...それにしても決闘は久々に見れるな」

「楽しみだ!おい!新聞書けよ!」

「...すまないな。いきなり騒がせるような真似をして。改めて言うが俺はビル・クリフト。魔術師だ」

「あ、あぁ。フレッド・スタンフィールドだ。よろしくな」

「盾使いのゲイルだ。ああいうのは面白ぇな!気に入った」

「気に入ったって...ウヴン、カミラ・スペンスよ。弓使いだわ」

「...オリヴィア・ロゼットです...しかしあの騒ぎの起こし方はなんですか?パーティのメンバー探しをしている中でこういうことをされたくはないのですけれど?」

「こうしてメンバーの4人と一緒に会うのは初めてですね。レイ・リラードです。私もオリヴィアさんと同じことが気になりましたね。なにか意図があったので?」

「単に双方の風評の問題であれを通しただけだ。どちらもパーティメンバーであることを強制決定しないことで守れるものもある。あの貴族の娘も高慢だが馬鹿じゃないんだろう。俺の提案を呑んだ辺りでその辺は伺えるがな」

 勇者パーティ所属の5人が其々自己紹介と軽い話をした。

 その中で挙がった疑問に対しビルは淡々と質問を返す。

「それにしても、あの娘は誰だ?」

「ああ、ミライア・ドリュアス。ほら、えーと、ああ。魔術師養成学院の首席だよ。1年なのに末恐ろしいぜ」

「ええ。一度見たことがありますが扱う火魔法も持つ加護もかなり高度でした」

 ゲイルとレイがそれぞれミライアに関する話をする。

(なるほど。どんなものかは知らんがやるだけやってみよう)

 ビルはそんなことを考えながら呑気に5日後を待つことにした。


 ギルドからは他の人に話をしにいったのか人はみるみる減っていきビルはここで真意を話すことにした。

「どちらかが其々の力を使ってあの場で加入することを決定しようものならそれぞれの名誉を損ないかねない。その場において互いに同じ力の権力があり先にこちらが妥協案を述べてなお受け入れられなかった以上対等に決闘を申し込める。こうして負けたとしても俺はまだ勇者パーティではないし勇者パーティにも実害は与えない。そうだろ?」

「なるほどねぇ、そんな面倒くさいことを考えてたのか...」

「決闘がしたいだけなのでは?」

 ただのプライドだけではなかった決闘の理由を説明したところゲイルは頭から信じ込みオリヴィアは当初の疑いを覆しはしなかった。

「まあそれも理由の一部だが基本的にはこの通りの目標にそって動いただけだ」

「...勝算はあるのかしら」

「無かったらあんな真似はしないぞ」

「あるのかよ...」

「魔術師はプライドが無ければやっていけん」

「プライドって言ってるじゃないですか...」

「まぁ決闘まで呑気に待たせてもらうさ」

「待つって言ったって5日もあるだろ?どうやって過ごすつもりだ?」

「ここの宿に止まりながらレヴェンを見て回って時間を潰すつもりだぞ。レヴェンに来たことはあんまり無いからよく分からないしそもそも闘技場があるということしか知らないんでな」

「案内するか?」

「頼む。ゲイル」

 そう言ってゲイルは席から立ってビルを連れてギルドから出ていった。

「言ったな...」

「...幸先不安ですね...レイさんとんでもない人を連れてきたのでは?」

「そうかもしれませんけれど実力は確かです」

「マジか?」

「ええ。なんというか、気配からも明らかにミライア様よりも強いと感じさせられましたし」

「強くてもあれは納得いきませんよ」

「まぁ態度とか考え方とかは後々考えようよ、オリヴィア。今は戦力を優先したいし何よりわざわざレヴェンに来てくれているんだから」

 勇者は不満を顕にするオリヴィアを諌め決闘の日を待つことにした。



 それから決闘の内容の濃さのためかレヴェンの街中は決闘の話になり、当日には貴族も含めた大勢の人が闘技場へと押し寄せた。円環に作られた観客席は中央の戦闘域からよく見えた。街に住む一般市民が大半を占めている中で学生や狩人がかなり目立っていた。しかし特に耳に入るのはその学生から飛ぶ声援だ。

「ミライア様ー!」

「そんな奴やってしまって!」

(そんな奴、か。そいつは一体どれほどなのやら)

