第37話 監視


 それと同じ頃、ルイスはマクリーン家の屋敷の前の路地にいた。


 白い石畳で舗装された道路に、整然と建ち並ぶ家々。そこを行き交う馬車や人々。

 それに紛れるようにして――ルイスは壁に背をもたれながら、監視するような視線をマクリーン家の屋敷に向けていた。


「そろそろ頃合いでしょうか」


 懐から懐中時計を取り出し時刻を確認すれば、午前九時半を回っている。


 ルイスはここアルデバランに着いてまもなく、アメリアが運び込まれた屋敷を特定し、そして文字どおり一晩中監視していた。


 昨夜この屋敷を出入りしたのは一人の街医者のみである。それ以降は何の動きもない。

 それが意味するものは即ち、アメリアには大きな怪我がないということ。


 そしてまたルイスは、今この屋敷にいるのが、主人レイモンド・マクリーンの次男であるライオネル・マクリーンと使用人のみという情報を得ていた。マクリーン夫妻は休暇で旅行中、ライオネルの兄は既に家庭を持ち王都に移り住んでいるという話だ。


 ライオネルはまだ騎士養成学校を卒業したばかりの一八歳。辺りの住民によれば、明るくて利発、心の優しい青年であるということだった。


 ――一瞬、ルイスの側から人通りが無くなる。

 するとそれを待っていたかのように一羽の白いふくろうが舞い降りた。その羽ばたきがルイスの黒い髪を揺らす。


 梟はルイスの左腕にとまり眩しそうに目を細めた。その足には細く巻かれた手紙がくくりつけられている。

 これはルイスがウィリアムに昨夜のうちに送っていた、アメリアの居場所を伝えた手紙の返事に違いなかった。


 ルイスは梟の足からその手紙を外す。

 中にはこう書かれていた。


《こちらは何も問題ない。伯爵は待ってくれるそうだ。私の名を出せ。彼女の無事をその目で確認次第、すぐに連絡をよこすこと ―W―》


 それを読み終えたルイスは、薄く笑う。

 右手でぐしゃりと手紙を握り潰し――証拠隠滅と言わんばかりに――破り捨てた。


「上で待っていろ」


 ルイスが左腕を上げる。それを合図に梟が再び空に舞い戻っていった。


 そうして梟の姿が遠くなるのを確認すると、ルイスはアメリアに接触すべく、屋敷の門を叩いた。

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