第15話 双子の追憶――アメリアとの出会い


 とある伯爵家で催された舞踏会。寄宿学校パブリックスクールを卒業したばかりの二人は、父親に命じられるがままその舞踏会に参加した。両親と兄のクリスは別の晩餐会に参加していて、その日は二人きりだった。


 だがまだ舞踏会に慣れていない二人にとって、それは決して楽しいものではなかった。プレッシャーもあったし、気の抜き具合もわからなかったからだ。


 二人にとっての舞踏会とは、大人に混じって会話して、ダンスして……ただ退屈なだけの集まり。参加する意味も意義もわからない。

 けれどそれが貴族としての務めと言われれば仕方ない。

 適当に相槌あいづちを打ち、愛想笑いを浮かべ、レディのご機嫌をうかがって――彼らはただひたすら時間が過ぎ去るのを待っていた。


 けれど――そんなときだった。二人がふと会場の隅を見れば、そこに年頃の美しい少女がたった一人で立っている姿が目に入る。


「なぁ、ブライアン。彼女、誰か知ってるか?」

「……いや、知らない。が、なかなかの美人だ」


 金糸のようにまばゆい髪、サファイアのごとく青く透きとおった瞳、雪のように白い肌――そして何より、誰も寄せ付けないその凛としたオーラ。

 追われるよりは追いかけることを好む二人は、自然と彼女に心惹かれた。気の強そうなあの眼差しには何か面白いことを引き起こしてくれるような――そんな期待を感じさせる魅力があった。


「こんばんは、レディ。ダンスはお好きですか?」

「もしよろしければ、私と一曲踊っていただけませんか?」


 二人はなるべく紳士を演じる。

 けれど少女は彼らをほんの一瞬見ただけで、すぐに視線を逸らしてしまう。


「わたくしは誰とも踊りません」

「――ッ」


 二人はそのあまりにもきっぱりとした拒絶に驚き、口をつぐんだ。

 普通ダンスの申し出を断るときは、もっと回りくどい言い回しをするものだ。こんな直球な断り方、されたことがない。


 けれど彼らは彼女のそっけない態度に、一層興味をそそられた。好奇心を強く刺激された。その日の舞踏会が特に退屈だったからという理由もあったのかもしれない。


「ダンスがお嫌いでしたら、私たちとお話ししましょう」

「お名前を伺ってもよろしいですか?」


 二人は無礼と知っていながら、少女の前に立ちふさがる。

 すると当然、少女は不快感を露わにした。


「わたくしの前に立たないでくださる? 話すことなど何もありませんわ」


 眉をひそめ、ピシャリと言い放つ少女。――だが二人は諦めない。


「そんな冷たいことを仰らないでください。私はエドワード・スペンサーと申します。そしてこちらが――」

「エドワードの弟のブライアンです。以後、お見知りおきを」


 ――しかし彼らのアピールも虚しく、少女は沈黙を通し続ける。これは全くの脈なしだろうか。


「あの……レディ?」


 ダメ押ししてみるが、やはり反応はない。――さすがの二人も諦めかけた。そのときだ。


 目の前の少女の瞼が、ほんの一瞬だけ見開いた。それはとても驚いた様子で。


 ――何か、見ている?


 二人は彼女の視線を追う。するとそこには、大勢のレディに囲まれている見知った男の姿があった。


「――エドワード様」

「は、はい」

「あの方、どなたかご存知?」


 あの方、というのが、レディたちに囲まれているあの男であることに、エドワードはすぐに気が付いた。そして同時にとても残念に思った。ああ、つまらない――と。

 ――結局女ってのは、皆ああいう男に弱いんだ。彼は内心ため息をつく。


「ウィンチェスター侯爵家のウィリアムだよ。ウィリアム・セシル。俺たちのいとこ」


 エドワードに続いてブライアンも、どこか投げやりな口調で続ける。


「確かにウィリアムは顔も頭もいい。寄宿学校パブリックスクールじゃ監督生プリフェクトだったしな。君もああいう男が好みか」


 少ししゃくだが、ウィリアム相手では勝ち目はない。そう考えた二人はその場から立ち去ろうとした。


 けれど少女は何を思ったのか、そんな二人を呼び止める。


「お待ちになって。わたくし、アメリア・サウスウェルと申しますの。少し、わたくしの話し相手になってくださらない?」


 少女――アメリアはそう言って、小さく微笑んでみせた。

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