全力疾走

 (厄介なことになった...)

 ビルはずっと頭が痛かった。

 (街の奴らに俺に会いに来たということを明かしたようなものじゃねぇか。しかも目撃情報まで集まってる。本当にどうしよう?)

 隙間道などを駆使しながら宿屋から全力で離れていく。幸いルクスの街はそこそこ広いのでバレる心配もない...はずなのだ。

 (普段と比べなんだか人の目が多いような気がするが聖女の噂がもう広まったか? 冒険者共の口と耳は早い...考えれば考えるほど状況は悪いな)

 そう考えながら恐らく来ないであろう海岸の方へ向かい、人ごみに紛れこみながら目的の場所へと向かっていった。

 海岸に近づくに連れて漁師と思しき人の集団や商談が纏まりつつあるのか非常に愉快そうに話し合いながら向かってくる商人と護衛の集団などが多くなっていった。彼らは港に停泊している船が目的のようだがビルの目的はそこから少し離れた桟橋にいる男に出会うことだった。

 いざその桟橋に着いてみるとやはりその男はそこで魚を釣っていた。

 「海岸釣りが楽しいか?チェスター」

 「うっせーよ。久々に会いに来たと思ったらいきなり皮肉かましやがって」

 「海竜に壊されたのか?」

 「俺ほどの奴がそれ以外のことでどうやって船を喪うんだ?全く...」

 「破産」

 「クソが...お前こそ急に来て何のようだ?海釣りが気になるのか?」

 「気になるわけじゃあ無いがちょっと用があってな。ここに居座らせてもらう」

 「じゃあお前も釣れよ?棒立ちじゃ寂しいだろ」

 「どっちに向けて言ったんだか」

 「なんか言ったか?」

 「いや、何も」

 ビルと軽口を交わしているのはチェスター・ドーバー。ビルの同期であり、ビルが責任者ギルドマスターと並んで信用している人物だ。

 「にしても本当に急だな。なんかトラブルでもあったか?」

 「歩く災害に出会したんでな。お前のとこに逃げようと思った」

 「マジかよ...それって誰だ?学生の新米冒険者とか言うなよ?生意気なのは普通なんだから」

 「そんなものしか考えつかないのか?まだ生易しいだろ。そんなもの勇者パーティの刺客に比べればまだマシだろ」

 「勇者パーティ?なんでお前に関わりがあるんだ?」

 「...海竜討伐の件が王都の方にまで届いたらしい」

 「あー...そういうことか、なるほどな。俺の所に来る理由もわかるな。ところでよ...」

 「ん?」

 急にチェスターは声を抑え、ビルにだけ聞こえるようなトーンで

 「...聖女様ってどんな人なんだ?実は来たとき依頼受けてて見れなかったんだよ」

 「どんな人?容姿のことか?」

 「そうだな」

 「概ね新聞に載っていた肖像画と変わらなかったぞ。転写魔法を使っているのだから当然といえば当然だが」

 「新聞を見せてくれないか?」

 「面倒だから嫌だ。会いに行ってみればどうだ?」

 「会いに行く、か。面倒だから嫌だな。ここに来てくれれば釣りもできるな」

 「何を言ってやがる?」

 チェスターは一息置くと街全体に聞こえるように叫び始めやがった。

 「海竜をソロ討伐したバケモノ魔術師が港に居るぞー!桟橋の辺りだー!あっちょっと待て!逃げた!逃げた!南のほうに逃げていったぞ!普段着てるローブはないぞ!」

(やりやがった。)

 心がさらに落ち込む中、ビルは身体強化ブースト・VIIを使い一瞬でその場から逃げる。気付かれまいと思ってVIIを選択したのだが流石に上位冒険者だけあってチェスターには方角がバレた。

 人と人の隙間を縫うように高速で道を抜けていく。

途中、道を横断するネコがおり、運悪く踏みかけてしまったため、ビルはタイミングよく直前で跳躍した。VIIのお陰で軽い跳躍でも5階ほどの高さまで飛び上がった。

のだが、如何せん全ての条件が悪かった。前に行くことだけを考えており、下をあまり見ていなかったため、一つの人の集団の中に着地する。そこだけは人がやけに少なくなっており瞬時に、着地に好都合である、と判断したのだった。