 ビルはそんな声を聞きながらあることを決めた。

 ビルの目の前には両腕に腕輪をはめた細かな模様が入れられたゆったりとした服を着た決闘の相手がいた。

「なぁ、ミライアとか言ったか?」

「...随分余裕そうね」

「せいぜい善戦するといい」

「ああそう。私も負けられないから容赦しないわよ」

「構わんさ。それから勝ったらその腕輪型の魔法具を貰うぞ」

「...!!」

 ミライアは仕込みを見抜かれ動揺を隠すことができなかった。声が激しかったのが幸いだったか。

「両者、位置につけ!」

 現れた仕切り役の女が声を上げる。騒いでいた観客は皆静まり、その様子を見る。

 お互いに定められた位置へつき、12mほど離れて向かい合う。

「始めぇーー!」

 少しの間を置いた後、女が声を張り上げた。

「《連火弾フレイムボールラッシュ》!!」

 ミライアは呪文名を叫びビルへと魔法を打ち込んだ。たちどころに炎の小さい弾が連続してビルへと襲っていく。ビルは棒立ちのまま薄ら笑いを隠すこと無くそれを受け止めた。

「直接受けたぞ!?」

「何がしたいんだ!?死ぬんじゃないか!?」

 煙が立ち上るがビルは一歩も動くこと無く、一切の外傷もなくそれを受け止めていた。

「火魔法か、悪くはないが...」

「《炎矢ブレイズアロー》!!」

「おおっ」

 ビルは受け止めて感想を述べていたところにまたもや火魔法を打ち込まれたので反射的に裏拳でそれを跳ね返した。

「いま話してんだろ?」

「嘘...」

「跳ね返したぞ!?」

「なんでだ!?ミライア様の魔法には結界貼ってたって貫通されるのがオチだぞ!?」

「デタラメだぞ...」

 騒然となる観客たちに加えミライアは焦燥していた。

「ま、火力不足に加えて魔法の階級が低いな。まったく効かん」

「なら...《炎纏》!!《飛刃》!!」

 飛ぶ刃がビルに迫る。それだけでなく炎を腕に纏わせてミライアは一気に距離を詰めて肉弾戦をしかけた。ビルは刃を動じること無く身体で受け止めさらに身体を低く構えミライアが迫ってきたタイミング、拳が届く寸前で左手を相手の腹に向けながらに魔法を発動させる。

「《抑風プレス》」

「うっ!」

 ミライアは押し込む風が腹に加わり大きく吹き飛ばされ転がる。風の余波で腕の炎はかき消され地面に転がる。

 ビルはそれを見て始めてその場から動き転がったミライア歩き始める。ミライアは何を悟ったかすぐにその場から飛び退る。

「舐めるなぁ!《道を開けろ、炎を通せ、何人も遮るものは焼き尽くせ、罪なるものを焼くために...炎征道ファイアーロード》!!」

 激しい炎がビルに向かっていく。それをビルは難なく身体で受け止め歩みを止めようとしない。ミライアはそれでも魔法の発動をやめようとしない。

「来るな!《天より来たりて地を焼き払え!落火槍バスターヴァーン》!!」

 上から炎が降ってくるがビルは上に掌を向けて炎を受け止める。

「こんなものか?」

「...《魔弾バレット》!!」

「《抑風プレス》」

 拳よりも少し大きい程度の何の属性も用いられていない魔弾がビルに当たるが直前で角度を調整していたビルは跳ね返った弾をミライアに向ける。更に風を加えて加速させる。防御の構えを取ることができなかったミライアの顔面に衝突し吹き飛ばす。

「啖呵を切った割には弱いな?その腕輪を持っていながらこの程度か」

「...」

「...その意気だ」

 再び歩み始めるビルの投げかけた言葉に反応したのかミライアは再び立ち上がる。しかし顔のみならず全身の大部分には擦り傷や砕けた床の粉があり鼻血も出ており加えて右腕は吹き飛ばされた際の衝撃をモロに喰らい折れて使い物になっていない。足もフラフラとしていて僅かな量の魔素も感じられない。それでもなお立ち上がろうとする姿にビルはその心意気を見て今まで気怠げだった目をどこか興味深そうな目へと変えた。

 そして観客席にいる者の全てに聞こえるように大声で宣言した。

「お前の度胸に敬意を示そう。...本気の魔法でいかせてもらおう」

「本気...」

「俺たち死ぬんじゃないか?明らかにヤバい威力が来るぞ!」

「逃げなきゃ!」

「おい通してくれよ!」

「平民は後でいいだろう!」

 我先にと逃げようとする観客たちの中で貴族共がより早く逃げようと試み、しかし鈍重なため他の平民と小競り合いを起こし始める。一方ある一団だけは彼が観客を巻き込むはずがないと見抜いて座ったまま話し合い始めた。

「凄まじいですね...あんなに炎熱魔術を受けても平然としていて...」

「しかもカウンターも凄まじいな?」

「風魔術は確かに発動が早いですがあの速度は普通では無いですよ。貴方やはりとんでもない方を連れてきたのでは?」

「でも遠距離攻撃を中々仕掛けようとしなかったわよ?近接系なのかしら」

「...来るぞ!」

 勇者は一言も話さなかったが今から起こる魔術の威力を測りかねていた。その事実に畏怖しながらその光景をまじまじと見ていた。

「《双嵐塵斬》」

 ビルは一言呟き踵を返して後ろに歩き始める。するとミライアが居る地点より少し離れた所に2つの小さな旋風が起こる。瞬く間に天まで登るほどの竜巻へと成長し2人のいた地点を巻き込みながらその速度を上げていく。闘技場の床は舞い上がると共に塵よりも小さく斬られ空へ舞い上がる。20秒ほど経って竜巻が収まった頃には闘技場の床は大きく抉り取られ底が見えなくなるほどの大穴を開けた。ビルは戦闘域と観客席の間にある壁の上に立ち、手には1つの綺羅びやかな腕輪を持っていた。

「......対戦継続不可!勝者...ビル・クリフト!」

 数秒の沈黙の後、仕切り役の女は声を張り上げた。

「なんだこの大穴...」

「ここまでやるのかよ...」

「喜びたいところだがこれは...」

「...なんでこんな奴がレヴェンに居なかったんだ?」

 どよめきが止まらない民衆や貴族が多いのは勿論だが明らかにショックを受けているのは学生達だろうか。

 ビルは声を張り上げて観客席に声を届かせる。

「見たか?学生共。学園などに閉じこもってないで各地を歩いてみるといい。魔術師でもあの女以上の存在はゴロゴロいるし色々面白いモノも見れるぞ」

「ゴロゴロ...」

「ミライア様を超えるって...」

「嘘......」

 さらにショックを受けた学生たちを放置して反対方向へと身体を向けてある一団の正面へと回る。そのまま観客席に降りて右端にいる男に声をかけた。

「決着は着いたぞ。勝算はある、と言っただろ」

「ああ、凄まじかった。宜しく頼む」

 勇者が差し出した左手をビルは同じく左手で握った。

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