翡翠の卵

 怪物から逃げる時、碧色の卵を置いていった。


 硬くて重い翡翠の卵を、君に。




 君を見捨てて逃げた僕は、君を迎えに行きたくて、イタドリの陰から君を見ていた。


 君は不定形の怪物を背負って一人喘いでいた。


 僕は君を呼んだけれど、君は一瞥をくれただけで、怪物をしっかり背負い直した。


 君がずっとそうしてきたのは知っている。


 僕らが出会うよりずっと前から、君は怪物と生きてきたんだ。


 引き離そうと目論む僕に、怪物は触手を広げて威嚇する。


 触手は僕の心臓を掴んでいる。


 僕が諦めるまでじわじわ握り潰す。




 僕の卵に君は気付いてくれただろうか。


 僕の魂の欠片に。


 怪物の餌にすることなく、隠し持ってくれているのだろうか。


 兜の下の君の顔は、僕にはもうわからない。




 もしも君が卵を抱いて温めていてくれたなら、脆くて暖かい何かが孵るだろう。


 怪物の手を退けて守り育ててくれたなら、怪物を溶かす熱源になるだろう。


 それはもういない僕の祈り、君に託す僕の残滓。

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