 着地した後前へ行こうとするが人が密集しすぎていて逃げられる場所もない。

 跳躍しようとした瞬間、不意に後ろから声を掛けられてしまった。

 「...ビルさん...ですか?」

 ...今朝会った聖女だった。

 横に居たギルドマスターはため息を吐き首を落とす。

 ビルは反対方向に逃げようとするが

 「急にどうしたんだい身体強化なんて使っちゃってさぁ」

 「どこ行くんだいビル君や」

などと言われながら身体を取り押さえられてしまった。

 流石に身体強化ブースト・VIIを使っている状態であれば振り払った瞬間相手に凄まじいダメージが入る。そうなれば余計に迷惑がかかる。

 ビルは大人しく身体強化ブースト・VIIを解除し、嫌悪感を隠そうともせずに

聖女に話しかけた。

 「...俺はビル・クリフト。確かに聖女の言う名で間違いはないが、急にルクスの街に来て何の用だ」

 「初めまして、ではないですね。今朝ぶりですねビルさん。私はレイ・リラードと申します。」

聖女はそんなことも気にせず、ビルの言葉に返答する。

そして、やはりと言うべきか

「少しお話する時間を頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

と言ってきた。

(面倒だな。やはり)

「...ギルドの会議室を借りるぞ。責任者ギルドマスター

「ああ」

 もはやただの聖女の取り巻きと化してしまったルクスの冒険者たちに圧力を掛けられ、断るわけにもいかずビルは話を承諾するしかなかった。

 ギルドマスターとビルは渋い顔をしながらギルドへと移動するのだった。


 数分後。

 楕円形のテーブルの短半径の対極に位置するように両者は座る。

 机の上には飲み干された簡易な細工の施されたグラスとまだ手がつけられていない水で満たされた同じ模様のグラスの2つが置かれているのみで、それ以外の荷物は全て其々の隣の椅子へと置かれていた。

 先に口を開いたのはビルではなく聖女だった。

 「...突然伺ってすみません。ビルさん」

 「そこは構わない。俺がルクスに居なかったせいでニュースを聞き漏らしただけのことだ」

 「そうですか...ルクスは始めて来ましたがいい街ですね、海もありますし、街並みも綺麗でした」

 「俺はルクスを統治しているわけでもなんでもないぞ?ましてや土地の貴族の顔も知らん...ただまあ俺が好きな街が綺麗だという話は好意的に受け取っておこう」

「それもそうですね。...土地の貴族かぁ」

 核心に触れるような話題は避け当たり障りのない会話をする。貴族について触れると聖女は何か嫌なものを思い出したような苦笑を浮かべる。

 (貴族共の申込みが激しいとかなんとか行っていたな。まあ俺に関わりはないことだが思い返せば聖女一人のこのこやってきたということは)

 ルクスに来た目的を推定する。

 (打診が激しくなったから欠員は居ない、と示したいのか?確認のためにも少し探りを入れるか)

 「勇者パーティもよほど忙しいらしいな?ルクスにも来るほどなのだから」

 「...ええ、皆さんのご厚意なので断るわけにもいかず...」

 (この娘、食えんぞ。面倒くさいをご厚意と言い換えた)

 そんなことを思いつつも、空になったグラスをビルを持ち両手の中で傾け、回し、或いは持ち替えたりと手持ち無沙汰になった手と指を考えごとのついでに動かし始める。

 やがて聖女はかなり攻めた話題を持ち出した。

「海竜を討伐なさったそうですね」

「だったら何だ?」

「いえ、ただどのような技術をお持ちなのか少し気になりまして...」

「単なる魔術に過ぎないぞ。魔王討伐にはなんら貢献できるものじゃあない」

(海竜討伐まで誤魔化すつもりはないが...さてどうしたものかな)

 海竜の件に触れられたビルは眉を寄せ少し思案した。

 一方聖女は諦めがついたのか遠回しな表現を避け始めた。

「少し露骨でしたか」

「まあな。だがこうなることは予測していた。昨日の夜の時点でな」

「そうだったんですね...しかし今僅かでも戦力が必要なんです。」

「魔王と何かあった、と?」

「はい。少し事情を聞いていただきたいのですが...」

 語調を変えて聖女は今に至る経緯を話し始めた。



______________________________________

 



「そして敗北した、と」

「はい。あの戦いでメンバーが必要だと思い知らされました」

 まるで嫌なことを思い出すかのように白状する。ビルは鞄からギルドの新聞を取り出し今朝読んだ記事を改めて見直す。

 そこには勇者と聖女のみならず弓使い、盾使い、探索者が加入した、という記載に加え彼らの模写と思われる顔が4つと目の前に居る少女と瓜二つの顔が一つ載っていた。

 「海竜討伐の報せを聞いた、勇者パーティの協力者を欲している、そこまでは理解できるが」

 一度ビルは言葉を切り、一息おいてから本心を述べる。

「俺が応じなければならん理由は何だ?」

 聖女はそれを聞いてすぐに答えた。

「...狩人心得をお忘れではないでしょう?『民の安寧と生活のために』。これが私の出せる答えです」

 端的な答え。

 しかしそれはビルの言い分を返す。

 目立ちたくないから、などという理由では覆せない。ビルが狩人になった時点でそれは既に誓われている。いくら本人の意向があって情報が秘匿されたとしても海竜を討伐できる者の存在が認知された時に突如狩人をやめようものならその危険性より討伐指定が下される。

 追われるか。闘うか。聖女が訪れた時点で、或いは出会した時点でその結果は決していたのだ。

 ビルはやっと落ち着いた暮らしが出来ると夢見た矢先の出来事に改めて落胆する。

 そして観念し聖女に再び話しかける。

 「...。勇者は今どこに?」

 「アーヴァン王国首都、レヴェンに居ますよ」

 「そうか」

 「?...なんだか楽しそうですけれど...なにかありました?」

 ...それに逃れるよりも闘うことのほうが彼にとっては性にあっていた。

 ビルは何故魔術の技術を磨いてきたのか?

 ビルは何故自らを秘匿しようとするのか?

 その答えは単純明快。

 ビルは未だ加護を授かる時より前の子供の頃に抱いた夢を忘れてはいない。

 誰よりも強い存在になる。どんな種族であろうと、どんな異形のものであろうと、自らが降す。

 そのために魔術を磨く。その魔術を奪われないために秘匿する。

 そして強者に挑み続ける。

 ビルはある種戦闘狂だ。そしてある種研究家でもあった。

 その興味は目の前にいる聖女の力に向けられた。

 未だ全盛ではないながらも保有するその莫大なエネルギー。しかも新聞等に堂々と勇者が率いるあたり、勇者のほうが強いと見える。

 ビルが動くにはそれだけの理由で十分だった。

 「いや、なにも。俺も少し用事があるんでな。3日後。3日後に俺はルクスを発つ」

 「!...ありがとうございます。では私は先に行って勇者と合流していますね」

 「了承した」

 そうして対談は聖女に言い包められる形で終わったのだった。


(さて。いくつか用事を済ませるとしよう)

 突如決まってしまった長い旅について今更驚きは無かった。ルクスに聖女が訪れた事を知らずにのこのこ悪夢の森から出てきた時点でそうなってしまうだろうという予感はしていたからだ。

 また聖女との対談は少し自分も臨んでいた節があった。少しばかりの不審な点が見つかったからだ。

 一人ぽつねんと残っていた会議室から出る。するとドアのすぐ横で待っていた責任者ギルドマスターに声をかけられた。

「...話し合いは終わったんだな」

「まあな」

「会議室に入るぞ」

 責任者ギルドマスターはそう言うと会議室に入り、椅子に腰掛けることなく壁にもたれかかったまま暗い表情をして悩んでいた。

 口を開いた時には責任者ギルドマスターが会議室のドアを閉めてから15分ほど経過していた。

 「...正直お前がルクスから離れるのは悪すぎる。いくら勇者の戦力が多くなるとはいえルクスが平常通りに回るはずがない」

 「抵抗は試みたぞ?だがな」

 「今日狩人心得を初めて恨んだぞ」

 「おいおい責任者ギルドマスターがそんなこと言ったらマズイだろ?新人に悪影響だ」

 「...その新人に教えられる奴が一人減るんだ。大事件以外の何物でもない。ただでさえ少ないルクスの実力者で新人を教えられる奴なんて俺とビル以外の誰が居た?」

 「そりゃ大変だな」

 「お前は楽観視しすぎているぞ...お前が居なくなるせいで起こる素材不足と新人教育じゃ全く違うぞ。いいか?悪夢の森は進めば進むほどモンスターだけじゃねぇ、地形や気候も厳しくなっていく。他の危険地帯もそうなんだろうが危険度のレベルの上がり方が他の何処をも上回る。当然初級依頼から上級依頼までが出揃うが...」

 「『新人は初級依頼に夢中になるあまり深入りしすぎる。それ故に途方もない数の新人狩人が命を落とす。だから教育がより厳重でなきゃならん』だろ?お前一人で何とか回せるだろあの人数なら」

 「...言っておくが本来魔術が通用しないはずのその辺の木を切って魔術をかけて空から新人の動きを監視して、危険度が高ぇ魔物に魔術を放ってぶっ倒すなんて芸当はできねぇんだぞ?」

 「そうかもしれんな」

 「そうだぞ。それに魔術遺跡ダンジョンでの研修は危険度が高すぎて本来出来ん。上級の奴らがやったって命が何個落ちることやら...」

 「チェスター呼べばいいだろ?」

 「アイツ命令聞かない。新人苦手。人見知り。」

 「そうだったな」

 「...新人研修がまるで上手くいかなくなるだけじゃない。もっと心配してんのは...」

 ルクスの行く末を案じ始めた責任者ギルドマスターが言葉を詰まらせた時に不意にドアが空いて一人の男が入ってきた。ドアを閉める素振りも見せずビルの隣に座りニヤニヤしている。そんなが来た。

 「...チェスター、何の用だ?」

 責任者ギルドマスターはそう呟き、その男に目をやる。

 「聖女様が何処いったか知らねぇか?ビル、アックス」

 「その聖女のせいでアックスの眉間の皮膚がジジイみたいになっていっているぞ?」

 「なんかあったっぽいな?」

 「...ビルがルクスを去って勇者パーティに入ることになった」

 「...なんだと?」

はっちゃけた雰囲気を即刻鎮めるとチェスターは事情を聞き始めた。


______________________________________


 「それだいぶヤバいんじゃねぇの?悪夢の森の魔物が暴走したらどうする気だ?お前が見張ってたから動かなかったんだろ?あの辺りの大地龍どもを筆頭に随分マズイのがいるぞ...動けば、集落一つ土に還るレベルの奴らがな」

 最大の懸念点をチェスターが指摘する。

 「かもしれんな。だからこそそれらの仕事を3日以内に片付けに行く」

 「3日か...手伝うか?久々に」

 「いやそれに関しては要らないな」

 「?何が言いてぇんだ?ビル」

 そう聞かれるとビルはアックスの方を見やりながら訊ねた。

 「責任者ギルドマスター、海竜の情報を王都に流したか?」

 「...いや、流していない。海竜が出現したときからそんな情報は流していないぞ」

 「なら何故海竜の件を知っていたんだろうな?聖女は」

 「怪しいやつならいるな...呼ぶか。カリベク伯爵を」

 「あのバカを呼ぶ気か?」

 「犯人はアイツだろう」

 「海竜の件知ってたから聖女が来てくれたんじゃねぇか...」

 「そのせいでルクスが大変なことになるんだぞチェスター。それよりも会いに行かなくて良いのか?今頃は...」

 「多分レヴェンへの道だな」

 「マジかよ!?なんで行っちゃったんだ!?」

 「俺が先行っていいって言ったせいだな」

 「お前なぁ...」

 「他人を売った罰を存分に受けるんだな」

 「クソぉ...」

 そういって歯噛みしながらチェスターは机に突っ伏した。



 30分後。

「遅いな...」

「遅すぎんだろ...」

 アックスがギルドを発ってカリベク伯爵の屋敷に向かいその趣旨を伝え迎えに行っているのだが、如何せん遅すぎる。

 「俺らも行くか?」

 「悪くないかもしれん」

 そんなことを行っていたら突如ギルドが騒々しくなった。

 会議室から2人揃って顔を出して除いてみれば、ついこの間の貴族がアックスと非常に偉そうに話していた。

 「来やがったなカリベクの野郎ォ...」

 「どうした?そんな怒って」

 「アイツだろ!大地龍泥棒は」

 「アイツかよ...」

 昔、アックスがまだ現役だった頃、3人で協力してなんとか侵攻しようとした大地龍を仕留めた。それをギルドに持っていったのだが、貴族らしきオッサンがそれを眺めていて誰も近付けさせなかったのだ。

 そればかりかソイツはその死体が綺麗だというので取れたはずの素材を全て無駄にする像を作らせ市場に売っぱらったのだ。それはまあ高い値段で取引されたらしい。

 怒ってアックスが当時のギルドマスター責任者に抗議しに行ったのだが取り合ってもらえなかった。実は彼はカリベク伯爵の後援を受けてその職に付いた無能だった。

(アイツ、二度も俺の前であんな真似をしやがったのか。)

 「ふん、下民どもめ...会議室に行けばいいんだろ」

 突然話は終わり、責任者ギルドマスターが先行しカリベクを案内してくる。...後ろのガキと同時に、だが。

 2人は急いでドアを閉め元の位置に戻る。

 数秒してドアが開けられ、責任者ギルドマスター含む3人が入ってきた。

 内2人はビルの姿を目に入れるやいなや震え始めたが。

 「...質問に答えてもらおう」

 「答える価値が_____ヒィィッ!?」

 「待て待てビル。待て、ステイだ。右手をカリベクに向けるな。何もするな。そうだ、オーケー」

(いかんいかん、反射的に魔法を使いかけたぞ...ああそうか、海竜の時反射的に使ったのは本能的に覚えていたからだったのか)

 妙なことにビルは納得しつつ、右手を机の上に戻す。

 「なぜ海竜の件を話した?」

 チェスターが何時になく真剣な面持ちで尋ねる。

 「何故だと?もとより海竜の情報を教えてやって勇者を招くはずだった私の計画を邪魔したのはお前達だろう!!」

(計画?なんかどす黒いな...)

 「だから口止めを食らったのか」

 責任者ギルドマスターもその真意が聞けて1人勝手に納得していた。

 「それに海竜の死体だって売れたはずだったのに!結局勇者に恩を着せる程度のことしかでき_____」

 「...そうだったんですか」

 誰も気付かない内にいた聖女がそう声を発する。

(聖女?何時の間に...)

 「聖女様、何故ここに?」

 「私、いや、勇者パーティもこの件には関係していますので」

アックスの問いに先程まで真顔そのものだった聖女が表情を僅かに微笑みながら答える。黒いオーラが出ていると形容するのが適切だろうか。

 「...なーんかイラついてきたな」

 「同感だ」

 「2人ともちょっと待て。チェスターは腰に伸ばした両手を降ろせ。ビルは...両手?危なすぎるだろ。下げろ」

 「ぶっ飛ばすぐらいなら良いだろ?」

 「話を聞け...」

 「パパ、何するの、ねぇ、ねぇ!」

 仲間で争っている間に、汚い大人カリベクは子供を前に押し出すようにして、自分は会議室の出口に近づいていった。

 丸々太った子供は抵抗を試みるが無言で冷や汗が止まらないカリベクに押し出され何もできない。

(見苦しいな、片付けるか)

 「《小痺ショック》」

 2人纏めて電気をくらい、その場に倒れる。

 「これで解決だな」

 「...ボコボコにしていいと思うか?ビル」

 「良いんじゃないか?」

 「だめだろう。取り敢えずそれは外の馬車に乗せておけ」

 「馬車ぁ?だからあんな遅かったのかよ」

 などと散々言い合いながらアックスの指示に従い3人揃って引きずっていく。

 「...ルクスって大変ですね」

 1人会議室に残された聖女はそんなことを呟いた。

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